著作権法 第二条 二項 美術の著作物

第二条 この法律にいう「美術の著作物」には、美術工芸品を含むものとする。

定義

本項の概要

本項は、美術の著作物についての規定であり、美術の著作物に美術工芸品が含まれることを示している。美術の著作物と形状・色彩・線・明暗で思想・感情を表現した著作物を示す。典型例としては、絵画・版画・彫刻が挙げられているが、美術の著作物の範囲は極めて広く、マンガ・生け花・舞台装置・書等も含まれる。(中山103頁)

舞台装置が美術の著作物として扱われた例として

(東京高判平成12年9月19日判時1745号128頁 [赤穗浪士舞台装置事件])

書体に関しては

本件書は、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、知的、文化的精神活動の所産ということができる。なお、知的、文化的精神活動の所産といいうるか否かは、創作されたものが社会的にどのように利用されるかとは必ずしも関係がないというべきであるから、創作されたものが実用目的で利用されようとも、そのことは著作物性に影響を与えるものではない。

 したがつて、以上認定事実によると、本件書は、著作物であり、原告は、本件書の著作権者であり著作者であることが認められる。

動書第一事件

文字の書体に著作物性を認めるべきではないということを前提として、本件書には著作物性がない旨主張するが、原告は、自ら書した本件書を書の著作物として主張しているのであつて、その書によつて表されているもののうち、書体のみを著作物であるとして主張しているものでないことは、その主張に照らして明らかであるところ、…(中略)…本件書は、原告がその思想又は感情を創作的に表現したものであつて、美術の範囲に属する書としての著作物であると認めることができる。

動書第二事件

美術は、 「純粋美術」 と 「応用美術」に分類することができます。

純粋美術とは純粋に表現の鑑賞を目的とした美術を指します。応用美術とは鑑賞を主としないで実用品に応用される美術を指し示します。応用美術には一品制作の美術工芸品と量産品のデザインが存在します。応用美術のうち量産品のデザインは意匠法の保護対象になっています。著作権法では美術の著作物に関する明確な定義は存在しませんが、法10条の四で絵画、版画、彫刻が美術の著作物の例に挙げられていますので、本法では美術の著作物を純粋美術として定義していると考えられます。一方、美術工芸品は主として表現の鑑賞を目的として制作される点で純粋美術と同じとみることが出来ます。また、意匠法では美術工芸品の保護対象とならないので意匠法との兼ね合いも考慮に入れる必要はありません。以上の点から美術工芸品を純粋美術と同じ美術の著作物として保護することを本項で規定されています。

 元々美術の著作物とは純粋美術のみを指し、工業製品として量産される応用美術は含まれず、意匠法で保護されるべきであると考えられていました。ただ、1948年のブラッセル改正でベルヌ条約では第二条保護を受ける著作物で「文学的及び美術的著作物」に応用美術を例示しています。

これを受け応用美術に関する様々な議論が進んだ結果、現行法では.美術工芸品の保護を明らかにする一方で量産品の実用品に関しても本法において特段の規定は行わず、原則意匠法等の保護に委ねつつ、純粋美術としての性質を有するものは美術の著作物として取り扱うという解釈がされています。

本項の解釈

本項では、美術の著作物に美術工芸品が含まれることを明示しています

その意義について2つの説があります。

・応用美術のうち美術工芸品のみが著作物として保護されることを規定していると解釈する説(創設規定説)

・美術工芸品以外の応用美術も保護要件を満たせば著作物として保護されると解釈する説(確認規定説)

過去に創設規定説を裏付けるものとして

著作権法が実用に供されるもので「美術の範囲に属する」著作物としたのは、創作されたときにこれを客観的にみて、鑑賞の対象となるべき絵画、彫刻などと同視しうるような一品製作の美術工芸品であると解するのが相当である。

東京高判昭和58年4月26日無体集15巻1号340  [ヤギボールド事件]

これに対して現在の多数派は確認規定説です。

客観的、外形的にみて純粋美術としての絵画、彫刻等と何ら質的に差異のない美的創作物である場合に、それが、実用に供しあるいは産業上利用することを目的として制作されたというだけの理由で著作権法上の保護を一切否定するのは妥当ではなく、応用美術については、前記答申の第二の立場を参考として、美術工芸品の外に実用目的の図案、ひな型で、客観的、外形的に絵画、彫刻等の純粋美術と同視しうる美的創作物が美術の著作物として保護されるものと解すべきである

