著作権法 第二十条 同一性保持権

条文

第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。

一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの

二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変

三 特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変

四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

同一性保持権

本条の概要

本条は、著作者人格権の1つである同一性保持権に関して規定しています。著作者には、自らが創り出した著作物の同一性を保持し、許諾なく改変されることに対して人格的権利を認められています。他者に著作物を無断で改変された場合、著作者の作品に対する個人的なこだわりや社会的な評判が損なわれ、著作者の人格的権利が侵害される可能性があります。このため、同一性保持権は著作者がそのような著作物の同一性に対して持つ人格的権利を守るために存在しています。

「著作物は著作者の人格の具現化されたものであることから、著作物に具現化された著作者の思想・感情の表現の完全性あるいは全一性を保つ必要があるという趣旨から出たものであります。と同時に、文化的な要請という観点もあります。つまり著作物が創作されると、それは著作者個人の財産であるとともに、国民にとっては文化的所産でもあり、そういうものを勝手に第三者が変更することができては国民が迷惑します。」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.,180-181頁)

著作物及びその題号

同一性保持権の対象になるのは「著作物及びその題号」です。つまり著作物の内容が改変される場合だけでなく、その題号が改変される場合にも同一性保持権侵害になり得ます。

本条が著作物とは別に題号も対象にしているのは、著作物性を有しない題号も同一性保持権の対象になることを意味しています。

本件ソフトのゲーム表示画面上及びオープニングムービー内に表示されたタイトルが「まいにちがすぷらった!」であることは前記第2、1、(3)のとおりであり、これは、本件シナリオの著作者である原告が付けた題号「毎日がすぷらった」に被告が変更を加えたものであるから、著作権法20条1項にいう題号の改変に当たる。

大阪地判平成13年8月30日平12(7) 10231号 〔毎日がすぶらった事件〕

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/275/085275_option1.pdf

被告によるタイトルの変更が原告の意に反していることは明らかであるから,被告の行為は,著作物の題号を著作者の意に反して改変したものとして,原告の同一性保持権侵害に当たる(著作権法20条1項)と判断すべきである。

東京地判平成27年6月25日 平26(ワ) 19866号 〔恋の持続力事件〕

また本号の題号に関しては

「ただ、本項で題号といいますのは、著作者が付けた題号の意味であって、第三者によって後から付けられた呼称は含まれません。例えばベートーベンの交響曲第5番が「運命」とよばれておりますけども、これはベートーベンが付けた著作物の題号ではなく、実際上その著作物をそう呼びならわしているというだけですから、「運命」という呼称を変えたり、削ったりすることについては、同一性保持権の問題ではございません。」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター,181項)

変更、切除その他の改変

同一性保持権とは「同一性を保持する権利」です。さらに「改変を受けないものとする。」と規定されていますので、著作者は改変に対して反対することが可能な権利と解釈できます。

学術論文における文章の改変について

本件論文は大学における学生の研究論文であり、また、本件雑誌が大学生を対象としたものであることは、弁論の全趣旨により明らかであることからすると、利用の目的において、教科用の図書の場合と同様に前記のような改変を行わなければ、大学における教育目的の達成に支障が生ずるものとは解し難いし、また、前記のような性格の論文において、他の論文との表記の統一がいかなる理由で要請されるのかも明確ではない。

東京高判平成3年12月19日 知的裁集23巻3号823頁〔法政大学懸賞論文事件〕

イラストの改変に関しては

一般に,イラストは,線描のみならず,その色調の違いのみによっても見る者に異なる印象を与えるから,色の選択は,基本的には,イラストレーターが自己の作風を表現するものとして,イラストレーターの人格的な利益に関わるというべきであり,本件各イラストの色を変更した被告スタジオダンクの行為は,著作者である原告の意に反する改変に当たり,本件各イラストについての原告の同一性保持権を侵害したというべきである。

東京地判平成19年11月16日平19(ワ)4822号 〔おりがみあそび事件〕

漫画の改変について

編集長が本件原画に別紙1のとおりの改変を加えたことは、少なくとも外形的には原告の本件原画についての同一性保持権を侵害するものということができる。

東京地判平成8年2月23日知的裁集28巻1号54頁 〔やっぱりプスが好き事件)

