著作権法第2条 定義 二 著作者

条文

第二条 二 著作者 著作物を創作する者をいう。

定義

創作者主義とその例外

「著作者」とは、「著作者」とは「著作物を創作する者」、すなわちその作品の創造者を指します。この定義に従い、実際に作品を生み出した人が創作者として著作者と認められ、権利の帰属を決定するこの原則を「創作者主義」と呼んでいます。

原則として、創作者=著作者は実際に著作物を創作した自然人である必要があります。この法律において創作者=著作者とされていることは、19条3項において「著作者が創作者であることを主張する利益」と規定されていることが根拠です。

しかし、15条ではこの創作者主義を修正し、実際に著作物を創作した者ではなく、特定の条件下で法人などが創作者=著作者となることを規定しています(著作者人格権と著作権が共に法人などに原始帰属する)。その結果、特定の条件を満たす場合に限り、例外的に法人などの非自然人が創作者=著作者となることがあります。

さらに、29条では映画著作物について、特定の条件下で創作者=著作者でない者(映画製作者)に著作権が帰属すると規定し、創作者主義の例外を示しています。

ただし、上述の通り創作者=著作者と説明しましたが、学説の中には「創作者」と「著作者」を異なる概念として整理する見解も存在します。「創作者」とは実際に著作物の創作行為を行った自然人を指し、15条は法人などを「創作者」ではないが「著作者」とみなす規定と解釈されます。

つまり、「創作者」は実際の創作行為を行った従業者であり、法人などは「創作者」ではないものの「著作者」とされるということです。

著作者の認定

判断基準 著作物性判断との表裏一体性

ここでは、具体例を交えて、どのようにして創作者=著作者が特定されるかを検討します。基本的なルールとして、著作物を実際に創作した者が創作者であり、その結果として著作者と見なされることが必要です。つまり、実際の著作物創作プロセスにおいて、著作物を生み出す行為を実際に行ったことが客観的に証明される必要があります。創作的な表現が求められ、単に補助的な役割を果たした者は著作者とはみなされません。

著作者性を判断する際には、特定の行為が実際に著作物の創作行為、つまり創作的表現そのものの作出として評価されるかが重要です。例えば、写真撮影者だけでなく、被写体を配置した者が著作者として認められるかどうかは、その配置に創造性が含まれているかどうかを基準とします。複数人が共同で著作物を制作する場合、個々の寄与が単独で「創作」に該当しなくても、全体の「創作」過程の一環として評価されることもあります。

具体的な事例から判断基準を見る

著作物の創作者

「表現」を行っていない

著作物の制作を依頼・注文したり資金を提供したり、あるいは抽象的なアドバイスやアイデアを提供しただけの者は、創作過程における「表現」に直接関与していないため、その著作物の創作する者と呼ばず、創作者=著作者とは見なされません。

編集著作物に関しては

「編集に関するそれ以外の行為、例えば素材の収集行為それ自体は、素材が存在してこそその選択、配列を始めうるという意味で素材の選択、配列を行うために必要な行為ではあるけれども、収集した素材を創作的に選択、配列することとは直接関連性を有しているとはいい難いし、また編集方針や素材の選択、配列について相談に与って意見を具申すること、又は他人の行った編集方針の決定、素材の選択、配列を消極的に容認することは、いずれも直接創作に携わる行為とはいい難いから、これらの行為をした者は、当該編集著作物の編集者となりうるものではないといわなければならない。」

(東京地判昭和55年9月17日無体集 12巻2号456頁〔地のさざめごと事件〕)

同じく、 編集著作物に関して、

「光太郎自ら 『智惠子抄』 の詩等の選択,配列を確定したものであり, 同人がその編集をしたことを裏付けるものであって, Aが光太郎の著作の一部を集めたとしても, それは, 編集著作の観点からする と, 企画案ないし構想の域にとどまるにすぎないという べきである。 原審が適法に確定したその余の事実関係を もってしても, Aが 『智惠子抄』 を編集したものということはできず, 『智惠子抄』 を編集したのは光太郎であるといわざるを得ない。 したがって, その編集著作権は光太郎に帰属したもの」

最判平成5年3月30日判時1461号3頁 〔智恵子抄事件〕

また複数の物が創作に関与した場合は

「ところで、著作者とは、著作物を創作する者であり、これをいいかえれば、当該著作物の思想又は感情の表現につき創作的関与をした者であり、 たとえその創作過程において複数人が何らかの形で関与していたとしても、 創作的寄与に及ばない単なる補助者は著作者とはなり得ない。」

(東京地裁平成10年3月30日判決 〔ノンタン事件〕 )

