著作権法第二条 十二 共同著作物

条文

十二 共同著作物 二人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいう。

定義

本号の概要

本号では「共同著作物」を定義している。本号は共同著作物の成立要件として
①:2人以上の者が創作していること(創作的関与性)
②:共同して創作していること(共同創作性)
③:各人の寄与を分離して個別的に利用することができないこと(分離利用不可能性)
共同著作物は法51条保護期間の原則、法64条共同著作物の著作者人格権の行使、法65条共有著作権の行使で特則が設けられています。

創作的関与性

「共同著作物」が成立する要件の1つに2人以上の者が創作していることが挙げられる(創作的関与性)
つまり、複数の人に創作的関与が無い限り、共同著作物には該当しません。共同著作物が形成されると、創作に関与した人々は共同著作者として認められます。著作者とは「著作物を創作する者」と定義されていますので、共同著作における「創作的関与」が必要であり、著作物の創作的表現に実質的に寄与していることが求められます。

したがって、複数の人が著作物の制作に関わっていても、1人だけがその著作物の創造的表現を行い、他の人たちは計画やアイデア、素材の提供に留まる場合、その著作物はその1人のみの単独の著作物とされます。

共同著作物と認められた判決には

日本人が作成した平家物語の英訳を外国人が訂正した作品が日本人と外国人の共同著作物として認められた

(大阪高判昭和55年6月26日無体集12巻1号266頁 [英訳平家物語事件: 控訴審])

「本件広告(1)の素材の大部は【C】が提供し、環状の鎖のデザインや波ないしは海洋を表わす暗色も【C】の指示によるものであり、その素材の配置についても【C】の意向が大きな割合を占めてはいるが、【B】も広告デザイナーとしての芸術的な感覚と技術を駆使して、鎖の図案を自らデザインし、素材を拡大したり縮小したりしたうえ見る者の視覚に訴える位置に効果的に配置して、本件広告(1)の原画を完成させたのであり、それ故にこそ、ジヤパン・トレードを介して三和通商から本件広告(1)のデザイン料として一万円余りを受取つたのであるから、【C】と【B】の共同の創作行為によつて一つの著作物が作られ、しかも右両名の寄与分が出来上つた著作物のなかに完全に統合一体化されてしまつていて、その部分だけを分離して個別に利用することができないことが認められるので、本件広告(1)は三和通商(法一五条の法人著作である。)と【B】の共同著作物(法二条一項一二号)と認めるのが相当である。」

(大阪地判昭和60年3月29日無 体集17巻1号132頁 [商業広告事件〕)

「本件著作物のうち、本件書籍二章冒頭から八九頁五行目まで(以下「B部分」という。)の文章については、【B】が具体的に口述して被告【D】に記録させた部分は【B】が創作したと認めるべきであり、【B】が抽象的に書いて欲しい事柄を指示しただけで文章表現は被告【D】が自分で考えた部分や、【B】の明示の指示はなかったが【B】の意思を推測して被告【D】が自由に書いた部分は被告【D】が創作したというべきであり、被告【D】が書いた文章を【B】が点検して補充訂正した部分は両名が共同して創作したというべきであるが、B部分のうちのどの文章で【B】と被告【D】のどちらがどれだけ創意を働かせたかは具体的には明らかでなく、その関与の態様毎に明確に区分することはできないから、結局、B部分全体が【B】と被告【D】が共同して創作したものであって、各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものであると認めるのが相当であり、被告会社担当者の関与に関してはA部分についてと同様であるから、B部分も【B】と被告【D】を著作者とする共同著作物に該当するというべきである。」

(大阪地判平成4年8月27日 知的裁集24巻2号495頁 〔静かな焔事件])

「原告は,本件書籍の文章表現について,単に被告Bの口述表現を書き起こすだけといった,被告Bの補助者としての地位にとどまるものではなく,自らの創意を発揮して創作を行ったものと認められる。また,被告Bは,自らの体験,思想及び心情等を詳細に原告に対して口述し,被告Bの口述を基に原告が執筆した各原稿について,これを確認し,加筆や削除を含め表現の変更を指摘することを繰り返したのであるから,被告Bも,本件書籍の文章表現の創作に従事したものと認められる。そうすると,本件書籍の文章表現は,原告及び被告Bが共同で行ったものであり,原告と被告Bとの寄与を分離して個別的に利用することができないものと認めるのが相当であるから,本件書籍は,原告と被告Bとの共同著作物(著作権法2条1項12号)に当たるというべきである。」

(東京地判平成20年2 月15日平18(ワ) 15359号 〔運命の顔事件〕)

「第1論文は,原告が,被告が作成した原稿について,原稿への書き込み及び口頭により,英語表現の訂正,付加や,記載の順序,内容等について指示をし,その指示を受けた被告が原稿の修文をしたり,新たに作成した文章を書き入れて,完成するに至ったものであって,第1論文は,原告と被告が共同で創作し,原告と被告の寄与を分離して個別的に利用することができないものというべきであるから,第1論文は原告と被告の共同著作物(著作権法2条1項12号)であると認められる。」