写真画像について

本件リツイート行為の結果として送信された HTML プログラムや CSS プログラム等により位置や大きさなどが指定されたために,改変されたということができるから,改変の主体は本件リツイート者らであると評価することができるのであって,インターネットユーザーを改変の主体と評価することはできない(著作権法47条の8は,電子計算機における著作物の利用に伴う複製に関する規定であって,同規定によってこの判断が左右されることはない。)。また,被控訴人らは,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は,流通情報2⑴の画像と同じ画像であるから,改変を行ったのは,本件アカウント2の保有者であると主張するが,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は,控訴人の著作物である本件写真と比較して改変されたものであって,上記のとおり本件リツイート者らによって改変されたと評価することができるから,本件リツイート者らによって同一性保持権が侵害されたということができる。

知財高判平成30年4月25日民集74巻4号1480頁 [リツイート事件:控訴審)

本条では「変更、切除その他の改変」と記されていますので、「変更」および「切除」は「改変」の例示と読むことが可能です。

ただし、同一性保持権は著作物を対象とした権利ですので、著作物を改変した結果、その著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できないまでに改変が加えられた場合、同一性保持権は及びません。

なお、自己の著作物を創作するにあたり、他人の著作物を素材として利用することは勿論許されないことではないが、右他人の許諾なくして利用をすることが許されるのは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴をそれ自体として直接感得させないような態様においてこれを利用する場合に限られる

最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁 〔パロディ・モンタージュ写真事件: 第 1次上告審〕

著作権法二〇条に規定する著作者が著作物の同一性を保持する権利(以下「同一性保持権」という。)を侵害する行為とは、他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいい、他人の著作物を素材として利用しても、その表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様においてこれを利用する行為は、原著作物の同一性保持権を侵害しないと解すべきである

最判平成10年7 月17日判時1651号56頁 〔本多勝一反論権事件: 上告審〕

そもそも他人の著作物利用行為に該当しなければ同一性保持権は関係ありません

被告各カタログ中の原告各作品部分は、墨の濃淡、かすれ具合、筆の勢い等の原告各作品における特徴的部分が実質的に同一であると覚知し得る程度に再現されているということはできないから、原告各作品の複製物であるということはできない。

 以上のとおり、原告の複製権が侵害されたことを理由とする原告の請求は理由が

ない。

 なお、原告の氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害の主張については、前記のとおり、被告らの原告各作品の利用の態様が、原著作物の内容及び形式の特徴的部分を覚知させるようなものでない以上、原告の氏名表示権及び同一性保持権による利益を損なうものと解することはできず、結局、原告の右主張は失当ということになる。

東京地判平成11年10月27日 [雪月花事件]

また学説によっては

「同一性保持権侵害の要件としての「著作物の改変」を、改変された表現を提供・提示することにより、「改変されていないとの誤認」を惹起することと解すべきであります。それゆえ、私的領域における改変行為、著名な作品のパロディ、引用時の抜粋・要約、翻案・映画化などに伴う改変については、このような誤認を惹起しない限り「著作物の改変」には該当せず、およそ同一性保持権の侵害とはならない。」

「そして、同一性保持権侵害の要件としての「著作物の改変」とは、改変されたものを提供・ 提示する行為により(造形芸術の原作品だけは少し別の扱いになりますが、それは後でお話 しします)複製物等への改変に接した者に、そのように改変されたものを、オリジナルの作 品である、改変されていない作品であると誤認させる行為、短く言えば「改変をされていな いとの誤認」を惹起する行為が「著作物の改変」にあたると解すべきであると思います。」

(金子敏哉「同一性保持権侵害の要件としての『著作物の改変』の解釈―改変を認識できれば『改変』にあたらない説―」)  という主張もあります。

「大きな観点からすれば、あらゆる著作物は先人の影響を受けて成立しているということができ、多くの著作者は何らかの意味で過去の作品を改変あるいは模倣して自己表現をしているともいえる。そうであるならば、他人の著作物を改変して利用することも自己表現の一手段であって、表現の自由の範疇に属する問題であるとみることもできる」(中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.,635頁)

