著作権法第百十九条 著作権等侵害罪

条文

第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第二項、第三項若しくは第六項から第八項までの規定により著作権、出版権若しくは著作隣接権(同項の規定による場合にあつては、同条第九項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第五号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第十項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第六号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 著作者人格権又は実演家人格権を侵害した者(第百十三条第八項の規定により著作者人格権又は実演家人格権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)

二 営利を目的として、第三十条第一項第一号に規定する自動複製機器を著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となる著作物又は実演等の複製に使用させた者

三 第百十三条第一項の規定により著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者

四 侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等の公衆への提示を行つた者(当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等と侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等以外の相当数のウェブサイト等(第百十三条第四項に規定するウェブサイト等をいう。以下この号及び次号において同じ。)とを包括しているウェブサイト等において、単に当該公衆への提示の機会を提供したに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等において提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していたことその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)

五 侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等を行つた者(当該公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等とそれ以外の相当数のウェブサイト等とを包括しているウェブサイト等又は当該侵害著作物等利用容易化プログラム及び侵害著作物等利用容易化プログラム以外の相当数のプログラムの公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等において、単に当該侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等の機会を提供したに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化プログラムにより提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していたことその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)

六 第百十三条第五項の規定により著作権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者

3 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、録音録画有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)又は著作隣接権を侵害する送信可能化(国外で行われる送信可能化であつて、国内で行われたとしたならば著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)に係る自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(以下この号及び次項において「有償著作物等特定侵害録音録画」という。)を、自ら有償著作物等特定侵害録音録画であることを知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者

二 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、著作物(著作権の目的となつているものに限る。以下この号において同じ。)であつて有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権を侵害しないものに限る。)の著作権(第二十八条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。以下この号及び第五項において同じ。)を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(当該著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び第五項において「有償著作物特定侵害複製」という。)を、自ら有償著作物特定侵害複製であることを知りながら行つて著作権を侵害する行為(当該著作物の種類及び用途並びに当該有償著作物特定侵害複製の態様に照らし著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く。)を継続的に又は反復して行つた者

4 前項第一号に掲げる者には、有償著作物等特定侵害録音録画を、自ら有償著作物等特定侵害録音録画であることを重大な過失により知らないで行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者を含むものと解釈してはならない。 5 第三項第二号に掲げる者には、有償著作物特定侵害複製を、自ら有償著作物特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行つて著作権を侵害する行為を継続的に又は反復して行つた者を含むものと解釈してはならない。

※著作権法第119条に見出しは無いので

便宜上中山信弘『著作権法(第4版)』から取って「著作権等侵害罪」という名称を記事名に付けました。

119条1項の罪

 本条1項は著作権、出版権または著作隣接権を侵害した者(後述の通り一定の者を除く) を十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、またはこれを併科すると規定している。併科は悪質な著作権侵害であって懲役刑がふさわしいような事例でも、ほとんどの場合、執行猶予が付されてしまい、執行猶予期間さえすごせば特段なんらの刑も科されないことになるという、いわば「損害し得」の状況を是正するため、罰金刑と懲役刑の両方を科せるとするものであります。(加戸守行,938-39頁)これは有体物の窃取を取り扱う刑法第235条窃盗罪の罰則「10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。」よりも重いものです。ただし、本項は著作者人格権の侵害については処罰の対象になっていません。

1項の処罰の対象外

私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者

 30条1項(102条1項より著作隣接権も準用されます)で定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは著作隣接権の場合に実演等の複製を行つた者は30条の1項1号~4号に該当する場合には権利制限の対象外になりますが、その場合でも本条1項の処罰の対象外です。

 昭和59年の同条の改正により、私的使用目的の複製であっても、公衆に使用されるために設置された自動複製機器を用いてする場合には著作権の侵害として民事上の責任を問い得ることとしたわけでございますが、複製機器提供者は別として、個々人の行う複製行為自体は刑事罰を科するほど悪質な行為とは言えないとの判断に立って、次項の自動複製機器共用者に対する罰則を設ける一方、私的複製を行った個々人には罰則を適用しないこととしたものであります。(加戸940頁)