(東京地判平成21年11月27日平18(ワ)2591号 〔ニューロレポート事件: 第1審〕 )

共同著作物と認められなかった例として

「本件旧書籍,少くとも本件旧書籍中前記認定のXが執筆した部分については,当初の原稿を執筆したXのほかに他の者が創作に関与したと認められるほど加筆訂正がなされた形跡はなく,また,そのような程度にまで加筆訂正がなされることが申し合わされた事実も認めることができず,更に,加筆訂正の程度にかかわらず各書籍について執筆者全員の共同著作物とする旨の合意があったというような事実もうかがうことができない。以上によれば,右・・・・・・認定したXの執筆部分については,執筆者全員の共同著作物ではなく,Xの単独著作物であると認めるのが相当である。」

(東京地判平成2年6月13日判時1366号115頁 〔薬理学教科書事件])

「あらかじめ用意された質問に口述者が回答した内容が執筆者側の企画、方針等に応じて取捨選択され、執筆者により更に表現上の加除訂正等が加えられて文書が作成され、その過程において口述者が手を加えていない場合には、口述者は、文書表現の作成に創作的に関与したということはできず、単に文書作成のための素材を提供したにとどまるものであるから、文書の著作者とはならないと解すべきである。」

(東京地判平成10年10月29日知的裁集30巻4号812頁 〔SMAP事件])

「被告は,原告と被告とが話し合って,原作品から4つのエピソードを選択した旨主張するが,これを裏付けるに足りる証拠はない。また,被告は,第1稿の完成後,被告が単独で,第1稿について,講談独特の修羅場調子に変えたり,最終場面を,ゲンと弟の隆太が土手を歩いていくシーンに変更し,未来に希望を与えるような表現にした旨主張し,これに添う陳述記載(乙14)もあるが,この主張を認めるに足りる証拠はない。のみならず,被告が主張するような関与があったとしても,原告が,原作を脚色した創作性の程度に比較すると,被告の関与は,アイデアの提供や上演をする上での工夫にすぎず,それにより,共同で創作したと評価することはできない。」

(東京地判平成14年8月28日判時1816号135頁 〔はだしのゲン事件〕)

「本件著作物の編集過程において,相手方は,その「編者」の一人とされてはいたものの,実質的にはむしろアイデアの提供や助言を期待されるにとどまるいわばアドバイザーの地位に置かれ,相手方自身もこれに沿った関与を行ったにとどまるものと理解するのが,本件著作物の編集過程全体の実態に適すると思われる。
そうである以上,法14条による推定にもかかわらず,相手方をもって本件著作物の著作者ということはできない。」

(知財高決平成28年11月11日判時2323号23頁 (著作権判例百事件抗告審))

「原告設計資料及び原告模型に基づく原告代表者の提案は,被告竹中工務店設計資料を前提として,その外装スクリーンの上部部分に,白色の同一形状の立体的な組亀甲柄を等間隔で同一方向に配置,配列するとのアイデアを提供したものにすぎないというべきであり,仮に,表現であるとしても,その表現はありふれた表現の域を出るものとはいえず,要するに,建築の著作物に必要な創作性の程度に係る見解の如何にかかわらず,創作的な表現であると認めることはできない。更に付言すると,原告代表者の上記提案は,実際建築される建物に用いられる組亀甲柄の具体的な配置や配列は示されていないから,観念的な建築物が現されていると認めるに足りる程度の表現であるともいえない。以上によれば,本件建物の外観設計について原告代表者の共同著作者としての創作的関与があるとは認められない。」

(東京地判平成29年4月27日平27(ワ)23694号 〔ステラマッカートニー事件〕)

「被写体の組み合わせや配置,構図やカメラアングル,光線・印影,背景等に創作性があるところ,こうした点について,ヘアドレッサーとカメラマンとの間には原告各写真について共同著作物となるための要件である共同創作の意思が存するものとは認められないというべきである。」

(東京地判平成 27年12月9日平27(ワ) 14747号 〔ヘアドレッサー写真事件〕)

共同著作物を形成するには、複数の人々の創造的関与が求められますが、単独著作とは違って、各著作者の行動はそれ単体で著作物の創作行為と見なされる必要はありません。他者の創作行為に基づき、自らも著作物の創作的表現に寄与することが評価されれば十分です。また、共同著作物では、単独著作とは違い、各著作者が著作物のすべての創作過程に直接関与する必要はありません。

共同創作性

「共同著作物」が成立する要件には、複数の人々による創作行為が共同して行われる必要性があります(共同創作性)。たとえば、AがBの作品を許可なく改変し、新たな作品を作った場合、その新たな作品にはAとBの創作的寄与が混ざっていますがが、Bはその新たな作品の創作を意図せず、創作過程には全く関与していませんので、その新たな作品はAとBの共同著作物ではなく、単にBの作品の二次的著作物とみなされます。このように、共同創作性は共同著作物と二次的著作物を区別するための基準です。共同創作性を満たすためには、各人の寄与が同時に行われる必要性はありません。