同一性保持権の物理的毀損との関係

「同一性保持権は、著作物の同一性を保持することに係る人格的利益が保護対象であり、著作物が具現化されている有体物が物理的に毀損したとしても、そのこと自体が同一性保持権侵害にはならない。例えば美術の原作品が一部毀損され、その状態で、あたかもそれが元の作品であるかのように世に示されれれば、その段階で同一性保持権の問題になり得る。」(作花文雄. (2022年12月20日). 詳解著作権法[第6版]. 株式会社ぎょうせい.237頁)

意に反して

本条1項「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」から、同一性保持権は著作者の意に反して行われた改変に対する権利です。同一性保持権は著作者の著作物の同一性に対するこだわりを保護する主観的な権利です。

「意に反して」とは著作者の意思が尊重されることと解釈されます。裁判例では以下のケースが同一性保持権の侵害に当たるとしました。

著作者人格権に対する侵害行為の内容は送り仮名の付し方の変更、読点の切除、中黒の読点への変更及び改行の省略であるところ、著作物における送り仮名の付し方、読点の種類・位置、改行の要否等については、これを規制する法令の定めはなく、また、常に厳格な文法上の約束事があるとは限らず、広く著作者の個性に委ねられ、他人がみだりに容喙することが相当でない分野であるといわなければならない。しかしながら、これらの改変の結果により、当該部分の実質的な意味内容が変更したと認めることはできない上、被控訴人の改変行為においては一般的に広く採用されているところの表記法を採用したものであることからすると、右改変行為により本件論文の客観的価値が毀損されたものとは認め難い。また、侵害行為の態様においても被控訴人において控訴人が前記のような表記方法を厳守していることを知りながら、殊更にこれを無視して前記改変を行ったものと認めるに足りる証拠はなく、かえって、かかる事情を知らないまま読者により分かり易い表現にするとの観点から一般的に広く採用されているところの表記法を採用したものであることは既に認定したとおりである。加えて、被控訴人の前記改変により控訴人の社会的評価が著しい影響を受けたものと認めるに足りる証拠は全くない。

東京高判平成3年12月19日 知的裁集23巻3号823頁〔法政大学懸賞論文事件〕

なおベルヌ条約における同一性保持権については

第六条の二 著作者人格権

著作者は、その財産的権利とは別個に、この権利が移転された後においても、著作物の創作者であることを主張する権利及び著作物の変更、切除その他の改変又は著作物に対するその他の侵害で自己の名誉又は声望を害するおそれのあるものに対して異議を申し立てる権利を保有する。

文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約

「自己の名誉又は声望を害するおそれのあるもの」に限定され反対できる権利とされています。日本の同一性保持権はベルヌ条約の基準を超えた権利(ベルヌプラスと呼ばれる)と解釈するのが妥当です。「客観的には著作者の名誉・声望を害する事実がなくても、意に反する改変であれば原則として同一性保持権侵害になるような規定ぶりである。」(中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣,632頁)

条文だけを見るとあらゆる改変に対して同一性保持権侵害に該当する可能性があるように

見えますがこのような裁判例も存在します

本件写真をディスプレイ上に映した映像と本件雑誌に掲載された写真を対比すると、媒体が異なることから両者は全く同一であるとはいえないものの、本件雑誌の写真は本件写真をかなり忠実に再現しており、本件雑誌の写真がディスプレイ上の映像よりも特に質的に劣るとも認められないから、本件写真をCD-ROMから紙媒体に転用したことが、同一性保持権の侵害になるということはできない。

東京地判平成11年3月26日判時1694号142頁[ドルフィン・ブルー事件]

また人格的利益を害するとは言えない些細な改変では同一性保持権侵害にならないケースも存在します。

 著作者の人格的利益の保持のため著作者に認められた権利であるから、著作者の人格的利益を害しない程度の変更は同一性保持権の侵害とはならないものと解すべきところ、

(中略)

