著作権法第二条 十一 二次的著作物

条文

十一 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。

定義

本号の概要

本号では二次的著作物の定義を規定しています。二次的著作物は、既存の著作物に依拠し、新たな創作的表現を付与して作られた著作物です。具体的な二次的著作物の定義として本号では、「翻訳」、「編曲」、「変形」、「翻案」といった行為を通じて生み出される作品が該当します。二次的著作物の創作者は、その作品に対して独自の著作権を持ちます。例えば、英語の小説を日本語に翻訳する、クラシック音楽をジャズに編曲する、絵画を彫刻に変形する、小説をマンガに翻案する作品などが二次的著作物の例になります。二次的著作物の元となった著作物を「原著作物」、原著作物の著作者を「原著作者」、二次的著作物の著作者を「二次的著作者」と言います。

旧法では、二次的著作物に関する明確な規定がなく、どのような作品が著作権で保護されるかは不明瞭でした。また、異なる形態での創作には、原作を適法に改変したものである必要がありました。しかし、現行法ではこれらの問題点を解消し、このような著作物を二次的著作物として一般の著作物と同じように保護することを明確にし、その権利関係についても具体的な規定を設けています。また、原著作物と二次的著作物の権利関係を明確に定義しています。

二次的著作物の意義

二次的著作物は、原著作物とは異なる別の作品としての保護を受けることで、単なる複製物とは明確に区別されます。しかし、その使用においては原著作者の著作物の権利が及ぶため、完全に独立した著作物とは言えません。二次的著作物は、本号に書かれている翻案やその他の特定の行為によって生み出されるため、何が二次的著作物と見なされるかは、これらの行為がどのように理解されるかによって定まります。

「言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。」

(最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁 〔江差追分事件〕)


この定義は言語の著作物の翻案に限定されず、本号に書かれた二次的著作物を創作する行為全般に言えます。

「美術の著作物においても、この理を異にするものではないというべきであり、また、美術の著作物としての書の翻案の成否の判断に当たっても、書の著作物としての本質的特徴、すなわち思想、感情の創作的な表現部分のとらえ方については、上記(2)アに述べたところが妥当すると解すべきであるから、本件各カタログ中の本件各作品部分が、本件各作品の表現上の本質的な特徴の同一性を維持するものではなく、また、これに接する者がその表現上の本質的な特徴を直接感得することができないことは、前示(2)の判断に照らして明らかというべきである。」

(東京高判平成14年2月18日判時1786号136頁 〔雪月花事件〕)

二次的著作物は
1.原著作物に依拠して作成され、原著作物の表現上の本質的特徴を直接感得させるもの。
2.原著作物に変更を加える
3.新たに創造的に表現されたもの。
と定義できます。
この1番目の要素は、それが完全に独立した著作物と区別されるための要件です。

要するに、原著作物に依拠して作られた作品であっても、その表現が原著作物の表現上の本質的特徴から大きく変更されていて、それを直接感得することができない場合は、二次的著作物ではなく、完全に独立した著作物となります。著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」です。そのため、原著作物の著作物性の根拠である表現上の本質的特徴を含まない作品は、二次的著作物ではなくなります。例えば、原著作物からアイデアなど表現でない部分やありふれた表現のみを抽出して作成した著作物は、原著作物の表現上の本質的特徴を直接感得させるものではないため、 二次的著作物に該当しません。 一方、小説が翻訳され、その翻訳小説が漫画化し、その漫画から脚本が作られ、その脚本から映画が製作されるなど1つの著作物が次々と派生し著作物が作成される場合でも、原著作物の本質的特徴を直接感得できれば、それらは全て最も始めの著作物の二次的著作物とみなされます。

2は結合著作物と区別するための要件です。 二次的著作物とされるためには、原著作物の表現に変更が加えられ、二次的著作物に変更部分の創作的部分と原著作物の創作的部分が一体となって新しい著作物を形成する必要があります。例えば、小説に挿絵を加えたり、楽曲に歌詞を付け加える場合のように、原著作物に変更を加えずに別個の表現を追加するだけの場合は、複数の著作物が併存しているだけですので、それらは二次的著作物ではなく、結合著作物とみなされます。

