著作権法第二条 十 映画製作者

条文

十 映画製作者 映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。

定義

映画製作者

法29条では「映画の著作物(第十五条第一項、次項又は第三項の規定の適用を受けるものを除く。)の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。」とある。
本号はその映画製作者の定義を規定している。

映画の著作物の製作に発意と責任を有する者

映画製作者と認められる基準

映画製作者と認められるためには、映画制作に対する「発意」と「責任」を有することが求められます。単に「発意」を持つだけでは不十分で、それに対応する「責任」が伴う必要がありま

したがって、ただ映画の企画を行うだけ、または映画制作を企画した後に製作を他者に委託する者は、「責任を有する者」とは見なされず、映画製作者とは認定されません。「責任を有する者」とは、映画の製作に関して法的な権利や義務が帰属する主体であり、経済的な利益や負担を担う者、すなわち経済的リスクを負い、権利義務の主体となる者を指します。

「著作権法2条10号の文言……からみて, 『映画製作者』 とは, 映画の著作物を製作する意思を有し, 著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであると解すべきである。」

(知財高判平成18年9月13日判時 1956号148頁 [グッドバイ・キャロル事件: 控訴審〕)

「しかしながら,映画の著作権の帰属主体である「映画製作者」の要件である「映画の製作につき責任を有する者」に該当するか否かは,その製作自体についての法律上の権利義務の主体であると認められるか否か,製作自体についての法律上の権利義務の主体であることの反映として,製作自体につき経済的な収入・支出の主体ともなる者であると認められるか否かによって決せられるべきであること,このような法律上の権利義務の主体となるのは本件製作契約の当事者である被控訴人であり,控訴人ビックウエストが本件テレビアニメの製作について法律上の権利義務の主体となることはないことは,前に述べたとおりである。控訴人ビックウエストが本件テレビアニメの製作,放映について果たした役割は,本件テレビアニメの製作の責任主体との関係でいえば,結局のところ,本件製作契約の成立という形で,本件テレビアニメを製作すること,及び,その製作の責任の主体を被控訴人とすることが確定するに至るまでのいきさつにおけるものであるにすぎない,とみるほかなく,そのことによって,控訴人ビックウエストが本件製作契約締結後において映画の製作につき責任を有する映画製作者に当たると認めることはできないというべきである。」

(東京高判平成15年9月25日平15(木)1107号〔マクロス事件〕)

「すなわち,同法29条1項は,映画の著作物に関しては,映画製作者が自己のリスクの下に多大の製作費を投資する例が多いこと,多数の著作者全てに著作権行使を認めると,映画の著作物の円滑な利用が妨げられることなどの点を考慮して,立法されたものである。」

(知財高判平成24年10月25日 平24 (ネ) 10008号〔ケーズデンキ事件: 控訴審〕)


第29条に基づき、映画制作に関与していない者に映画著作物の著作権が与えられる場合、創作者主義の例外として、その者が著作権取得に見合う経済的リスクを負っていることが必要です。つまり、著作権取得を正当化するためには、ただ金銭的な出資を行ったり、映画の成功に伴う経済的リスクを負ったりするだけでは不十分で、映画制作に関する法律上の権利と義務がその人物に帰属することが求められます。

そのため、前述のとおり、映画製作を他者に委託し、その費用を支払っただけの者は、法律上の権利と義務がその人物に帰属するとはすぐには認められず、映画製作者とは見なされません。

「原告は、山口組若頭として、本件継承式を記録するビデオ映画の製作を藤映像に発注し、その代金として500万円を支払ったにとどまるのに対して、Cは、藤映像の業務として、本件ビデオの内容を具体的に構想したうえで、その製作に必要な資材を調達し、その製作に従事するスタッフを選定雇傭し、製作の全過程を指揮して本件ビデオを完成し、人件費、その他製作に要する諸費用の支出も、藤映像の責任と計算においてなされたのであるから、本件ビデオの製作に発意と責任を有する者(映画製作者)は、原告ではなく、藤映像であるといわざるを得ない。」

(大阪地判平成5年3月23日判時1464号139頁 〔山口組五代目継承式事件] 参照)