原告は構成及び演出を担当した本件映画の著作者の一人ではあるが、本件映画の単独著作者ではないことなどの前説明の事実を併せ考えれば、原告主張のとおり被告が右タイトル・フイルムを加えることにより本件映画の呎数を長くしたからといつて、原告が本件映画について著作者の一人として有する人格的利益が害されたものとは認められないから、被告の右行為により原告が本件映画について有する同一性保持権が侵害されたとはいえない。

(昭和52年2月28日 [九州雑記事件])

(1) 原告転職情報1ないし9と被告転職情報(A1ないし9及びB1ないし6)とを対比すると,ひらがなと漢字の用字上の相違,「です,ます」等の文章末尾の文体上の相違,数字上の相違が認められるが,実質的に同一であるということができるので,後者は前者の複製物と認められる。

  したがって,被告転職情報A,Bを被告ウエブサイトに掲載する行為は,原告転職情報について有する原告の著作権(複製権,翻案権,送信可能化権)を侵害する。また,上記の事実経緯に照らせば,少なくとも被告の過失により行われたと認めることができる。

 (2) 被告転職情報A及びBは,原告転職情報に依拠し,これに文末の表現や数字等を変更した上,これらの掲載項目の順序を入れ替えて作成されたものである。しかし,上記の変更は,原告転職情報の本質的な特徴をなす表現部分を改変したと評価することはできないので,被告の行為は,原告の有する同一性保持権を侵害したものではない。

東京地判 平成15年10月22日 [転職情報事件]

 また、著作者の意に反しない改変については同一性保持権侵害には該当しないということになります。例にあげるなら、著作者が具体的な改変内容について明確に特定して同意していた場合、そのような改変については著作者の意に反しているものとは言えないため、その状況ですと同一性保持権の侵害には該当しないと解釈できます。ただ、著作者があらゆる改変も同意するような契約が結ばれた場合、どこまでの改変を著作者が意に反しない改変として同一性保持権侵害に該当しないかが問題になります。

著作者人格権の不行使契約については現在もどこまで有効性があるのか議論が続いていますが、同一性保持権に限れば本条2項4号で「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」が認められていますので、あらかじめ、包括的な著作者人格権不行使契約が結ばれているという諸事情も考慮されると考えられます。

 また、著作者は著作物の無断改変に対して反対することが可能です。そのため、著作者は著作物を無断改変している者がいれば、差し止め請求として改変行為の停止を求めることができます。また法113条1項1号や2号に該当する行為も著作者人格権侵害になるとみなされます。

一方でこのような場合には差し止め請求が認められないという意見があります。

なお,同一性保持権は,著作者の意に反する著作物及びその題号を「変更,切除その他の改変」をする行為のみを侵害行為としており,これらの改変がされた後の利用行為は侵害行為とされていない(著作権法20条)。また,著作権法113条1項が同一性保持権の侵害とみなす行為として規定しているのは,同一性保持権の侵害行為によって作成された物を情を知って頒布する行為のほか,頒布目的の所持や頒布の申出,業としての輸出やその目的の所持等の行為にとどまり,上映,複製,公衆送信及び送信可能化は含まれていない。そうすると,本件各著作物について被控訴人が有する同一性保持権に基づいて請求することができるのは,本件映画の複製物の頒布の差止め(控訴人は,同一性保持権を侵害する本件映画を自ら製作した者である上,本件映画が同一性保持権を侵害する旨判断した原判決にも接しているから,頒布時に情を知っていることは明らかである。)にとどまり,本件映画の上映,複製,公衆送信及び送信可能化の差止めを求めることはできない。

知財高判平成28年12月26日 平27(木)10123号 〔性犯罪被害映画事件]

なお、被告【A】は原告に「【D】の症例」の確定原稿を見せてその承諾を得たうえ福村出版に送付し、同出版は右原稿(但し脱落した脚注の部分はそうではない)に基づき「心理療法入門」を出版したのであるから、原告が「Y子の症例」の著作に対して有する同一性保持権(同法二〇条)を同被告が侵害したものとは認められず

大阪地判 昭和60年5月29日  [Y子の症例事件]

