著作権法第2条 五 公衆

条文

第二条 5 この法律にいう「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとする。

定義

本項の概要

 本項は「公衆」の定義を規定している。著作権法において「公衆」は公表の定義や著作権や著作者人格権の1部の権利範囲にも「公衆」は関係しています。

特定かつ多数の者を含むもの

本項では「公衆」について特定かつ多数の者も含まれることを規定しています。

著作権法では「公衆」について明確な定義規定を定めていませんので、この項目では「公衆」の定義について見解が分かれています。

 もっとも多数派の見解は公衆とは「不特定」または「多数」と定義し、不特定の少数者も公衆に含まれるというものです。この見解の根拠として不特定多数または特定多数が公衆の場合、それは単なる多数者であり「公衆」という用語を用いる必要性が無いからです。また、第26条の2譲渡権において「特定かつ少数の者」という用語を用いて「公衆」に含まれない者を分類していることも根拠に挙げられます。

実際の裁判例において不特定の少数者が公衆に含まれる判決がでたものとして

公衆送信とは,公衆によって直接受信されることを目的とする(著作権法2条1項7号の2)から,送信を行う者にとって,当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば,公衆に対する送信に当たることになる。そして,送信を行う原告にとって,本件サービスを利用するユーザが公衆に当たることは,前記(2)のとおりである。なお,本件サーバに蔵置した音源データのファイルには当該ユーザしかアクセスできないとしても,それ自体,メールアドレス,パスワード等や,アクセスキー,サブスクライバーID(加入者ID)による識別の結果,ユーザのパソコン,本件サーバのストレージ領域,ユーザの携帯電話が紐付けされ,他の機器からの接続が許可されないように原告が作成した本件サービスのシステム設計の結果であって,送信の主体が原告であり,受信するのが不特定の者であることに変わりはない。

(東京地判平成19年5月25日判時1979号100頁 〔MYUTA事件〕)

そこで判断するに,著作権法26条の3にいう「公衆」については,同法2条5項において特定かつ多数の者を含むものとされているところ,特定かつ少数の者のみが貸与の相手方になるような場合は,貸与権を侵害するものではないが,少数であっても不特定の者が貸与の相手方となる場合には,同法26条の3にいう「公衆」に対する提供があったものとして,貸与権侵害が成立するというべきである。

(東京地判平成 16年6月18日判時1881号101頁 [NTTリース事件))

また,たとえ生徒が1名であっても当該生徒は音楽教室事業者からみると不特定の者として「公衆」に該当するから,控訴人らの上記②の主張は,何ら結論を左右し得ないし,教師の演奏について生徒という「公衆」がいることは前示のとおりであるから,上記③の主張も採用することはできない。そして,本件受講契約の履行としての教師による演奏と生徒による発表会等の演奏とはその性質を全く異にするものであることは明らかであるから,上記④主張も採用することができない。

知財高判令和3年3月18日判 時2519号73頁 [音楽教室事件: 控訴審〕

特定

大多数の見解として著作物の提供を受けたものと著作物の利用行為者との人間関係に結合関係が認められる場合に特定と呼ぶことができるとされています。

裁判例においても、プログラム著作物のリース先が、 同一のグループに属する企業であるという関係性が認められる場合でも、 契約相手として人的な結合関係は要求されていないとして、特定とは言えないと判断したものがある

(前掲 [NTTリース 事件〕)

大学のサークルや宗教団体などのメンバーなどは「特定」として扱われているため人的結合関係はそれほど強いものでは無いという解釈もされていますが、

一方下記のように数十名の受講生に限定していても不特定に当たる裁判例も存在しています、

受講生が公衆に該当するか否かは,前記のような観点から合目的的に判断されるべきものであって,音楽著作物の利用主体とその利用行為を受ける者との間に契約ないし特別な関係が存することや,著作物利用の一時点における実際の対象者が少数であることは,必ずしも公衆であることを否定するものではないと解される上,①上記認定のとおり,入会金さえ支払えば誰でも本件各施設におけるダンス教授所の受講生資格を取得することができ,入会の申込みと同時にレッスンを受けることも可能であること,②一度のレッスンにおける受講生数の制約は,ダンス教授そのものに内在する要因によるものではなく,当該施設における受講生の総数,施設の面積,指導者の数,指導の形態(個人教授か集団教授か),指導日数等の経営形態・規模によって左右され,これらの要素いかんによっては,一度に数十名の受講生を対象としてレッスンを行うことも可能と考えられることなどを考慮すると,受講生である顧客は不特定多数の者であり,同所における音楽著作物の演奏は公衆に対するものと評価できるとの前記判断を覆すものではないというべきである。

(名古屋地判平成15年2月7日判時1840号126頁 〔ダンス教室事件〕)

これらを考慮しても特定の線引きは曖昧と言わざるを得ません。

学説の中では人数の増減によって不特定と判断する見解やどれだけ多くの人が利用行為を知りえたかを特定の基準にする見解も存在します。

この点に関し,原告は,上記読上げの時点における同席者が特定の少数人であったとしても,任意の条件の下に人数が増減する可能性があれば,不特定の者を対象にするものとして「公に」を充足するし,「公に」の要件が,排他的権利が及ぶ著作物の利用範囲を適切に画することにあるところから,当該行為が有償でなされたものであることは,私的領域の範囲を超えるものとして,「公に」の充足性についての重要な判断基準となると主張する。

 しかし,上記陳述書において,被告Bの祈願を受けたとされる者は,いずれもEから心検の「課外授業」等として被告Bの紹介を受けた者か,被告Bの子の友人等,被告Bと個人的な関係のある者として記載されているのであって,被告Bが,このような範囲を超えた者に対し,本件経文の読み上げを行ったことを認めるに足りるものではない。そうすると,祈願の対象となった範囲の者は限定されているのであって,原告が主張するように任意の条件の下に人数が増減するような範囲の者ではないというべきである。