東京地判昭和56年4月20日無体集13巻1号432頁 〔アメリカTシャツ事件]

しかしながら,著作権法が,「文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的と」していること(同法1条)に鑑みると,表現物につき,実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって,直ちに著作物性を一律に否定することは,相当ではない。同法2条2項は,「美術の著作物」の例示規定にすぎず,例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても,同条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,「美術の著作物」として,同法上保護されるものと解すべきである。

知財高判平成27年4月14日判時2267号 91頁〔TRIPP TRAPP事件]

同条1項1号の著作物の定義規定に鑑みれば,美的鑑賞の対象となり得るものであって,思想又は感情を創作的に表現したものであれば,美術の著作物に含まれると解するのが自然であるから,同条2項は,美術工芸品が美術の著作物として保護されることを例示した規定であると解される。

知財高判令和3年12月8日3 (ネ)10044号 〔タコの滑り台事件: 控訴審〕

本法では量産品のデザインに関しては触れられていませんが、著作物の保護要件を満たせば量産品のデザインも著作物として保護されると解釈されるのが妥当です。

ただし、量産品のデザインは意匠法等の保護対象になるため、量産品を本法で保護することは意匠法等との重複保護が生じます。そのため、意匠法との兼ね合いを図るために、応用美術は本法では保護を限定的にする必要があります。量産品であるという点を除き、純粋美術に匹敵する美的鑑賞性を兼ねそろえた創作物のみ美術の著作物として保護されると解釈することが妥当と言えます。

美術工芸品の定義

「美術工芸品」とは通常一品制作の手工芸品を指します。これは意匠法では一品制作の工芸品は保護の対象にならないため、意匠法等に保護を受けないからでもあります。

しかし、過去の裁判では量産品も美的鑑賞性によって美術工芸品に含まれると解釈した例があります。

その姿体、表情、着衣の絵柄、色彩から観察してこれに感情の創作的表現を認めることが

でき、美術工芸的価値としての美術性も備わつているものと考えられる。

長崎地佐世保支決昭和48 年2月7日無体集5巻1号18頁 [博多人形事件]

応用美術でありながら,著作権法上保護されるのは,同法 2条 2項により特に美術の著作物に含まれるものとされた美術工芸品に限られる。ここで,美術工芸品とは,実用性はあるものの,その実用面及び機能面を離れて,それ自体として完結した美術作品として専ら美的鑑賞の対象とされるものをいう」と作権法にいう美術工芸品として保護されるべきである

阪高判平成2年2月14日平元(ネ)2249号〔ニーチェア事件]

一品制作の美術工芸品と量産される美術工芸品との間に 客観的に見た場合の差異は存しないのであるから、 著作権法2条1項1号の定義 規定からすれば、 量産される美術工芸品であっても、 全体が美的鑑賞目的のため に制作されるものであれば、 美術の著作物として保護されると解すべきである

知財高判平成26年8月28日判時 2238号91頁 〔ファッション・ショー事件〕

さらに、美術工芸品は著作権法では「美術の著作物」に該当するため、「美術工芸品」として扱われるためには著作物に該当し保護される必要があります。例え一品制作であっても著作物の定義に該当しなければ「美術工芸品」には該当しません。また、一品制作が「美術工芸品」に該当するためには、純粋美術と同様に鑑賞目的で制作され、使用する必要があります。

同法2条2項の 「美術工芸品」とは、同法10条1項4号所定の「絵画 版画、彫刻」と同様に、主として鑑賞を目的とする工芸品を指すものと解すべきであり、仮に一品製作的な物 であったとしても、そのことをもって直ちに 「美術工芸品」に該当するものではないというべきである

東京地判令 和3年4月28日判時 2514号110頁 〔タコの滑り台事件第1審)

参考文献

条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日

著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)

著作権法(第4版),中山信弘,有斐閣,2014年10月25日,

文化庁「令和5年度著作権テキスト」

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