上記変更箇所の一部である別紙無断改竄箇所全リスト記載の193箇所(◎が付された10箇所を除く箇所)は,①被告Bが自ら変更した箇所,②被告Bが被告会社の校閲部

に依頼した結果,校正された箇所(乙4),③印刷所のゲラ(乙3)の変更箇所のいずれかであること,その数は,①が46箇所,②が141箇所,③が6箇所であると認められ,これらについて原告の同意を得たことを認めるに足りる証拠はない。

  そうすると,別紙無断改竄箇所全リスト記載の203箇所中上記193箇所については,原告の「魔術師」に対する著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたものと認められる。

東京地判 平成13年10月30日 [魔術師事件]

そして,教科用図書への掲載に際して改変することと,家庭用学習教材に

おいて改変することとは,全く別個の行為であって,仮に前者の掲載の際に原告ら

が改変を承諾した事実があったとしても,後者の改変を承諾したことにはならな

い。

よって,前記認定の改変は,「意に反する」改変であるといわざるを得ず,被告の上記主張は理由がない。

東京地判 平成16年5月28日  [国語教科書事件]

または明示的な同意だけではなく黙示の同意についても

原告は、本件原画一の分割使用、本件原画一を使用したパンフレットやポスターに原告の氏名を表示しないこと、本件原画一に鉄道等の表示を付加することにつき、少なくとも黙示的に承諾していたものと認めるのが相当である。したがって、著作者人格権の侵害を理由とする損害賠償請求も理由がない。

長野地判 平成6年3月10日 白馬村パンフレット事件

被告らは、本件著作物の性質、「合成使用」という語の用法等を挙げて、本件利用のような組み合わせ、変形、色変換について、原告が承諾したものである旨主張する。しかし、前記認定のとおり、本件打診書の「(合成使用したい為)」という暖昧な文言により、色調、輪郭、細部等についての大幅な変更まで原告が承諾したものと解することはできず、被告らの主張は採用できない

東京地判 平成10年10月26日 恐竜イラスト事件

「すなわち,同一性保持権とは,その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し,その意に反してこれらの変更,切除その他の改変を受けない権利である(著作権法20条)ところ,同条は,条文上,改変行為だけを侵害行為として,改変された後の著作物の利用行為については規定していないものである。

知財高判平成22年8月4日判時2096号133頁〔北朝鮮極秘文書事件控訴審)

一方、同一性保持権を侵害して改変された著作物を公衆に提示する行為も、それ自体が客観的に見れば著作物の改変行為に該当すると評価できる場合があります。

著作物を一部改変して作成された同一性保持権を侵害する複製物をそのまま複製し 本件のように 自らのホームページに掲載する行為も 客観的には著作物の改変行為であり,著作権法20条1項の同一性保持権侵害行為に当たるというべきである。

平成19年4月12日平18(ワ) 15024号 [創価学会写真ウェブ掲載事件]

 法20条によれば,同一性保持権とは,その著作物及びその題号の同一性

を保持する権利を有し,その意に反してこれらの変更,切除その他の改変を受けな

い権利である。そして,法20条は,条文上,改変行為だけを侵害行為としてお

り,改変された後の著作物の利用行為については規定されていない。

   また,法113条1項には,同一性保持権侵害とみなされる行為が規定さ

れているが,そこで列挙されているのは,頒布行為や頒布目的の所持,輸入などの

行為である。

支分権の対象となる行為の中から,一定の類型の行為のみを一定の要件を課して同一性保持権侵害とみなしているのである。法113条1項においては,頒布行為と同列に扱われるべき公衆送信(放送)行為や複製(録音)行為は,同一性保持権侵害とはみなされていないし,「頒布」は,法2条1項19号において定義されているとおりの行為をいい,公衆送信(放送)や複製(録音)を含むと解することはできない。

東京地判平成15年12月19日 [どこまでも行こう②事件]

「しかし著作者の「意」を重視する余り、著作者の恣意を放置し、「こだわり」保護を徹底させると、著作物の利用・流通に多大な不都合が生ずるため、「意に反する改変」の具体的意味の解釈、20条2項の例外規定の柔軟な解釈、あるいは権利濫用等の一般法理の適用等により、結果的には同一性保持権を主張し得る場合を限定し、妥当な結論を導く必要がある」(中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.,643頁)