3は二次的著作物と複製物を区別する要件です。二次的著作物は原著作物と別個の著作物として保護されるものであります。それなので二次的著作物は新しい創作性が加えられている必要があります。ただの模倣や原著作物に小さな変更を加えたものであっても、その変更が創造的でない場合、それは二次的著作物としては認められず、保護されないことになります。

模写の著作物性が争点になった事件では

「原告絵画は,本件原画の模写の範囲を超えて,これに亡Bにより何らかの創作的表現が付与された二次的著作物であると認めることはできず,本件原画の複製物にすぎないものといわざるを得ない。」

(知財高判平成18年11月29日平18(ネ) 10057 号〔豆腐屋事件〕)

「これらの事実によると、本件絵画は、本件原画をそのまま機械的に模写したものではないことは明らかであって、本件絵画は、創作性を有するものと認められる。したがって、本件絵画に著作物性を認めることができる。」

(東京地判平成11年9月28日判時169号11 〔煮豆売り事件〕)

「新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が原画の表現上の本質的特徴を直接感得することができると同時に新たに別な創作的表現を感得し得ると評価することができる場合には,その模写作品は原画の二次的著作物として著作物性を有するものと解すべきである。」

(東京地判平成18年3月23日判時1946号101頁〔浮世絵模写事件])


二次的著作物の創作行為

本号は、二次的著作物の創作行為として、「翻訳」、「編曲」、「変形」、「翻案」という4種類の行為に定めています。これらはいずれも二次的著作物を生み出す原因となり、著作物性や類似性の判断において区分する必要はありません。一般に、本号の創作行為はまとめて広義の「翻案」として呼ばれることが多いです。しかし、本号の行為ごとに異なる支分権や権利制限が設定されているため、権利の譲渡や権利制限の適用の際にはこれらの行為を区別する必要があります。

翻訳

「翻訳」とは、言語の著作物を異なる言語体系の別の言語に移し替えることを指します。これには、他国の言語への翻訳だけでなく、一つの国内で異なる言語体系を持つ複数の言語間での翻訳も含まれます。

ただし、古典を現代語に訳する行為は、 異なる言語体系の移し替えとは言えませんので、 「翻訳」ではなく「翻案」 として扱います。

「本件訓読文は、「真福寺本」による「将門記」を原著作物とし、その内面形式を維持しつつ、原告【A】の創意に基づきこれに新たな具体的表現を与えたものであつて、著作権法第二条第一項第一一号の規定にいう著作物を翻案することにより創作した著作物に該当すると解して何の差支えもない。」

(東京地判昭和57年3月8日無体集14巻1号97頁〔将門記事件〕)

また、プログラムは言語の著作物に該当しないため、プログラム言語の変換行為は「翻訳」ではなく「翻案」とされます。「翻訳」は、原著作物にない新たな創作性を加える二次的著作物の創作行為です。文章をローマ字や点字に変換するのは、創作性がない機械的な作業であるため、「翻訳」とは言えません。一方で、コンピューターソフトウェアを使った機械翻訳でも、人の創作的な修正が加わる場合は「翻訳」に該当しますが、そうでなければ「複製」となります。

翻訳について2つの大きな制度があります
1つ目は、翻訳権10年留保です。
これは、現行法施行前1970年12月31日以前に発行された著作物に限り、原著作物が本国で最初に発行した日から10年以内にその翻訳物が発行されない場合には、翻訳権は消滅し自由に翻訳できます。

2つ目は、 翻訳権の7年強制許諾です。
万国著作権条約の保護を受ける国の著作物について、発行後7年以内に翻訳物が出版されない場合、翻訳権者から翻訳の許可が得られないときで、文化庁長官の許可を得て、所定の補償金を支払うことにより、翻訳を行うことが可能な制度です。

編曲

「編曲」とは、音楽著作物に新たな創作性を加える行為を指します。この行為は二次的著作物の創作行為に該当し、元の楽曲にない新しい創造性を加えることが必要です。ただし、一般に「編曲」と呼ばれる行為であっても、創作性が加えられていない場合は、本法では「編曲」とはみなされません。

「一般用語ないし音楽用語としての「編曲」と著作権法上の「編曲」とでは、概念が必ずしも一致しないことを前提に」
「「大規模な編成を小編成に改める場合」などは、著作権法上はむしろ「複製」の範ちゅうと解されるものであり」

