著作権法第二条 十九 頒布

条文

第二条 十九 頒布 有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。

定義

本号の概要

本号は著作物の利用行為の1つである「頒布」の定義規定です。「頒布」は支分権の1つである「頒布権」を始めとして様々な条文に関係しており、特に法113条侵害とみなす行為では侵害等の対象となる行為を明確化しています。前段頒布において頒布は譲渡以外にも貸与も含まれることが明記されており、公衆を対象とする場合に該当すると定義されています。しかし、後段頒布では映画の著作物またはは映画の著作物において複製されている著作物に対しては公衆提示目的において広範囲に該当します。

有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい(前段頒布)

公衆

「公衆」とは、本条では特定かつ多数の者を含むものとすると定義されています。特定かつ多数の者を含む場合に対しては頒布が該当します。例えば、特定かつ少数つまり友人や家族に複製物を譲渡したり貸与する行為は頒布に該当しません。

複製物

頒布において譲渡や貸与の対象は「複製物」に限定されています。つまり複製物の原作品を公衆に譲渡・貸与することは、本条の定義によって、頒布には該当しません。

譲渡し、又は貸与することをいい

「譲渡」とは相手方に所有権を移転する行為を指します。また、「貸与」は所有権を移転する行為では無く、一時的にその物を相手方に使用させる行為です。また本条において「貸与」は「いずれの名義又は方法をもつてするかを問わず、これと同様の使用の権原を取得させる行為を含むものとする。」と定義されています。ただし、頒布の定義では譲渡と貸与は両者とも頒布に該当することが明記されています。そのため、譲渡と貸与両方に該当しない場合でも、貸与と同様の使用の権原を取得させる行為について頒布に含まれることを明示しています。

映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。(後段頒布)

映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物

後段頒布では対象の著作物を映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物に限定して頒布に該当する行為の範囲を広げています。映画の著作物等では前段頒布と違って、特定少数への譲渡や貸与に対しても、その複製物を「公衆に提示することを目的として」の場合には頒布に該当します。そして、「頒布権」は、映画の著作物等に限定であることが明記されている支分権ですので後段頒布に対して権利が及ぶことになります。映画の著作物に限らず、映画の著作物において複製されている著作物も対象にしている理由としては映画の著作物だけではなく、映画の著作物に複製されている著作物に関しても頒布権の権利範囲を広げるためです。

公衆に提示することを目的として

後段配布は映画の著作物等に対象を限定しているため、「公衆に提示すること」が意味する行為は公衆への上映を指しています。過去には劇場用映画では「配給制度」が存在し、上映から対価を得ようとする制度が存在しました。映画フィルムを特定の人に譲渡・貸与する行為でも、それが公衆への上映が目的とされている場合、権利者に経済的損失を与える可能性が高いと考えられていました。そのため、頒布権で配給制度による対価の獲得に法的根拠を与えるために、映画の著作物では「公衆に提示することを目的として」の譲渡・貸与も頒布に含めることを明記しました。

しかし、条文では「上映」以外でも提示行為が該当する可能性があります。例えば、公衆送信も上映と同じ公衆提示行為に該当するのではという意見も存在します。ただし、頒布権は前述の通り、「配給制度」による対価の獲得に法的根拠を与えるために規定され、後段頒布はそれに基づいて規定されていますので、劇場での上映を目的としていない公衆送信に関して映画の著作物等を公衆提示目的で譲渡・貸与する行為を頒布に含む必要性は存在しないという見方もあります。

参考資料

条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日

著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)

文化庁「令和5年度著作権テキスト」

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