著作権法第二条 十五 複製

条文

第二条 十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。
ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。

定義

本号の概要

本号は「複製」の定義を規定しています。複製とは、有形的に再製することを指し、無形的利用行為は含まれないことが明確に定義されています。著作物の複製に関しては、21条によって支分権の1つである複製権が定められており、この「複製」の概念はその著作物利用の対象となる範囲を定めており、同時に複製物の概念も明示しています。

印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法

有形的な再製の方法には、印刷や写真などが例として挙げられていますが、これらはあくまで例示に過ぎず、方法に制限はありません。手書きの模写のような、機械を使わない方法も含まれています。さらに、著作物を目に見える形で再製する方法だけでなく、録音や録画のように、機器などを使って著作物を再生可能な形で物質に固定する行為も複製に含まれます。

有形的に再製する

有形的に

本法では複製は有形的な再製と定義され、無形的な利用は含まれないことが明示されています。そのため、複製と認められるためには、著作物が新たに有体物に対して永続的に固定される必要がありますが、固定される媒体の種類は問いません。また、複製する著作物を異なる媒体や表現形式に固定する行為も複製に含まれます。さらに、生演奏の音楽を録音する行為など複製対象の著作物が有体物に固定されない行為も複製に該当します。

再製

「再製」とは、著作物が完全に同一である必要はなく、著作物の創作的表現と実質的な同一性が維持されれば、その著作物の一部のみの固定や修正、変更が加えられた場合も該当します。しかし、創作的表現が維持されていることは、著作物に関する権利侵害の成立において求められる類似性の要件であり、複製に限った要件ではありません。

複製と翻案

著作物を有体物に固定する際に修正や変更が行われ、それによって新たな創作的表現が加わった場合(二次的著作物の創作が行われた場合)、それは複製とは見なされません。この理由は、著作権における支分権の一環として、複製に関する21条とは別に、翻案などの行為に対する別の支分権を27条が規定して区別しているからです。

脚本その他これに類する演劇用の著作物

本号イは、脚本その他これに類する演劇用の著作物の上演を録音や録画する行為を、その著作物の複製の定義に該当すると規定しています。ここで言う「演劇用著作物」は、その定義が完全には明確ではありませんが、主に実演家によって演劇的に演じられることを目的として作られた著作物を指し、演じることを目的としない著作物(例えば小説)は含まれないとされています。

建築の著作物

本号は、建築の著作物に関して、建築に関する図面に従つて建築物を完成することが複製に該当すると定義しています。具体的には、すでに完成している建築物と同一性を有する建築物を完成させる行為が複製とみなされます。また、建物が実際にまだ完成していなくても、設計図に従って当該建築物を完成させる行為は「建築の著作物の複製」に該当することが明示されています。ただし、建築物を完成させる行為は、設計図の創造的表現を再製する行為ではありませんので、設計図自体の複製には該当しません。

その他の複製に関係すること

リンク

インターネット上で、リンク(ハイパーリンク)を使うと、一つのウェブページから別のウェブページへ簡単に移動できます。ユーザーは元のページに表示された情報をクリックすることで、リンク先のページにアクセスします。リンク先に著作物が掲載されている場合、その著作物はリンク先のページから直接ユーザーに送信されます。そのため、リンクを設置する行為自体は有形的再製を行うものではなく、複製には該当しないと解釈されています。また、この行為は一般的に公衆送信にも該当しないとされています。

「著作物である本件写真は,流通情報2(2)のデータのみが送信されているから,本件リツイート行為により著作物のデータが複製されているということはできない。したがって,複製権侵害との関係でも,控訴人が主張する「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTML データ等を「侵害情報」と捉えることはできず,「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTML データ等が「侵害情報」であることを前提とする控訴人の複製権侵害に関する主張は,採用することができない。」

(知財高判平成30年4月25日民集74巻4号1480頁 〔リツイート事件: 控訴審〕)

一時的蓄積

コンピュータープログラムを使う際やウェブサイトで画像などを閲覧する際には、コンピュータのRAMなどに著作物が一時的に保存されることがあります。この一時的な保存は、有体物の媒体に著作物が保存されているという点では複製と考えられるかもしれませんが、このような一時的蓄積が複製に該当するかどうかについては意見が分かれています。

次の裁判例ではこのRAMへの一時的蓄積が複製に該当しないと判決が出ました

「いったん著作物の有形的な再製物が作成されると、それが将来反復して使用される可能性が生じることになるから、右再製自体が公のものでなくとも、右のように反復して使用される可能性のある再製物の作成自体に対して、予防的に著作者の権利を及ぼすことが相当であるとの判断に基づくものと解される。」
「著作権法上の「複製」、すなわち「有形的な再製」に当たるというためには、将来反復して使用される可能性のある形態の再製物を作成するものであることが必要であると解すべきところ、RAMにおけるデータ等の蓄積は、前記(一)記載のとおり一時的・過渡的な性質を有するものであるから、RAM上の蓄積物が将来反復して使用される可能性のある形態の再製物といえないことは、社会通念に照らし明らかというべきであり、したがって、RAMにおけるデータ等の蓄積は、著作権法上の「複製」には当たらないものといえる。」

(東京地判平成12年5月16日判時1751号128頁 〔スターデジオ1事件] )

参考資料

条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日

著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)

文化庁「令和5年度著作権テキスト」

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