(東京高平成14年9月6日判時1794号3頁 〔記念樹事件: 控訴審〕


変形

「変形」とは、既存の著作物を他の異なる表現形式に変更する行為を指します。例えば、絵画から彫刻を作る、地図から地形の模型を作るなどの行為が「変形」に当たります。

「本件縫いぐるみは、縫いぐるみ人形であって、数種の色彩、柄の布地を裁断ǿて縫製ǿ、その内部に綿類等の芯を詰め入れ、魚の顔を、体を形成ǿているが、その形体、表情は、本件原画のそれとほとんど同一であることが認められ、他に右認定をくつがえȁに足りる証拠はない。右認定によれば、本件縫いぐるみは、本件原画に依拠ǿて、これを変形ǿて製造されたものと認めるのが相当である。」

(東京地判昭和52年3月30日昭51 (ワ)3895号 〔たいやきくん事件〕)


「ガレージキットは、実在する車、飛行機等を忠実に再現する一般のスケールモデルとは異なり、その立体化の過程において制作者の思想・感情の表現が看られるのであって、当該キャラクターが描かれた漫画又は当該キャラクターという美術著作物の変形として、第二次著作物としての著作物性を有すると認めるのが相当である。」

(京都地判平成 9 年7月17日平7 (ワ) 1371号〔ガレージキット事件])


翻案

「翻案」とは、翻訳、編曲、変形以外の二次的著作物の創作行為を指します。この場合、「翻案」とは、原著作物に無い新しい創作性を加えることが必要です。本法では「翻案」の具体例として、脚色や映画化を挙げています。「脚色」は、例えば小説を基にして脚本を作るような、非演劇的な著作物を演劇的な形式に書き換えることを意味します。また、「映画化」は、既存の著作物を基に映画の著作物を制作する行為を指します。

文章の要約について

「その上で, Y書籍該当部分は, X書籍とテーマ, 記述の筋道が同じであるという事情を考慮すれば, 要約として翻案に該当するとした。 」

(東京地判平成10年10月30日判時 1674号132頁 〔血液型と性格事件〕)

編集著作物について

「選択された情報(記事)がその重要度や性格・内容等に応じてどのように配列されているかという点に当該新聞の配列上の特徴が存するのであるから、対象となる文書が、当該新聞における特徴的な配列と一致又は類似していれば翻案関係にあるものというべきである。」

(東京高判平成6年10月27日知的裁集26巻3号1151頁 (The Wall Street Journal事件))

かつて「翻案」とは内面的表現を維持しつつ、外面的表現を変えることといった基準で判断する説が有力でした。

「著作物についてその翻案権の侵害があるとするためには、問題となっている作品が、右著作物と外面的表現形式すなわち文章、文体、用字、用語等を異にするものの、その内面的表現形式すなわち作品の筋の運び、ストーリーの展開、背景、環境の設定、人物の出し入れ、その人物の個性の持たせ方など、文章を構成する上での内的な要素(基本となる筋・仕組み・主たる構成)を同じくするものであり、かつ、右作品が、右著作物に依拠して制作されたものであることが必要である。」

(名古屋地判平成6 年7月29日知的裁集26巻2号832頁 [春の波濤事件])

「次に、控訴人【A】及び控訴人IVSは、原告著作物と本件テレビドラマとは、①その根本思想ないしテーマの点、②両者の作品における主人公の人物像、主人公が対立、葛藤する対象の違いなどの差異等、構成、展開の点のいずれの側面から検討しても全く相違しているから、本件テレビドラマは控訴人【A】らの独自の創作活動の成果であって、原告著作物とその内面形式に共通性はなく、原告著作物の二次的著作物という範囲を超えたものであり、いわゆる純創作の域にあることは明らかである旨主張する」

(東京高判平成8年4月16日知的裁集28巻 2 号 271頁 〔目覚め事件)など)

「外面的形式」とは、著作者の思想やアイデアを文字、言語、色、音などの媒介を通じて客観的に他人に知覚されうる構成を指します。
「内面的形式」とは、著作者の内心において一定の秩序を持って構成される思想の体系を意味します。

