著作権法第2条定義 二十 技術的保護手段

条文

第二条 二十 技術的保護手段 電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法(次号及び第二十二号において「電磁的方法」という。)により、第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権、出版権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権(以下この号、第三十条第一項第二号、第百十三条第七項並びに第百二十条の二第一号及び第四号において「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止(著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止をいう。第三十条第一項第二号において同じ。)をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送(以下「著作物等」という。)の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

定義

本号創設の背景

 本号は、著作物等を侵害する行為の防止又は抑止のために権利者が用いる特定の手段に関して、利用者がそれらを回避する行為を規制する内容を規定しています。そして、それらを本号は「技術的保護手段」という用語で権利者の措置を定義しています。本号は、平成11年の法改正で新しく導入されたもので、その背景には次の事情が存在します。
1980年代から、音楽や映像のメディアがデジタル化されると同時に、一般家庭用の複製機器媒体のデジタル化が進んだ。その経緯を経て欧米や日本等では、市販のメディアからのデジタル方式の複製を制限する技術的措置がデジタル方式の複製機器に導入されることになった。
 このように、ソフトウェアメーカーが複製防止のために複製機器に技術的な措置を取り入れた結果、それを回避する技術も出現するようになりました。この回避技術の使用や提供に関する法的な規制の必要性が議論されるようになりました。
 この問題は世界知的所有権機関(WIPO)でも取り上げられ、1996年には効果的な技術的手段の保護を義務付ける「WIPO著作権条約およびWIPO実演・レコード条約」が採択されました。

本号創設の経緯

日本では、著作権審議会などで技術的手段による複製制限の回避に関する規制の可能性が検討されてきました。「著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)報告書(平成 10 年 12 月)」の報告書では、「WIPO著作権条約およびWIPO実演・レコード条約」の内容を含む「技術的保護手段」の保護に関する法改正が提案されました。

具体的な改正案の内容として
①:「技術的保護手段」を著作権等の権利の対象に関連する行為の制限(コピーコントロール)に関連するものに限定し、権利の対象外となる行為(受信、視聴等)を制限する手段(アクセスコントロール)は対象外とする。
②:回避行為自体は規制対象とせず、回避による複製行為を私的複製の権利制限の対象外とする。
③:回避専用の装置の製造や頒布等は規制対象とする。

この内容に基づいて、平成11年に法改正が行われ、本号の規定が設けられました。

このように当初、この規定はコピーコントロール技術にのみを対象としていましたが、平成24年の法改正により、一定の場合にアクセスコントロール技術も対象に含めるようになりました。この改正は、DVDやブルーレイディスクなどに使われるアクセスコントロール技術が、実際にはコピーコントロールの機能も持っていると判断されたためです。さらに、令和2年の改正により、シリアルコードの送信などの認証方法も本号の対象となりました。

本号に該当する技術的保護手段

本号は「技術的保護手段」を大きく分けて2つの方式に分類している。
1.著作物等の利用に「用いられる機器が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式」(信号付加方式)

2.著作物等の利用に用いられる機器が「特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式」(暗号化方式)

電磁的方法


技術的保護手段に該当するためには、「電磁的方法」すなわち、「電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法」である必要があります。例えば、「複製禁止」と雑誌に記載するなど権利者が一方的に意志表示をしているに過ぎない場合や、ライセンス契約で法的に利用行為が制限されているにすぎない場合は、この規定の対象外です。あくまでも利用制限が技術的手段によるものが対象になります。しかし、本号では対象となる技術手段に特別な制約を設けているわけではありません。将来新たに現れる技術であっても、本号に該当するような「電磁的方法」、「電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法」であれば対象になります。

信号付加方式(著作物等の利用に用いられる機器が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し、若しくは送信する方式)

著作物とは別に特定のデータを記録媒体に記録するか、送信し、そのデータを読み取ることで機器が特定の反応を示す方式について述べています。この「特定のデータ」は一般的に複製行為を制限することを目的としています。

暗号化方式(著作物等の利用に用いられる機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式)

この方式では、著作物などのデータが暗号化されていることが特徴です。データを暗号化する主な目的は、鑑賞自体を制限することです。つまり、暗号を解読できる特定の機器を使用することで初めて、ソフトの視聴などが可能になります。
コピーコントロールやアクセスコントロールに限定せず「著作権等の侵害の防止または抑止をする手段である」と言えれば、この条項に該当することになります。

「著作権等」を侵害する行為の防止又は抑止をする手段

著作権等

技術的保護手段に該当するには「著作権等」を侵害する行為の防止又は抑止をする手段の必要がある。この「著作権等」には著作権だけではなく、著作者人格権、著作隣接権、実演家人格権、出版権も含まれる。

侵害する行為の防止又は抑止をする手段

 技術的保護手段の目的は「著作権等を侵害する行為の防止又は抑止」に限定されています。また、技術的保護を実行する機器は、著作物等の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際し、これに用いられる機器に限定されています。
 ここで言及されている「侵害する行為の防止」とは、著作権等の支分権の侵害の防止を指しており、特に複製の防止が典型例です。また、「侵害の抑止」とは、本号のかっこ書きにて「著作権等を侵害する行為の結果に著しい障害を生じさせることによる当該行為の抑止」とされています。
 つまり、「抑止」と「防止」とは、機器自体の機能が複製権等の支分権の対象となる著作物の利用行為が実行可能であることを前提としています。
本号における「防止」とは、機器自体に著作物の利用行為を実行させないものであるのに対して、「抑止」は機器自体に著作物の利用行為の実行自体は許すものの、その結果としてユーザーが得る利益を無くすことであるということになります。

著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているもの

以上のような要件を満たしても「著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているもの」に該当する場合には技術的保護手段には該当しません。

本号に該当する条文

本号の技術的保護手段に該当する条文には30条私的使用のための複製の権利制限の対象外となります。 また、113条みなし侵害にも含まれており、120条の2に該当すれば刑事罰が科せられます。

参考文献

条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日

著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)

文化庁「令和5年度著作権テキスト」

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