(東京地判平成25年12月13日平24 (7) 24933号 平25(7)16293号 〔経文事件])

公衆送信・送信可能化行為該当の要件となる「公衆」という概念は,法上,行為者から見て相手方が不特定人である場合の当該不特定人を意味するほか,特定かつ多数の者を含むから,控訴人商品の設置される集合住宅の入居者が特定人に該当するとすれば,多数である場合に「公衆」に該当し,そうでなければ「公衆」に該当せず,公衆送信・送信可能化行為に当たらないこととなるところ,前記のとおり,少なくとも24戸以上の入居者使用者となる場合は「公衆」に該当して必ず公衆送信・送信可能化権の侵害が生じ,その限度では,控訴人商品は,少くとも,使用の都度,常時,被控訴人ら著作隣接権者の有する送信可能化権侵害が発生するいわゆる侵害専用品といい得るが,当該戸数に至らない場合,控訴人商品の使用態様,条件によっては,公衆送信・送信可能化権を侵害しない場合もあり得る。

(大阪高判平成19年6月14日判時1991号122頁 〔選撮見録事件:控訴審〕)

多数

「多数」は著作物の種類やその利用の様態に応じてケースバイケースで判断されます。

そして,控訴人商品においては,ビューワーは,集合住宅の各戸に設置されることが予定されているから,1サーバーに接続されるビューワー数は,設置場所によって異なるとしても,集合住宅向けに販売される以上,少なくとも前記認定の24戸以上の入居者が使用者となることに照らせば,控訴人商品の利用者の数は,公衆送信の定義に関して「公衆」といい得る程度に多数であるというべきである

(大阪高判平成19年6月14日判時1991号122頁 〔選撮見録事件:控訴審〕)

少数と判断された裁判例として

本件デジタルデータが保存されたサーバは,SVD の準備作業を行っていた,被告の担当者4人のコンピュータ端末との関係においてサーバ機能を有するにすぎず,他の被告社員の個々のコンピュータ端末から閲覧することはできなかったのであって,上記担当者4人は,特定かつ少数であり,

特定かつ多数の者を含む「公衆」(著作権法2条5項)には該当しないから,他の要件について検討するまでもなく,上記行為は,送信可能化には当たらず,これによる送信可能化権の侵害は認められない。

(東京地判平成19年5月30日判タ1255号328頁 〔サライ掲載写真事件])

また特殊なケースでは

これによれば,本件各施設におけるダンス教授所の経営主体である被告らは,ダンス教師の人数及び本件各施設の規模という人的,物的条件が許容する限り,何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができ,このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は,組織的,継続的に行われるものであるから,社会通念上,不特定かつ多数の者に対するもの,すなわち,公衆に対するものと評価するのが相当である。

(名古屋地判平成15年2月7日判時1840号126頁 〔ダンス教室事件〕)

判断主体

公衆該当性の判断主体には著作物の提供・提示行為を受ける対象が「特定」か「多数」かが問題になってきます。

 そのため著作物の提供・提示行為を受ける対象と利用行為を行うものとの関係性で判断されます。

そして,何人も,被上告人との関係等を問題にされることなく,被上告人と本件サービスを利用する契約を締結することにより同サービスを利用することができるのであって,送信の主体である被上告人からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。そうすると,インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに本件放送を入力する行為は,本件放送の送信可能化に当たるというべきである。

(最判平成23年1月18日民集65巻1号121頁 〔まねきTV 事件上告審〕)

この判例からすれば「送信の主体である被上告人からみて」,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるからと明示しています。

そのため公衆該当性の判断には利用行為の主体を明確化する必要があります。また、利用行為の主体によって公衆該当性が大きく左右されることも示しています。

また規範的主体認定に関して

 このように、顧客は被告らの管理の下で歌唱し、被告らは顧客に歌唱させることによって営業上の利益を得ていることからすれば、各部屋における顧客の歌唱による管理著作物の演奏についても、その主体は本件店舗の経営者である被告らであるというべきである。

三 そして、前記一及び二で認定したように、伴奏音楽の再生及び顧客の歌唱により管理著作物を演奏し、その複製物を含む映画著作物を上映している主体である被告らにとって、本件店舗に来店する顧客は不特定多数の者であるから、右の演奏及び上映は、公衆に直接聞かせ、見せることを目的とするものということができる。

(平成10年8月27日  [ビッグエコー事件第1審])

主体性について少し外れたところでは

著作物又は二次的著作物の「公衆への提供又は提示」とは,特定多数の者に提供又は提示することも含む(著作権法2条5項)が,上述のとおり,本件記録ビデオが顧客である新郎新婦の挙式及び披露宴の様子を収録したものであることからすると,被控訴人が特定多数の者に対して本件記録ビデオを複製し,頒布するおそれがあるとは認められない。

(大阪高判令和元年11月7日令元(ネ) 1187号 〔ウェディングビデオ事件])

参考文献

小泉直樹他,『条解著作権法』,弘文堂,2023年6月15日

中山信弘,『著作権法(第4版)』,有斐閣,2014年10月25日

加戸守行,『著作権法逐条講義(七訂新版)』,公益社団法人著作権情報センター,2021年12月21日

作花文雄,『詳解著作権法[第6版]』,株式会社ぎょうせい,2022年12月20日

斉藤博,『著作権法概論』,勁草書房,2014年12月26日

小泉直樹他,『著作権判例百選(第6版)』,有斐閣、2019年3月11日)

文化庁,「令和5年度著作権テキスト」

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