著作権法第二条 九の七 放送同時配信等

条文

九の七 放送同時配信等 放送番組又は有線放送番組の自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。以下この号において同じ。)のうち、次のイからハまでに掲げる要件を備えるもの(著作権者、出版権者若しくは著作隣接権者(以下「著作権者等」という。)の利益を不当に害するおそれがあるもの又は広く国民が容易に視聴することが困難なものとして文化庁長官が総務大臣と協議して定めるもの及び特定入力型自動公衆送信を除く。)をいう。
イ 放送番組の放送又は有線放送番組の有線放送が行われた日から一週間以内(当該放送番組又は有線放送番組が同一の名称の下に一定の間隔で連続して放送され、又は有線放送されるものであつてその間隔が一週間を超えるものである場合には、一月以内でその間隔に応じて文化庁長官が定める期間内)に行われるもの(当該放送又は有線放送が行われるより前に行われるものを除く。)であること。
ロ 放送番組又は有線放送番組の内容を変更しないで行われるもの(著作権者等から当該自動公衆送信に係る許諾が得られていない部分を表示しないことその他のやむを得ない事情により変更されたものを除く。)であること。
ハ 当該自動公衆送信を受信して行う放送番組又は有線放送番組のデジタル方式の複製を防止し、又は抑止するための措置として文部科学省令で定めるものが講じられているものであること。

定義

本号の趣旨

本号は、 「放送同時配信等」についての定義を定めるものであり、 令和3年改正によって新設された。放送番組については、いわゆる「同時配信」「見逃し配信」 「追っかけ配信」など、 インターネット環境で配信されるものが増えている。わが 国の法制度は伝統的に「放送」と「通信」を区別し、 放送については著作権等の権利 処理を容易にしてきたが、この区別が維持されれば、 放送番組のインターネット 配信は放送のような簡便な権利処理を享受できない。 近時の環境変化に伴い、 よりスムーズな放送番組のインターネット配信を実現するために、 「放送同時配信 等」についての規定が設けられるに至った。

放送同時配信等

本号では「放送同時配信等」を「放送番組又は有線放送番組の自動公衆送信」のうち、「次のイからハまでに掲げる要件を備えるもの」と定義している。

放送番組又は有線放送番組の自動公衆送信

「放送番組」及び「有線放送番組」は、著作権法上定義は置かれていないが、一般的な語義と同様に、放送により送信される番組、有線放送により送信される番組を意味している。
文化庁「著作権法の一部を改正する法律(令和3年改正)について

「自動公衆送信(当該自動公衆送信のために行う送信可能化を含む。以下この号において同じ。)」
「放送同時配信等」については、送信行為のみならず、その準備としてサーバーに情報を蓄積・入力する行為を含める必要があることから、定義上「送信可能化」を含めることとしている。
文化庁「著作権法の一部を改正する法律(令和3年改正)について」

次のイからハまでに掲げる要件を備えるもの

著作権者、出版権者若しくは著作隣接権者(以下「著作権者等」という。)の利益を不当に害するおそれがあるもの又は広く国民が容易に視聴することが困難なもの

「著作権者、出版権者若しくは著作隣接権者…の利益を不当に害するおそれがあるもの」は、例えば、有線の音楽専門チャンネルなど音楽配信ビジネスに影響を及ぼし得るサービスが、「広く国民が容易に視聴することが困難なもの」は、例えば、ごく限られた者に限定したサービス、高額な料金を徴収するサービスなど一般視聴者が利用できない形態のサービスが考えられる。
文化庁「著作権法の一部を改正する法律(令和3年改正)について」

本号イの要件

本号イでは、配信のタイミングや時期を限定しています。
原則としては、「放送番組の放送又は有線放送番組の有線放送が行われた日から一週間以内」としており、放送と同時又は近接したタイミングに限り視聴できるものを対象としています。この1週間という期限の理由は、ほとんどの番組が週1回のペースで放送されることや、その期間中の視聴需要の高さを考慮して設けられています。さらに、番組を複数回オンラインで視聴可能にすると、それはアーカイブ化に近づき、通常の放送とは異なるものと見なされる可能性を考慮した結果です。

具体的なサービスとして

・ 「同時配信」:放送と同一のタイミングで配信が行われるサービス
・ 「追っかけ配信」:ある番組の放送の開始から終了までの間に配信が開始されるサービス
・ 「見逃し配信」:放送の終了後、一定期間内に限り配信が行われるサービス
文化庁「著作権法の一部を改正する法律(令和3年改正)について」