映画製作者と認められる具体的な判断

「映画製作者とは,自己の危険と責任において映画を製作する者を指すというべきである。映画の製作は,企画,資金調達,制作,スタッフ及びキャスト等の雇い入れ,スケジュール管理,プロモーションや宣伝活動,並びに配給等の複合的な活動から構成され,映画を製作しようとする者は,映画製作のために様々な契約を締結する必要が生じ,その契約により,多様な法律上の権利を取得し,又,法律上の義務を負担する。したがって,自己の危険と責任において製作する主体を判断するためには,これらの活動を実施する際に締結された契約により生じた,法律上の権利,義務の主体が誰であるかを基準として判断すべきことになる。」

(東京地判平成15年4月23日平13(ワ) 13484号 [角川映画事件〕)


「映画製作者とは、自己の責任と危険において映画を製作する者を指すと解するのが相当である。そして、映画の製作は、企画、資金調達、制作、スタッフ等の雇入れ、スケジュール管理、プロモーションや宣伝活動、配給等の複合的な活動から構成され、映画を製作しようとする者は、映画製作のために様々な契約を締結する必要が生じ、その契約により、多様な法律上の権利を取得し、また、法律上の義務を負担する。したがって、自己の責任と危険において製作する主体を判断するに当たっては、これらの活動を実施する際に締結された契約により生じた、法律上の権利、義務の主体が誰であるかが重要な要素となる。」

(東京地判平成18年12月27日判夕1275号265 〔CRフィーバー大ヤマト事件)なども同旨)


「著作権法2条10号の文言……からみて, 『映画製作者』 とは, 映画の著作物を製作する意思を有し, 著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって, そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことであると解すべきである。」 「X1は, ① Pに対しては撮影を発注する主体として 契約を締結し,かつ, 撮影費用等に関する経済的な支出の主体であり, ②特に TBSとの関係においては, 本件 作品に関する権利が帰属する主体として契約を締結し, 放送権料に関する経済的な収入の主体であったということができる。」

(知財高判平成18年9月13日判時 1956号148頁 [グッドバイ・キャロル事件: 控訴審〕)


「前記争いのない事実及び右認定事実、殊に、三沢市の市勢映画の製作に当たり、当初は原告において三沢市に協力を求める等の経緯はあったにしても、被告において映画製作見積書を提出し、競争入札のうえ被告が受注して本件契約締結に至っていること、履行保証保険契約の締結及び本件契約上の被告の責務の保証人の存在にみられるとおり、被告が三沢市に対し製作を完成させる債務を負っていたこと、更に三沢市からの契約代金の支払いも被告になされ、演出・監督を担当した原告に対する報酬の支払いも含め、映画製作費用はすべて被告の負担において行われていることに照らせば、本件映画の製作について発意と責任を有する者は被告であるというべきである。」

(東京地判平成4年3月30日判タ802号208頁[三沢市勢映画製作事件第1審〕 )


「このように、本件各CM原版という著作物を制作するに当たっては、特に、広告主の意向が重視され、その意向を基に原版制作作業が進められているから、広告主の意向を把握した上で、原版制作作業を指揮できる立場にある者の役割が重要であり、また、CMの成否に影響を与えるタレントの手配、広告代理店への説明によりCM制作費の決定を得る手続を行う者の役割も重要であった。したがって、このような役割を一貫して担う者があれば、その者がCM原版の制作、その内容決定に当たっても主導的な役割を果たすものとして作業が進められていった。」
「そして、映画製作者の定義である「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」(著作権法2条1項10号)とは、その文言と著作権法29条1項の立法趣旨からみて、映画の著作物を製作する意思を有し、当該著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって、そのことの反映として当該著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者であると解するのが相当である。」

(知財高判平成24年10月25日 平24 (ネ) 10008号〔ケーズデンキ事件: 控訴審〕)

このケースにおいて、ケーズデンキが広告主としてCM原版の制作に資金を提供していることは事実ですが、裁判所の判断では、広告主が映画制作における「法律上の権利義務が帰属する主体」とされる具体的な根拠は示されていません。この判決では、CM原版制作における広告主の意向が考慮されていることには一定の重みがあるものの、それだけでは「法律上の権利義務が帰属する主体」と見なすには足りないとされています。最終的には、CM原版の広告利用に伴う財務的なリスクを広告主が負っているという点が強調され、そのために広告主を映画製作者と見なすべきだと結論づけられています。

ただし、この解釈が一般的な基準や過去の裁判例に完全に従っているとは断言しづらく、少なくともこのCM原版に関連する特定の事情を考慮した個別的な判断であると考えられます。

参考資料

条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日

著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)

文化庁「令和5年度著作権テキスト」

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