著作権法 第二条 三項 映画の著作物

条文

3 この法律にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含むものとする。

定義

本項の概要

 本項は、映画の著作物の範囲を明示した規定である。著作権法では映画の定義を規定していませんが、映画とはフィルムによる劇場用映画を念頭に規定されていました。しかし、デジタル技術の発展やVHSやDVD等の映像を固定する媒体の発展したことにより、これらの媒体に固定された影像もフィルム映画と類似しているので映画の著作物として著作権法で扱うこととされました。従来映画とは写真を連続してスクリーンに投影して動きのある映像に見せるものと考えられていましたが、現在はコンピュータグラフィックを用いた映画が多いです。

ベルヌ条約第二条保護を受ける著作物では映画の著作物を映画に類似する方法で表現された著作物を含むとしています。これは映画の製作方法の類似ではなく、視覚的効果の類似について映画の著作物の範囲に含まれる著作物を定義しています。現行法はこの定義に倣って規定されています。

本項の構成

本項では映画の著作物の範囲に含まれる著作物として

①:映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されたもの

:物に固定されていること

③:著作物であること

の 3つの要件を満たすことが必要とされています。

映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されたもの

本項では映画の著作物に該当するための要件の1つとして映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていることが必要とされています。

「視覚的効果」とは、連続的な影像を見せる効果のことを指します。そして本項では「視覚的又は視聴覚的効果」と規定されていますので、映画の著作物に該当するためには視覚的効果を有することが必要ですが、聴覚効果までは有する必要がありません。そのため、音声の無い影像も映画の著作物に該当します。さらに、表現に「視覚的効果」さえ有していれば十分ですので、ストーリー性や鑑賞性を有するまでは必要とせず、記録映画や実用映画であっても映画の著作物に該当します。

表現方法の要件としては,前記法2条3項の規定によれば,聴覚的効果は任意的要件であり,「映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されている」ことが必要的要件であるが,映画の著作物の「上映」とは「映写幕その他の物に映写することをいう」(法2条1項19号)と規定されていることも考え合わせると,右の映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されているものとは,スクリーン,ブラウン管,液晶画面その他のディスプレイに影像が映写され,かつその影像が連続的な動きをもつて見えるものをいうと解すべきである。

[東京地裁平成4年(ワ)第19495号:パックマン事件]

多数の静止画像を連続して順次投影して,動きのある影像として見せるという視覚的効果をもって表現されていると評価できる部分が随所に見受けられる。確かに,本件ゲームにおいては,静止画が複数用いられているが,一部静止画があることをもって,全体としての映画類似の視覚的効果が否定されるものではない。たとえ一つ一つの動きが単調であっても,ユーザの操作によりそれらが連続して表示され,各影像が一連として動きをもって見えるのであれば,本件ゲーム全体として映画類似の視覚的効果を有すると評価すべきである。また,アニメーションが単調か否かは,映画類似の視覚的効果を否定する理由とはならず,視覚的効果が高度であることは要件ではない。以上からすれば,本件ゲームについては,全体として「映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法で表現されている」といえる。

〔平成25年(ワ)第21900号:神獄のヴァルハラゲート事件)

本件ケーズCM原版は,テレビCMの原版(新店舗名部分が空白の原版)であり,これを使用して新たなテレビCM(新店舗名を挿入した完成版)の制作ができるものであって(前提事実(3)ア),新店舗名部分の挿入がなくともそれ自体で特徴のある表現を有するものと認められること(甲5)に照らすと,映像が動きをもって見えるという効果を生じさせる方法で表現され,ビデオテープ等に固定されており,創作性を有すると認めるのが相当である。そうすると,本件ケーズCM原版は,映画の効果に類似する視覚的又は視聴的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物であるから,映画の著作物(著作権法2条3項)であると認められる。

東京地判平成23年12月14日判時2142号111頁 (ケーズデンキ事件: 第1審〕

ゲームソフトであっても作品内容の大半が視聴覚的効果、つまり連続的な影像を生じさせる方法で表現されたものであれば映画の著作物に該当します。

 各ゲームソフトは,いずれも,「眼の残像現象を利用して動きのある画像として見せる」という,映画の効果に類似する視覚的効果を生じさせる方法によって,人物・背景等を動画として視覚的に表現し,かつ,この視覚的効果に音声・効果音・背景音楽を同期させて視聴覚的効果を生じさせていること,②本件各ゲームソフトの影像は,いずれも,ゲームソフトの著作者によって,カメラワーク,視点や場面の切替え,照明演出等が行われ,ある状況において次にどのような影像を画面に表示させて一つの場面を構成するか等,細部にわたるまで視覚的又は視聴覚的効果が創作・演出されていること,③本件各ゲームソフトは,いずれも,著作者により創作された一つの作品として,CD-ROMという媒体にデータとして再現可能な形で記憶されており,プログラムに基づいて抽出された影像についてのデータが,ディスプレイ上の指定された位置に順次表示されることによって,全体として連続した影像となって表現されるものであることが認められる。
 上記認定の事実によれば,本件各ゲームソフトは,前記(1)の3要件を満たすことが明らかであるから,法2条3項にいう,「映画の著作物」に該当するというべきである。

