第二条 六 レコード製作者 レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。
定義
レコード製作者の定義
「レコード製作者」という言葉は、一見するとレコード会社のようなレコードを製作する者を指すように思われがちです。しかし、ここでの「レコード製作者」は、本条で定義された「レコード」の「レコ ードに固定されている音を最初に固定した者」を指します。これは「原盤制作者」という用語とほぼ同義であり、一般的には「原盤権」という概念の中心となる「レコード製作者の権利」を表しています。原盤とは、CDのプレスに使用されるマスターテープのことで、通常はレコーディングスタジオでアーティストやスタジオミュージシャンの演奏をエンジニアが録音・編集して作成されます。
この文脈では、レコードの原盤からプレスする者や、他人が固定した音を再度記録する者は「最初に固定」という要件を満たさず、レコード製作者には該当しません。音楽CDに含まれる最終的な音源に関わるミキシングなどの工程に参加した者がレコード製作者かどうかの判断は、特定のケースで議論されることがあります。この場合、加工された音が元の音と識別可能な限り、元の音と同一視される可能性があります。
「ところで,著作権法96条は,「レコード製作者は,そのレコードを複製する権利を専有する。」と定めているところ,ある固定された音を加工する場合であっても,加工された音が元の音を識別し得るものである限り,なお元の音と同一性を有する音として,元の音の「複製」であるにとどまり,加工後の音が,別個の音として,元の音とは別個のレコード製作者の権利の対象となるものではないと解される。」
(大阪地判平成30年4月19日判時2417号80頁 〔ジャコ・パストリアス事件: 第1審〕)
固定した者の定義
「固定した者」という表現は、「録音を行った物理的な操作者(録音機器の操作者)だけを指すわけではなく、録音行為に法的な権限や責任を持つ者」を意味します。この定義には自然人だけでなく、法人も含まれます。例えば、レコード会社の社員が仕事として録音を行った場合、その録音行為に対して「固定した者」としての法的責任は、個々の社員ではなくレコード会社に帰属するとされています。
「著作権法上、レコード製作者とは、「レコードに固定されている音を最初に固定した者をいう。」(著作権法2条1項6号)と定義されているから、レコード(同法2条1項5号)に入っている音を初めて蓄音機用音盤、録音テープその他の物に固定した者、すなわち、レコードの原盤の制作者を指すものと解される。そして、レコード製作者であるためには、いかなる方式の履行をも要しないものであるが(同法89条5項)、物理的な録音行為の従事者ではなく、自己の計算と責任において録音する者、通常は、原盤制作時における費用の負担者がこれに該当するというべきである。」
(東京地判平成19年1 月19日判時 2003号111頁 (THE BOOM 事件])
参考資料
条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日
標準著作権法第5版(高林龍、有斐閣、2022年12月28日)
著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)