 ただし、30条1項3号または4号に該当する行為については一部本条3項によって処罰の対象となります。

みなし侵害を行ったもの

 113条のみなし侵害に該当する行為を行ったものは本条1項の対象外になります。

119条2項の罪

本条2項に該当する者は5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。として1項よりも刑が軽いものになります。

本条2項の対象者

著作者人格権または実演家人格権を侵害した者(1号)

 著作者人格権または実演家人格権を侵害した者は本条2項の対象になります。ただし、113条8項のみなし侵害該当行為を行った者は該当しません。

自動複製機器を使用させた者(2号)

 本条1項では30条1項で定める私的使用の目的をもつて自複製を行った者が権利制限の対象外になった場合でも本条1項の処罰の対象外とされています。

しかし、営利目的で30条第1項第1号に規定する自動複製機器を複製に使用させた者については本号で罰せられます。これは私的複製を容易にすることで著作権者の利益を害していると判断されているからです。

私的使用目的で複製する利用者に聞きを提供する場合は、第1項カッコ書によって複製者自身は罰則の適用を免れることとなっているので、正犯の行為が違法性を備えていなければその教唆行為、幇助行為も違法性を欠くという刑法理論(共犯従属性説)によると、機器提供者も罰則の対象とならないこととなりかねませんので、実質的な違法性の強い機器提業者の行為に固有の刑事責任を規定することとしたものであります。(加戸守行,945頁)

113条第1項の規定によりみなし侵害を行った者(3号)

 本条2項3号は113条第1項の規定によりみなし侵害を行ったもののうち著作権、出版権または著作隣接権を対象にしています。これは海賊版の輸入、情を知って、頒布・所持を行う行為を対象にしたいます。人格権(著作者人格権、実演家人格権)は本号に含まれません。

リーチサイト運営者(4号)

 113条4項ではウェブサイト等の定義が規定されています。113条3項では、リーチサイト運営者が侵害コンテンツへのリンクを削除せずに放置する行為を侵害とみなしています。本条2項4号は、リーチサイト(「侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等」)の公衆への提示を行った者を処罰の対象とします。リーチサイトの運営は大量の侵害行為が行われるための機会を提供していると取ることができます。

 そのようなリーチサイト等の存在により、侵害物が拡散され、その結果出版改は多才な損害を被った損害を被ったとされる一方、リーチサイト等の存在により、侵害物が拡散され、その結果出版界は多大な損害を被ったとされる一方、リーチサイト等の運営者は広告収入を得ている場合が多い。(中山信弘.842頁)

 その悪質性から2項4号は、120条の2の3項で規定されているリンク提供者に対する罪より重罰を科しています。

リーチアプリ提供者 (5号)

 113条3項は、リーチアプリの提供者も同様に侵害コンテンツへのリンクを削除せずに放置する行為を侵害とみなしています。本条2項5号は、リーチアプリ(「侵害著作物等利用容易化プログラム」)の提供行為自体を、リーチサイト運営者とは独立的に処罰の対象としています。

 リーチサイト運営だけではなくリーチアプリの提供行為も同様に大量の侵害行為が行われるための機会を提供していると取ることができるからです。その悪質性から2項5号も、リーチサイト運営者と同様に120条の2の3項で規定されているリンク提供者に対する罪より重罰を科しています。

 本条2項の4号と 5号は、113条3項と同様に、プラットフォーム事業者が原則処罰の対象から除外されるように配慮をしています。

プログラムの著作物の侵害行為によって作成された複製物の使用者(6号)

113条5項に該当する行為によって作成された複製物、つまり違法プログラムの使用者を対象に処罰の対象にしています。

119条3項の罪

 本条3項は、法30条で規定されている私的使用目的の違法ダウンロード者のうち次のものに該当する者を2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、またはこれを併科するものです。

録音・録画(本条3項1号、4項)

 本条3項1号は、30条 1項3号に該当する行為のうち、「録音録画有償著作物等」に関するものを処罰の対象にしています。

 「録音録画有償著作物等」とはここでは「録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。」と定義されています。この定義に該当するには録音または録画された媒体、つまり音声や動画の携帯で公衆に提供・提示されていること、かつそれが有償であることが要求されています。またかっこ書きでは「その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。」となっていることに注意です。