[中古ゲームソフト (東京) 事件控訴審〕

判例ではゲームソフトが映画の著作物であることを前提としています。

本件各ゲームソフトは,それぞれ,CD-ROM中に収録されたプログラムに基づいて抽出された影像についてのデータが,ディスプレイの画面上の指定された位置に順次表示されることによって,全体が動きのある連続的な影像となって表現されるものである。本件各ゲームソフトは,コンピュータ・グラフィックスを駆使するなどして,動画の影像もリアルな連続的な動きを持ったものであり,影像に連動された効果音や背景音楽とも相まって臨場感を高めるなどの工夫がされており,アニメーション映画の技法を使用して,創作的に表現されている。(中略)…本件各ゲームソフトが,著作権法2条3項に規定する「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物」であり,同法10条 1項7号所定の「映画の著作物」に当たるとした原審の判断は,正当として是認することができる。

最判平成14年4月25日民集56 巻 4 号808頁 〔中古 ゲームソフト (大阪) 事件上告審〕

 

一方、作品内容の大半が静止画像で表現されたゲームソフトについては、映画の著作物に該当しません。

本件著作物は、いわゆるシミュレーションソフトの分野に属するゲームソフトであり、ユーザーの思考の積重ねに主眼があるものということができ、 そのプログラムによって表されるディスプレイ上の影像の流れを楽しむことに主眼をもっているものでないということができる。

その中には影像及び効果音に関するプログラムのみならず、シミュレーションに関するプログラムも含まれていることからすれば、ディスプレイに現れる影像及び効果音に関するデータ容量 は極めて限られたものとなっていることが明らかである。

影像も連続的なリアルな動きを持っているものではなく、静止画像が圧倒的に多い。本件ゲームで動画画像 が用いられているのは、軍事戦争場面など一部にとどまり、軍事戦争における戦闘 シーン、一騎討ちシーンなどの個々の影像も、右のようにフロッピーディスクに収 容できる程度のデータ内容及びプログラムで動作させるため、定型データを利用す るものとなっていて、同じ内容の定型的な画像及び効果音がたびたび現れるものに とどまっている(以上、乙二六及び弁論の全趣旨)。

そして、本件ゲームにおいては、ユーザーがシミュレーションにより思考を練っている間は、静止画の画面構成 の前で思考に専念できるよう配慮されているものというべきである。  以上の事実関係からみれば、本件ゲームは、映画の効果に類似する視覚的又は視 聴覚的効果を生じさせる方法で表現されているものとは認められず、本件著作物が、映画ないしこれに類する著作物に該当するということはできない。

東京高判平成11年3月18日判時1684号112頁[三國志事件]

本件ゲームソフトの影像中に,動きのある連続影像が存することを認めることはできない。もっとも,甲3には, 設定場面が変わる際に主人公等のキャラクターが静止画像で表示され ているマップ上を移動する場面があるが,同場面は,本件ゲームソフトの影像のものではなく,被告ゲームソフトの影像の一部であると認 められる。 他に本件ゲームソフトの影像中に動きのある連続影像が存することを認めるに足りる証拠はない。 (イ) 上記(ア)のとおり,本件ゲームソフトの影像は,多数の静止画像 の組合せによって表現されているにとどまり,動きのある連続影像と して表現されている部分は認められないから,映画の著作物の要件のうち,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる 方法で表現されていること」の要件を充足しない。 したがって,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当するものと は認められない。

〔平成20年12月25日猟奇の檻事件〕

物に固定されていること

本項により連続影像をフィルムを始めとする物に固定されていることは映画の著作物の保護要件です。ベルヌ条約では物への固定要件として第2条2項で「もつとも、文学的及び美術的著作物の全体又はその一若しくは二以上の種類について、それらの著作物が物に固定されていない限り保護されないことを定める権能は、同盟国の立法に留保される。」と記述しており、物に固定を著作物の保護要件とするかは加盟国の裁量にゆだねています。そのため、条約では必ずしも映画の著作物が物に固定されている必要はなく、固定されない連続影像を映画の著作物として保護することもできます。

しかし、わが国では映画の著作物の保護要件に物に固定されていることを必要としています。それにはテレビの生放送などの物に固定されていない連続影像を映画の著作物から除外する趣旨があります。それは現行法では映画の著作物が物に固定することで継続的に利用されることを想定しているためです。

ただし、生放送であっても放送とともに録画されていれば映画の著作物として扱われることがあります

主催団体から影像の提供を受け、これにより日本でテレビ放映する権利の取得に係るものについても、その影像が送信と同時に録画されている場合には、固定性の要件を満たすと認められる

 [スポーツイベント源泉徴収所得税事件]