ただし、特別なケースとして、「当該放送番組又は有線放送番組が同一の名称の下に一定の間隔で連続して放送され、又は有線放送されるものであつてその間隔が一週間を超えるものである場合には、一月以内でその間隔に応じて文化庁長官が定める期間内」として最大で放送から1ヶ月以内の期間に配信が許可されています。これは、隔週や月に1回放送される番組を含むもので、例えば連続ドラマや教育番組のように一回見逃すと次回の視聴が難しくなるケースを考慮しています。このような番組では、次回放送までにキャッチアップするための配信が、放送に付随する形で提供されることが多いです。このため、放送頻度が1週間に1回を超える場合、1ヶ月以内の配信は適切とされています。なお、放送開始前の配信については、これが放送に付随するサービスとは見なされず、現時点でそのようなサービスの実態もないため、対象外とされています。

本号ロの要件

本号口の要件では、原則として、配信される内容が放送番組の内容と同一であることを求めている。配信される内容が放送番組の内容と異なる場合には、放送と同視でき、かつ、放送に付随するものとは言えないた めである (文化庁著作権課・前掲54頁)。 もっとも、権利処理が行えていないため、同 時配信等を行う際にいわゆる「フタかぶせ」などの処理をやむを得ず行わなくては ならないこともあることから、「著作権者等から当該自動公衆送信に係る許諾が 得られていない部分を表示しないことその他のやむを得ない事情により変更され たものを除く」というかっこ書が付されている(文化庁著作権課・前揭54頁)。
なお、 放送番組の合間に流れるCM、 災害情報等をL字型画面などで流すこと については放送番組から独立しているため、 放送同時配信の際にこれらの差替え を行っても本要件には抵触しない(文化庁著作権課・前揭54頁以下)。

「放送番組又は有線放送番組の内容を変更しないで行われるもの(著作権者等から当該自動公衆送信に係る許諾が得られていない部分を表示しないことその他のやむを得ない事情により変更されたものを除く。)であること」について
同国では、オンラインで配信される番組の内容がテレビ放送の内容と変更なしで一致していることが求められています。これは、番組内容に変更を加えると、それがもはや放送に伴うサービスとはみなされなくなるためです。他方、番組内容の同一性は求めつつも、権利処理未了のために生じるフタかぶせなどのやむを得ない事情による変更は認められるよう、例外的に著作権者、出版権者又は著作隣接権者から「当該自動公衆送信に係る許諾が得られていない部分を表示しないことその他のやむを得ない事情により変更されたもの」も対象とすることとしている。

文化庁「著作権法の一部を改正する法律(令和3年改正)について」

また、放送中に流れるCMや、災害情報などを表示するL字型画面の部分は、通常、番組本体とは独立しているとみなされます。そのため、オンライン配信時にこれらのCMやL字型画面の内容を差し替えても、これらは基本的な要件に反しないとされています。

本号ハの要件

「当該自動公衆送信を受信して行う放送番組又は有線放送番組のデジタル方式の複製を防止し、又は抑止するための措置として文部科学省令で定めるものが講じられているものであること。」

ハでは、権利者への影響を考慮し、ストリーミングサービスのみを対象とする方針を採用しています。このため、放送された番組がダウンロードされないように、特定の措置を施しています。ここでいう「防止」は行為を完全に止めること、一方で「抑止」は行為を完全には止めないが、行為に大きな障害をもたらすことを意味します。技術的には利用者による不正なデータの拡散を完全に防ぐことは難しいため、抑止による措置を採用しています。

また、コピーコントロール技術に関する法律では、抑止機能に関する定義がより具体的になっています。これは著作権侵害行為に対抗するための機能を求めるもので、私的利用を含む著作物の利用にも技術的制限を加えることを意味します。具体的な措置については、技術の変化に対応できるよう文部科学省令で規定されています。この省令では、視聴者が放送された番組のデジタルコピーを作成するための送信元識別符号の提供を行わないようにする措置を定めています。これにより、放送事業者は視聴者がダウンロードできるようなボタン等の提供を行わないようにしています。

参考資料

条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日

標準著作権法第5版(高林龍、有斐閣、2022年12月28日)

著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)

文化庁「著作権法の一部を改正する法律(令和3年改正)について」

文化庁「令和5年度著作権テキスト」

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