また、雑誌中のインタビュー記事の作成において、 記事の作成自体には関与せず、単にインタビューに答えたに過ぎない者について、

「口述した言葉を逐語的にそのまま文書化した場合や、口述内容に基づいて作成された原稿を口述者が閲読し表現を加除訂正して文書を完成させた場合など、文書としての表現の作成に口述者が創作的に関与したといえる場合には、口述者が単独又は文書執筆者と共同で当該文書の著作者になるものと解すべきである。これに対し、あらかじめ用意された質問に口述者が回答した内容が執筆者側の企画、方針等に応じて取捨選択され、執筆者により更に表現上の加除訂正等が加えられて文書が作成され、その過程において口述者が手を加えていない場合には、口述者は、文書表現の作成に創作的に関与したということはできず、単に文書作成のための素材を提供したにとどまるものであるから、文書の著作者とはならないと解すべきである。」

(東京地判平成10年10月29日知的裁集30巻4号812頁 〔SMAP事件〕)

インタビューを受けた人が必ずしも著作者とは認められないわけではありません。著作物(=文書としての記事) の創作に直接関わったと判断されれば、著作者とみなされる可能性がある。しかし、この事例では、記事の作成自体には参加せず、単に記事作成の素材を提供したに過ぎないため、著作者性が否定されました。

建築の著作物に関することでは

「原告設計資料及び原告模型に基づく原告代表者の提案は,被告竹中工務店設計資料を前提として,その外装スクリーンの上部部分に,白色の同一形状の立体的な組亀甲柄を等間隔で同一方向に配置,配列するとのアイデアを提供したものにすぎないというべきであり,仮に,表現であるとしても,その表現はありふれた表現の域を出るものとはいえず,要するに,建築の著作物に必要な創作性の程度に係る見解の如何にかかわらず,創作的な表現であると認めることはできない。更に付言すると,原告代表者の上記提案は,実際建築される建物に用いられる組亀甲柄の具体的な配置や配列は示されていないから,観念的な建築物が現されていると認めるに足りる程度の表現であるともいえない。以上によれば,本件建物の外観設計について原告代表者の共同著作者としての創作的関与があるとは認められない。」

(東京地判平成29年4月27日平27(ワ)23694号 〔ステラマッカートニー青山事件:第1審〕)

その他

「脚本作成への関与は,原作ないし企画の決定,脚本執筆者の決定,アイディアの提供,被告D1の作成した脚本の1割に満たない部分のシーンカット等であり,脚本の作成においては,極めて周辺的,補助的な関与にすぎないものであって,これをもってC1が上記各B作品(B1ないしB5,B7初演前原稿,B8初演前原稿)を著作したと認めることはできない。」

(東京地判平成16年3月19日判時1867号112頁 [ミュージカル脚本事件])

「ジョン万次郎像の塑像制作について創作的表現を行った者は原告であるから,ジョン万次郎像は原告が制作したものと認められる。被告は,ジョン万次郎像について,その塑像の制作,石膏どり,鋳造といった銅像の制作工程において,原告の助手として,その制作に必要な準備を行ったり,粘土付け等に関与したにすぎないものと認められる。
以上によれば,本件では,被告がジョン万次郎像の制作者として,自己のサインをその台座部分に施しているため,著作権法14条により,ジョン万次郎像の著作者であると推定されるものの,その推定は覆されたものというべきであり,ジョン万次郎像は,原告により制作され,著作されたものと認められる。」

(東京地判平成17年6月23日平15 (7) 13385 号 〔ジョン万次郎事件〕)

編集方針が単なる思いつきだと考えるならば、そのような方針を決定した者は著作者ではないとされます。しかし、素材の具体的な選択や配置が創作的な表現の一部と見なされる場合、その選択や配置が作品に直接的な影響を与えているなら、その人は著作者であると考えられる。このことは、著作者性の判断が創作の本質や著作物としての性質の判断と密接に関連していることを示しています。

創作性ある行為を行っていない物

たとえ「表現」とみなされる行為(例えば、キーボードを使った入力作業など)に関与していても、その行為が「創作性」が認められなければ、結局のところ、その人は「著作物」の「創作者」とは言えません。

映画の著作物に関して

「原告の関与は,被告の製作意図を忠実に反映したものであって,本件著作物の製作過程を統轄し,細部に亘って製作スタッフに対し指示や指導をしたというものではないから,原告は,本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したということはできない。」

(東京地判平成14年3月25日判時1789号141頁 [宇宙戦艦ヤマト事件])