原告が利用したニコニコ生放送には,タイムシフト機能と称するサービスがあり,ライブストリーミング配信後もその内容を視聴することができたとされるから,本件生放送は,その配信と同時にニワンゴのサーバに保存され,その後視聴可能な状態に置かれたものと認められ,「固定」されたものといえる(法2条3項)。したがって,本件生放送の一部である本件動画は,「映画の著作物」(法10条1項7号)に該当し,その著作者は原告と認められる。

〔平成25年6月20日 大阪地方裁判所 ロケットニュース24事件〕

本項の「物」とは有体物を指しています。そして、「物に固定されている」とは、

「著作物が、何らかの方法により物と結びつくことによって、同一性を保ちながら存続しかつ著作 物を再現することが可能である状態」を指します〔パックマン事件〕。

そこには、物の種類や固定の方法は問いません。 フィルムのようなアナログ式だけではなく、CDやDVD、 ブルーレイ等にデジタル方式で記録された場合も物に固定されていると扱います。 さらもは、 固定の目的も関係無いです。 放送のために一時的に録画されたテレビ番組の録画物も固定要件を満たしているものとして扱います。

ここで、ゲームソフトは、常に同じ内容の連続影像が物に固定されているわけではなく、プレイヤーの操作により連続影像に変化が生じるため、はたして、固定要件を満たして映画の著作物と呼べるかが争点になります。

「コイン投入後に表現される影像である。遊戯者は特定の影像をコントロールして,移動影像及び固定影像が表現するゲームストーリーに参加でき,一定条件(時間又は失敗の回数)になるまでゲームを楽しむことができる。また, 影像とともに色々な音楽,効果音が発生する。」

「遊戯者の操作による特定の影像の変化に応じて移動影像及び固定影像は変化するが,これは遊戯者の操作に基づいて移動影像及び固定 影像に一定の変化を加える命令がプログラム群に組み込まれていることによるのであって,遊戯者が影像を創作しているのではない。したがって,ある 遊戯者が行ったのと同一の操作を別の遊戯者が行った場合には,移動影像及び固定影像の変化は必ず同一となる。すなわち,プレイ影像は,ROMに固定された 影像データ群とプログラム群に基づいて表現されるのである。」

「以上に述べたとおり,「ディグダグ」は映画の著作物に該当すると共に,そのオブジェクト・プログラムは著作権法上保護される著作物に該当するものである。」

[東京地裁昭和59年(ワ)第12619号 ディグダグ事件]

現状は肯定的な説を取られています。それはプレイヤーの操作による変化は、あくまでプログラムによってあらかじめ設定された範囲内のもので ありますので、プレイヤーは単にこのプログラムの中の影像に対してその順序を実行するために有限の影響を与えているだけと解釈されています。

第三者が著作者とは無関係に連続影像を物に固定した場合、要件を満たしたと呼べるかどうかの問題が発生します。

 映画の著作物は、著作権の帰属や保護期間が他の著作物とは異なっています。そこで、第三者が無関係に物への固定を行った場合に法的安定性が揺らぎ保護期間の予測も困難にな固定が著作者と無関係に行われた場合には固定要件を充たしているとはいけないと解釈するのも妥当です。

  • 著作物であること

本項により映画の著作物に該当するために連続影像が著作物性を有している必要があります。そのため、映画の著作物も他の著作物と同じく著作物の保護要件を満たす必要性が当然にあります。

そのためにも連続的影像の表現に撮影者の創作性が認められる必要があります。そのため、監視カメラで機械的に撮影した影像は、創作性が無いために映画の著作物には該当しません。

作品11番,26番及び68番は,いずれも,総合格闘技であるUFC の大会における試合を撮影した動画映像であり,各場面に応じて被写体 (選手,観客,審判等)を選び,被写体を撮影する角度や被写体の大きさ 等の構図を選択して撮影・編集され,映像に,選手等に関する情報等を文 字や写真により付加する等の加工を加えたものである(甲16の1ないし 3)。このように,作品11番,26番及び68番は,試合の臨場感等を 伝えるものとするべく,被写体の選択,被写体の撮影方法に工夫がこらさ れ,また,その編集や加工により,試合を見る者にとって分かりやすい構 成が工夫されているものということができるのであって,思想又は感情を 創作的に表現したものであると認められるから,映画の著作物に該当する。

[平成25年5月17日判決 総合格闘技事件]

本件各霊言は,題名,主題,列席者及び全体の構成を決定した原告代表役員の個性が表現されているといえるのであって,思想又は感情を創作的に表現したものであると認められる。そうすると,本件各霊言は,創作的な表現であり,上記(1)と併せると,映画の著作物の要件(著作権法2条3項)を満たすから,映画の著作物であると認められる。

〔霊言DVD事件〕

参考文献

条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日

著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)

著作権法(第4版),中山信弘,有斐閣,2014年10月25日,

文化庁「令和5年度著作権テキスト」

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