しかし、著作物によっては、外面的形式と内面的形式の区別が不明確な場合もあります。また、パロディのような作品では、原著作物の外面的形式の一部を直接取り入れた翻案が行われることもあります。

そのため現在では前掲の

「言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。」

(最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁 〔江差追分事件〕)

という行為が翻案で用いられています。

原著作物と二次的著作物の権利関係

二次的著作物は、原著作物とは異なる別の著作物として認識され、その創作と同時に二次的著作物に関する新たな著作権が生じます。原著作者は翻案権などを持っているため、原著作者の許可なしに二次的著作物を作成すると、これらの権利を侵害することになります。しかし、現行法では適法要件が設けられていないため、翻案権などを侵害して作成された二次的著作物にも著作権が発生します。

二次的著作物の著作者は、自分の許可なく二次的著作物を利用する者に対して著作権を行使できます。同様に、原著作物の著作者が二次的著作物を利用する場合も、二次的著作物の著作者の許可が必要であり、これを得ずに利用すると二次的著作物の著作者の著作権を侵害することになります。反対に、原著作者は、自分の許可なく二次的著作物を利用する者に対して、原著作者としての著作権を行使できます。二次的著作物の著作者が原著作物を利用する場合も、原著作者の許可が必要で、許可なしに利用すると原著作者の著作権を侵害することになります。

二次的著作物の場合、原著作物の著作者と二次的著作物の著作者の著作権が同時に適用されるため、二次的著作物を使用する際には、両方の著作者からの許諾が必要です。また、二次的著作物に関しては、その二次的著作者が著作者人格権を持っています。

通常、二次的著作物の作成には原著作物の改変が伴います。そのため、原著作者からの許可を得ずに二次的著作物が作成されると、翻案権の侵害だけでなく、原著作物の同一性保持権の侵害も発生する可能性が高いです。

「また、被告らは、原告記事を複製又は翻案するに際して、別紙六「対照表」記載のとおり、原告記事の表現に変更、切除その他の改変を加えているから、原告記事のうち当該部分についての原告出版社らの同一性保持権(著作権法二〇条一項)を侵害したものと認められる。」

(東京地判平成10年10月29日 知的裁集30巻4号 812頁 〔SMAP事件〕)

「したがって,請求の趣旨第1項に係る本件写真の翻案権及び同一性保持権に基づく本件写真の翻案の差止請求,展示権及び公表権に基づく,本件写真を翻案して制作される絵画の展示及び譲渡の差止請求には理由がない。」

(大阪地判平成28年7月19日判夕1431号226頁 [舞妓写真事件])

二次的著作物は、原著作物の表現の本質的な特徴を直接感得できるものを指します。そのため、二次的著作物の使用は、原著作者の人格的利益と密接に関連しています。もし二次的著作物の使用が原著作者の著作者人格権に反する行為となった場合、原著作者は自らの著作者人格権を行使することが可能です。

二次的著作物の保護範囲

二次的著作物は、現著作物の創作的表現に由来する部分と、新たに加えられた創作的表現部分の両方を含んでいます。二次的著作物が著作物として保護される理由は、原著作物にはない新たな創作的表現部分が付加されたからです。したがって、二次的著作物の著作権の保護範囲は、この新たに加えられた創作的表現部分に限定されます。二次的著作者は、二次的著作物全体が利用された場合、または新たに加えられた創作的表現部分が利用された場合に権利を行使できますが、二次的著作物の中で原著作物の創作的表現に由来する部分だけが利用された場合には、権利を行使することはできません。

「二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である。けだし、二次的著作物が原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付与されているためであって(同法二条一項一一号参照)、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないからである。」

(最判平成9年7月17日民集51巻6号2714頁 〔ポパイネクタイ事件上告審])

「原著作物の著作者である被上告人は本件連載漫画の著作者である上告人が有するものと同一の種類の権利を専有し,上告人の権利と被上告人の権利とが併存することになるのであるから,上告人の権利は上告人と被上告人の合意によらなければ行使することができないと解される。」

(最判平成13年10月25日判時1767号115頁 〔キャンディ・キャンディI 事件 上告審〕)

参考資料

条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日

著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)

文化庁「令和5年度著作権テキスト」

タイトルとURLをコピーしました