写真の著作物に関して

「Yは, 原告各写真の具体的な創作過程に基づいてヘ アドレッサーとカメラマンとの共同制作意思等について 主張立証をするわけではないが, 原告各写真の創作性は,前記ⅰで検討したとおり, 被写体の組み合わせや配置,構図やカメラアングル, 光線・ 印影,背景等に創作性があるところ, こうした点について, ヘアドレッサーとカメラマンとの間には原告各写真について共同著作物となるための要件である共同創作の意思が存するものとは認められないというべきである。」

(東京地裁平成27年12月9日判決 [ヘアスタイルコンテスト写真事件〕)

「原告は,被告らの指示に従って本件デザイン画を制作している。これらのことからすれば,原告は,被告らの指示に従って本件デザイン画を制作しなければならず,少なくとも被告らの意向に反して創作性を発揮することはおよそ許されない関係にあったものといえる。」

(大阪地判平成24年1月12日 平21(ワ)3102号平22(ワ)2324号 〔販促ツール事件〕)

様々な考慮する要素

著作者性の決定には基本的な基準が設けられるものの、実際の状況に応じた個別の判断が重要である。具体的な著作物の創造過程では、誰が創作活動に関与し、それを客観的に認識できるかが検討されます。このプロセスにおいては、行為の態様だけでなく、それに伴う様々な背景事情も考慮に入れられます。つまり、著作物の創作に関わる行為やその背景には、多くの要素が影響しているのです。

「原告は、日本漢字能力検定及びこれに係る書籍の発行を業務としているところ、日本漢字能力検定の主催者として行う「書籍の発行」業務とは、書籍の販売のみならず、主催者(出題者)としてのノウハウを生かした書籍の制作業務を当然含んでいるものと考えられる。」

(大阪地判平成24年2月16日判時2162号124頁 漢検問題集事 件:第1審〕)


「また, 本件のように共同編集著作物の著作者の認定が問題となる場合,例えば, 素材の選択,配列は一定の 編集方針に従って行われるものであるから, 編集方針を 決定することは, 素材の選択,配列を行うことと密接不 可分の関係にあって素材の選択,配列の創作性に寄与す るものということができる。 そうである以上,編集方針 を決定した者も, 当該編集著作物の著作者となり得ると いうべきである。 他方,編集に関するそれ以外の行為として, 編集方針 や素材の選択,配列について相談を受け, 意見を述べることや, 他人の行った編集方針の決定,素材の選択,配列を消極的に容認することは、いずれも直接創作に携わる行為とはいい難いことから, これらの行為をしたにとどまる者は当該編集著作物の著作者とはなり得ないというべきである。」 」
「創作性のあるもの,ないものを問わず複数の者による様々な関与の下で共同編集著作物が作成された場合に,ある者の行為につき著作者となり得る程度の創作性を認めることができるか否かは,当該行為の具体的内容を踏まえるべきことは当然として,さらに,当該行為者の当該著作物作成過程における地位,権限,当該行為のされた時期,状況等に鑑みて理解,把握される当該行為の当該著作物作成過程における意味ないし位置付けをも考慮して判断されるべきである。」

(東京地決平成28年4月7日判時2300号76頁[著作権判例百選事件〕)

これらの事情は、現実の著作物の創作過程において行われた実際の行為を、著作物の創作行為として事実上認められるかどうかを判断する際の補助的な資料として扱うべきであり、著作者性の判断において決定的な要素とはみなされるべきではありません。これらの事情は、著作物の創作に関連する判断において限定的な意味を持つと理解するべきです。

確定理論

編集著作物に関して、著作者は選択や配列を行った人とされる。一方、一般著作物の場合は、著作物の内容を決めた人が著作者である。ただし、編集著作物では他者の提案を修正せずに全て受け入れた場合でも著作者と見なされるが、一般著作物ではそうではない。つまり、編集著作物では、原案の作成者だけでは著作者とは認められず、原案に対する決定を含む選択・配列の決定者が著作者とされる。ただし、決定権の有無や立場は、著作者かどうかを判断する際の間接的な要因に過ぎない。

しかし、実際の著作物創作プロセスにおいては、「原案」が創作的表現と認められる限り、その表現を作った者が著作者である。他者が行った選択・配列をただ受け入れるだけでは著作者とは認められない。もちろん、「原案」に対する創作性のある修正を加えた場合、修正者も著作者となる可能性がある。

特殊な著作者

二次的著作物・共同著作物・編集著作物・職務著作物・映画著作物における著作者に関しては後程詳しく扱います。

参考文献

『条解著作権法』(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日

標準著作権法第5版(高林龍、有斐閣、2022年12月28日)

著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)

文化庁「令和5年度著作権テキスト」

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