 有償かどうかの判断は「有償で公衆に提供され、又は提示されているもの」とある通り公衆に提供または提示された段階にそれ自体に対価が支払われたかで判断できます。そのためダウンロード時(自動公衆送信時)に「有償」に該当するためには、公衆に提供・提示される行為そのものに対して対価が支払われることを必要とするものです。

 無償著作物とは、営利目的とは関係なく、当該著作物についての対価(例えば視聴料)を受けてないものを指し、民法のように企業から広告収入を得ていても、視聴の対価ではないので無償著作物となる。NHKは受信料を徴収しているが、これは受信そのものの対価ではと解釈されており有償著作物等には含まれない。(中山信弘.840頁)

 「有償」かどうかを判断する基準は、「提供され、又は提示されている」ということから、ダウンロードが行われている時点(自動公衆送信の時点)であると考えられています。この段階で、有償と無償の提供が混在している場合ものや有料放送を無料で放送している場合どのように扱うかが問題となる。もし、ダウンロード時に有償で提供されていれば、たとえ同時に無償の提供が存在していても、有償と認められることになります。有料放送のケースでは、放送中にダウンロードが行われた場合にのみ、有償性が認められることになるでしょう。ただし、有料放送が無料で放送中の場合については、ダウンロード者の入手可能性を基準に有償かを判断することが適切であると思われます。

 また、有償での提供・提示が一部地域でのみ行われている場合についても議論が存在することでしょう。日本国内のいずれかで有償提供が行われている場合は有償性が認められるとする説や、ダウンロード者が有償提供について知らなければ、「有償著作物等特定侵害録音録画」に該当せず、犯罪は成立しないとする見解がある。後者の見解では、対価を支払って正規のコンテンツを享受する機会がダウンロード者に与えられなければ、権利者の経済的利益が実質的に損なわれる可能性が低く、このような状況で犯罪の成立を認めることは、国民の知る権利を著しく制限する恐れがあるとされている。

 したがって、「有償著作物等特定侵害録音録画」として規制の対象となる場合、ダウンロード者がその時点で正規の有償コンテンツを現実的に入手可能であるかどうかが判断の鍵となります。

自ら有償著作物等特定侵害録音録画であることを知りながら

 この条文では、「自ら有償著作物等特定侵害録音録画であることを知りながら」行為をした場合にのみ犯罪が成立します。「知りながら」という要件を満たす必要があります。つまり有償著作物の録画録音であることとそれが著作権を侵害する自動公衆送信であることを知っている必要があります。これはつまり事実のみならず、それが違法性があることも理解している必要があるということです。この認識は、「故意」の要件とは別に明記されています。なお本条4項に明記されていますがこの「知りながら」の要件は、重大な過失によって著作物の侵害を知らなかった場合には適用されません。

録音・録画以外の場合 (3項2号 5項)

 本条3項2号は、有償で提供される著作物に関する行為のみを処罰対象とする規定です。ここでは、「有償」であること、「自ら有償著作物特定侵害複製であることを知りながら」、および「継続的に又は反復して」の3つの要件について説明します。

有償性

侵害された著作物が「有償で公衆に提供され、または提示されている」ものである必要があります。

自ら有償著作物特定侵害複製であることを知りながら

ダウンロードした者が「自ら有償著作物特定侵害複製であることを知りながら」ダウンロードを行わない限り、犯罪は成立しません。この要件を満たすためには、同項1号の場合と同様にダウンロード対象が著作権を侵害している自動公衆送信であることと有償著作物であることの両方を認識している必要があります。また、この認識は「故意」の要件とは別に規定されています。また重大な過失によって知らない場合は認められません(本条5項)。

継続性・反復性

本条3項2号に該当するには、「継続的に又は反復して」ダウンロードを行う必要があります。これは刑事罰の対象を特に悪質なものを対象に限定するための要件であり、一定期間にわたり繰り返しダウンロードを行う場合にこの要件が満たされることになります。

参考文献

加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.

作花文雄. (2022年12月20日). 詳解著作権法[第6版]. 株式会社ぎょうせい.

小泉直樹他. (2019年3月11日). 著作権判例百選(第6版). 有斐閣.

小泉直樹他. (2023年6月15日). 条解著作権法. 弘文堂.

斉藤博. (2014年12月26日). 著作権法概論. 勁草書房.

中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.

文化庁著作権課. (日付不明). 令和5年度著作権テキスト.

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