著作権法第2条七の二 公衆送信

条文

第二条 七の二 公衆送信 公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。

定義

公衆送信の定義

本号では、「公衆送信権」という著作権法の支分権の一つを定義しています。平成9年の法改正前には、放送権と有線送信権がこの範疇に含まれていましたが、インターネットの普及と共に、これらの概念を拡張する必要が出てきました。その結果、無線、有線に関わらず、公衆の要求に基づいて行われるインタラクティブな送信 (公衆からの求めに応じて送信される形態の送信)も権利の対象となりました。公衆送信は公衆によつて直接受信されることを目的とする送信行為であり、具体的には放送、有線放送、公衆からの求めに応じ自動的に行われる送信 が該当し、などがこれに含まれ、加えて、メールやファクシミリを通じた送信も、公衆に受信される場合にはこの権利の範囲内に入ります。

公衆によつて直接受信されることを目的として

著作権法には、公衆についての明確な定義は設けられていませんが、「特定かつ多数」という概念が公衆には含まれると解釈されています。これにより、不特定多数の受信者を対象とする送信行為はもちろん、特定の受信者であっても、その数が多い場合には公衆に当たると考えられています。したがって、多くの人々に受信されることを意図した送信は、この要件を満たすとされています。

「公衆送信は送信の主体からみて公衆によって直接受信されることを目的とする送信をいう」

最高裁平成23年1月 18日第三小法廷判決〔まねきTV事件:上告審〕

「一般に、放送番組に係る音及び影像を複製し、あるいは放送番組を公衆送信・送信可能化する主体とは、実際に複製行為をし、公衆送信・送信可能化行為をする者を指すところ、前記認定事実によれば、控訴人商品における複製(録画)や公衆送信・送信可能化自体は、サーバーに組み込まれたプログラムが自動的に実行するものではあるが、これらはいずれも使用者からの指示信号に基づいて機能するものであるから、上記指示信号を発する入居者が実際に複製行為、公衆送信・送信可能化行為をするものであり、したがって、少なくとも、その主体はいずれも、現実にコントローラーを操作する各居室の入居者ということができる。
 しかし、現実の複製、公衆送信・送信可能化行為をしない者であっても、その過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けている等の場合には、その者も、複製行為、公衆送信・送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ、その結果、複製行為、公衆送信・送信可能化行為の主体と評価し得るものと解される。」

(大阪高判平成19年6月14日判時1991号122頁〔選撮見録 事件: 控訴審〕)

「そして,本件サービスは,前記1(1)認定のとおり,インターネット接続環境を有するパソコンと携帯電話(ただし,当面は au WIN端末のみ)を有するユーザが所定の会員登録を済ませれば,誰でも利用することができるものであり,原告がインターネットで会員登録をするユーザを予め選別したり,選択したりすることはない。「公衆」とは,不特定の者又は特定多数の者をいうものであるところ(著作権法2条5項参照),ユーザは,その意味において,本件サーバを設置する原告にとって不特定の者というべきである。よって,本件サーバからユーザの携帯電話に向けての音源データの3G2ファイルの送信は,公衆たるユーザからの求めに応じ,ユーザによって直接受信されることを目的として自動的に行われるものであり,自動公衆送信(同法2条1項9号の4)ということができる。」

(東京地判平成19年5月25日判時1979号100頁 [MYUTA事件〕)

「本件デジタルデータが保存されたサーバは,SVD の準備作業を行っていた,被告の担当者4人のコンピュータ端末との関係においてサーバ機能を有するにすぎず,他の被告社員の個々のコンピュータ端末から閲覧することはできなかったのであって,上記担当者4人は,特定かつ少数であり,特定かつ多数の者を含む「公衆」(著作権法2条5項)には該当しないから,他の要件について検討するまでもなく,上記行為は,送信可能化には当たらず,これによる送信可能化権の侵害は認められない。」

(東京地判平成19年5月30日判タ1255号328頁 〔サライ掲載写真事件〕)

この号では、公衆送信権に関して、公衆によつて受信されることを目的とすることを要件としています。このため、送信行為が現実に不特定または多数の者に受信されるかどうかは必ずしも問題ではなく、不特定または多数の者が受信可能な状態であれば、その要件を満たします。さらに、「直接」受信されることも要件とされています。これは、情報が特定の少数者を経由して最終的に公衆に届く場合、最初の送信行為は公衆送信とはみなされません。例えば、キー局がローカル局に番組データを送信し、ローカル局がそれを公衆に送信するケースでは、キー局の送信は公衆送信には当たらないとされます。ただし、この判断は、キー局とローカル局が独立した送信主体であることが前提であり、通信設備を介するすべてのケースで「直接」の要件が満たされないわけではないことに注意が必要です。