共同創作性を満たすためには、各著作者が他者と共に著作物を作る共通の意志(共同創作の意志)の存在が必要かという議論があます。この点では必要説と不要説があります。必要説の方が多数派ですが、不要説も有力視されています。
不要説には、作品自体から各人の共同の寄与が推測できるならばそれで足りるという等といった見解があります。

共同創作の意志を判断するのには、特に故人の著作を遺族等の関係者が補訂した作品(遺著補訂型著作物)の扱いにおいてよく議論されています。必要説を採用すれば、故人と補訂者の間に共同創作の意志が認められないため、補訂後の著作物は共同著作物には該当しません。一方で不要説を採用すれば、補訂者が故人の関係者で、故人の意向を汲んで補訂した場合、補訂後の著作物を共同著作物として解釈することもできます。現状の裁判の判決では必要説が取られることが多数となっています。

「原告は,文化社版は,わずかしか彩色されていないP4ノートの原画のコピーに,原告が着色して作成されたものであるから,文化社版は,P4と原告の共同著作物であると主張する。しかし,前記1(5)ないし(9)のとおり,原告は,本件原画の著作権者であるP4の相続人である被告P2から,P4ノートの原画に着色するよう依頼されたものではあるが,P4自身との間における共同製作の意思の共通を認める事情は見あたらず,文化社版を原告とP4の共同著作物と認めることはできない。」

(大阪地判平成21年10月22日平19(ワ)15259号 [パステル原画事件])

「共同著作物というためには,各人に共同して著作物を創作しようとする共通の意思が必要であると解すべきであるが,生前の亡Wと原告Xとは本件著作物の執筆につき何らの話し合いの機会も持たなかったのであるから,共同して著作物を作成しようとする共通の意思はなかった。 」

(東京地判平成25年3月1日判時2219号105頁 〔基幹物理学事件〕)

分離利用不可能性

3.最後の「共同著作物」が成立する要件は、各人の寄与を分離して個別的に利用することができないことです(分離利用不可能性)。

小説と挿絵や、歌詞と楽曲のように、例え、1つの作品だとしても、それぞれ個別に分離利用できる場合に使用できる場合、これらは共同著作物ではなく結合著作物となります。

「各単元やコラムは,特定のテーマに関連する本文の記述(側注を含む),関連する写真,地図,図表やこれらの解説文等で構成されているものの,本件記述(各単元において図版や解説文を除外した本文部分やコラムにおいて,図版や解説文を除外した部分)を,写真,地図,図表やこれらの解説文等とは分離して利用することも可能であるから,本件書籍はこれらの各著作物が結合したいわゆる結合著作物に当たるというべきであり,これらの各単元やコラムが一体として著作権法2条1項12号の「共同著作物」に当たると解することはできない。」

(東京地判平成21年8月25日平20(ワ) 16289号 〔歴史教科書事件〕)

このように、分離利用不可能性によって結合著作物と共同著作物は区別することができます。

また座談会における口述は各人の寄与が物理的には分離利用可能であっても、それらが全体として一つの著作物を形成している場合、それが分離利用可能かどうかについては否定説と肯定説で意見が分かれています。

否定説は、座談会参加者の発言の寄与が物理的に分離利用可能であれば、各人の単独著作物として各人の自由な利用を認めるべきであるとしています。
肯定説は、座談会のように参加者の発言の寄与によって著作物全体が一体的に形成された場合は共同著作物に該当し、参加者は共同著作者としています。

共同著作物が職務著作に該当する場合

本号の「2人以上の者」 には自然人だけではなく法人等も含まれます。
著作物の創作過程に寄与した複数人の中でも、 法人等の従業者が含まれて職務著作が成立する場合には、 完成した著作物は自然人と法人等との共同著作物となります。

「原告の編集部員は、主として【A】ら一三名の在京の編集委員と共に、編集方針案、題材の配分案を作成したり、討議の場で意見を述べるなどして、教科書の各レッスンの選択、配列等の編集行為を行ったほか、教科書に適した文章に表現するための原案を執筆したり、会議において意見を述べたり、修正案を作成して提出したりするなど本件教科書における言語的表現の創作に参加しているものであり、また、法人著作に関する著作権法一五条の要件を満たしているから、原告が本件教科書の共同著作者の一員であることは明らかである。」

(東京地判平成3年5月22日 知的裁集23巻2号293頁〔教科書準拠テープ事件】)

また、著作物の創作過程に寄与した複数人が異なる法人等の従業者でいずれのものが職務著作が成立する場合には、 完成した著作物は複数の法人等との共同著作物となります。一方で、著作物の創作過程に寄与した複数人が同一の法人等の従業者でいずれのものが職務著作が成立する場合には、 完成した著作物はその法人等の単独著作物となります。

参考資料

条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日

著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)

文化庁「令和5年度著作権テキスト」

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