条文
第二条 三 実演 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。
定義
実演の対象
本号は、実演家の権利で保護される「実演」の定義に関するものです。
実演とは、原則として著作物を演ずることです。
ただし、本号のかっこ書きから「これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。」とあります。
これは、実演家の権利の範囲を定義し、法的保護の枠組みを明確にするために重要です。
著作物を演じる実演
実演の対象の1つ目は、著作物を演ずることであります。
本号に列挙されている行為を見ると、 舞台上で演劇など著作物を演じるこ と、ダンスなど舞踊の著作物を舞ったり踊ったりすること、音楽の著作物を演奏したり歌ったりすること、落語などを口演すること、和歌や俳句などを朗詠ることなどが実演に当たると理解できるでしょう。
また実演の中でも被りがちな口演と口述の違いについて触れます。
口述とは「朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること(実演に該当するものを除く。)」(本条 十八)と定義されており、実演は除いています。
口演はただ朗読するだけではなく実演の要素、読む人が演技をこめる必要があるのでしょう。
そのため同じ言語の著作物の内容を口頭で伝達するにしても 「朗読会」などは口述に該当し、「落語」などは口演に該当すると区分できます。
また「演奏」に関しては本条7より「「上演」、「演奏」又は「口述」には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され、又は録画されたものを再生すること(公衆送信又は上映に該当するものを除く。)及び著作物の上演、演奏又は口述を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く。)を含むものとする。」とありますので
「演奏」は著作物の演奏で録音され、またはは録画されたものを再生することと著作物の演奏を電気通信設備を用いて伝達することも指します。
著作物を演じない実演
実演の対象の1つ目は、著作物を演ずることに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含むものであります。
これに該当する行為は文化庁のテキストによると
著作物以外のものを演じる場合で芸能的な性質を有するものとは、具体的には、奇術、曲芸、手品、ものまねなどのことです。アクロバットショーやアイススケートショーのように「観客向け」のショーとして行われるものは実演になります。
文化庁著作権課『令和5年度著作権テキスト』 (2023)。
ファッションショーについては
「各モデルの上記ポーズ又は動作は,そもそも応用美術の問題ではなく,ファッションショーにおけるポーズ又は動作が著作物として保護されるかどうかとの問題である。しかし,これらのポーズ又は動作は,ファッションショーにおけるモデルのポーズ又は動作として特段目新しいものではないというべきであり,上記ポーズ又は動作において,作成者の個性が表現として表れているものとは認められない。したがって,これらのポーズ又は動作の振り付けに著作物性は認められない。また,同様の理由で,これを舞踊の著作物と解することもできない。」
(知財高判平成26年8月28日判時 2238号91頁 〔ファッションショー事件〕)
「モデルが上記動作やポーズを取ることは,「著作物を・・・演ずる」ことに当たらず,「実演」には当たらない。」
テクノロジーの発展によって、私たちが普段目にしているものも実演に該当する可能性もあります。例えば、eスポーツに関しては「eスポーツとの関係においては,視聴者を魅了する技術をもって操作されるゲームのプレイ映像に関して,二次的著作物としての保護だけでなく,そもそも実演家としての著作権法上の保護を及ぼすべきであるという議論が生じることは,まったく不自然ではない。」(著作権を含む eスポーツの法的課題の論点整理,高木智宏,松本祐輝)などの議論も挙がっている
また、デジタル技術の発展により、Vtuberなどのデジタルキャラクターが歌唱、演奏、ダンス等を行っている動画や配信などを度々見かけます。そこでは、モーションキャプチャーやMV等を始めとしてデジタルキャラクターのダンスとして表現されたりしているが、これも「実演」とする可能性もおおいにあるでしょう。
「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」(しぐれうい(9さい))の素晴らしい振り付けを元にしたしぐれうい(9さい)のキッレキッレのダンス(モーション)も著作権法上の「実演」に含まれる日が来るかもしれません。
(しぐれうい. (2023/9/10). 【オリジナル楽曲】粛聖!! ロリ神レクイエム☆ / しぐれうい(9さい). YouTube. https://www.youtube.com/watch?v=Ci_zad39Uhw)
参考資料
条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日
標準著作権法第5版(高林龍、有斐閣、2022年12月28日)
著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)