無線通信又は有線電気通信の送信

公衆送信は、電磁的手段を用いた電気通信によって情報が伝えられる送信を指します。これには、無線通信(電波などを使用)や有線通信(ケーブルを使用)の両方が含まれます。現代の通信ネットワークは、しばしば有線と無線の両方を組み合わせて構築されているため、どちらも公衆送信の範疇に入ります。このため、本号において無線と有線を区別することには実質的な意義はありません。無線でも有線でも、公衆送信の定義に当てはまる場合、それは公衆送信とみなされるのです

公衆送信に該当しない行為

以下の①②を満たす場合には、公衆送信から除外されます。ただし、③:プ ログラムの著作物を送信する場合は、①②の要件を満しても除外されず、 公衆送信に該当します。

①:電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内

公衆に受信される送信でも、特定の要件に基づいて、同一の構内にある電気通信設備間で行われる送信は公衆送信から除外されています。これは、上演、演奏、上映、口述などの他の表現形態との区別を明確にするためです。例えば、コンサート会場でステージ上の演奏の音声や映像を会場内のスピーカーやスクリーンに送信し、聴衆に届ける場合、これは同一構内の電気通信設備を使用するものとみなされ、公衆送信には含まれません。これは演奏や上映として扱われます。

「構内」とは通常、一つの建物や敷地内、または用途上密接に関連する複数の建物がある土地の範囲を指します。同一の建物内や関連する建物群内で限定された送信の場合、それは公衆送信から除外されます。この除外の目的が無形的な表現行為との区分けにある場合、受信地点が遠く離れていると、同一構内とは見なされない可能性があります。

「公衆送信権侵害につき⑴ 本件LANシステム は, 社会保険庁内部部局,施設等機関,地方社会保険事 務局及び社会保険事務所をネットワークで接続するネットワークシステムであり (前提となる事実),その一つ の部分の設置の場所が, 他の部分の設置の場所と同一の構内に限定されていない電気通信設備に該当する。 したがって, 社会保険庁職員が, 平成19年3月 19 日から同 年4月 16 日の間に,社会保険庁職員が利用する電気通信回線に接続している本件LANシステムの本件掲示板用の記録媒体に, 本件著作物1ないし 4を順次記録した行為(本件記録行為) は,本件著作物を,公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことを可能化したもので, X が専有する本件著作物の公衆送信(自動公衆送信の場合 における送信可能化を含む。) を行う権利を侵害するものである」

(東京地判平成20年2月26日平19 (ワ) 15231号〔社保庁LAN事件])

②:同一の者の占有に属する区域内

同一構内で行われる送信が公衆送信から除外されるのは、その構内が同一の個人または組織によって占有されている場合に限られます。異なる個人や組織によって占有されている区域間で行われる送信は、たとえそれが同一構内であっても公衆送信に該当します。この区分けの理由は、占有者が異なる場合、利用される主体も異なるとみなされるからです。つまり、同一構内であっても、占有する者が異なれば、それぞれの占有区域間の送信は公衆送信として扱われるということになります。

「著作権法における公衆送信の定義においては、有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内にあるものによる送信を除くこととされているが、その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域を単位として上記の「同一の構内にある」か否かを判断することとされており、その結果、同一の建物でも、その内部が区分され、占有者を異にする区域が複数存在する場合には、その建物の中で「公衆送信」がされ得ることとされている。」

(大阪高判平成19年6月14日判時1991号122頁〔選撮見録 事件: 控訴審〕)

③:プログラムの著作物の送信を除く

プログラムの著作物の場合、たとえ同一者が占有する同一構内での送信であっても、これは公衆送信に当たるとみなされます。これは、プログラムの著作物が演奏などの無形的提示行為によって利用されることが少なく、他の利用形態と区別する必要が低いためです。また、ホストコンピューターにプログラムの複製を保存し、同一構内のネットワークを介して各端末でプログラムを受信・使用する場合、プログラムの権利者の経済的利益に大きく害する可能性が高いと考えられています。したがって、プログラムの著作物に関しては、他の著作物とは異なる取り扱いがなされるので

参考資料

条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日

標準著作権法第5版(高林龍、有斐閣、2022年12月28日)

著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)

文化庁「令和5年度著作権テキスト」

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