他人の同一性保持権の侵害を惹起したもの

本件メモリーカードの使用は,本件ゲームソフトを改変し,被上告人の有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。けだし,本件ゲームソフトにおけるパラメータは,それによって主人公の人物像を表現するものであり,その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ,本件メモリーカードの使用によって,本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに,その結果,本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになるからである。

(中略)

専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いた上告人は,他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,被上告人に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。

最判平成13年2月13日 民集55巻1号87頁 〔ときめきメモリアル事件〕

本件はメモリーカードの使用によって,パラメータが改変された結果,ゲームのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことが著作者の意に反する改変と判断されました。

本件では輸入販売業者がメモリーカードの提供をしていますが、本判決ではそのメモリーカードが使用された段階で同一性保持権侵害が起きているという旨を述べています。そのため侵害主体はユーザーですが、本判決では他人の使用を意図してメモリーカードを流通させた輸入販売業者が本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして法行為に基づく損害賠償責任を負うとされました。そのためユーザーの使用行為が侵害主体と捉えると、輸入販売業者はその幇助者ととらえることができます。

またその後

本件編集ツールは,本件裸体画像を表示することができることを主要な目的としているところ,被告は,そのような本件編集ツールを使用して作成した本件メモリーカードを使用して,本件裸体画像を表示させる者がいることを予期して,本件編集ツールを含む本件CD-ROMを多数販売し,その結果,ユーザーが被告の指示した方法に従って機器を操作することによって本件メモリーカードを作成し,それを通常のメモリーカードの使用方法に従って使用することにより,本件裸体画像が表示され,本件ゲームソフトが改変されたものと認められるから,本件CD-ROMに本件編集ツールを収録して販売し,その使用を意図して流通に置いた被告は,本件メモリーカードの使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である

東京地判 平成14年8月30日 [DEAD OR ALIVE事件]

それに対して

被告製品の連射機能を使用することは、本件ゲームソフトウエアのプログラムに込められた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変するものとはいえないから、被告が連射機能を付加した被告製品をユーザーに販売する行為は、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及びその動的変化について原告が専有する同一性保持権を侵害するものとはいえない。

 したがって、原告の本訴主位的請求中、右同一性保持権の侵害を理由とする差止

等の請求及び損害賠償請求も理由がないといわなければならない。

大阪地判 平成9年7月17日 [ネオジオ事件]

本件改造行為は、本件ソフトがもともと予定している大枠としてのストーリーの範囲内において、個々のプレイヤーの選択の結果やプレイに応じてゲーム展開を変化させるに留まり、本件ソフトのストーリーが本来予定されていた範囲を超えて展開する状況を作出したとまではいえないというべきである

大阪地判令和3年5月12日平成30 (わ)2469号 〔モンスターハンター事件〕

適用除外

本条2項は、著作物の改変がなされても同一性保持権の侵害の適用除外になる場合が規定されています。著作者の意に反する著作物の改変がある場合でも、どんな場合でも同一性保持権の侵害に該当してしまっては、著作権法の目的の1つである公正な利用を阻害する可能性がありますので、同一性保持権が及ばない場合について1号から3号及びその受け皿の4号で規定しています。

教科用図書等への掲載等

1号では第三十三条(教科用図書等への掲載) 第一項、第三十三条の二(教科用図書代替教材への掲載等) 第一項、第三十三条の三(教科用拡大図書等の作成のための複製等) 第一項、第三十四条(学校教育番組の放送等) 第一項により著作物を利用する場合における「用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの」は同一性保持権侵害に該当しないと規定されています。例えば、小学校の教科書に著作物を掲載する場合に難読漢字を常用漢字やひらがななどに変更する行為は同一性保持権侵害になりません

建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変

2号では「建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変」が同一性保持権侵害に該当しないと規定されています。例えば、老朽化した建築物を修繕するために改変を加える行為などが同一性保持権侵害になりません。建築物は建築の著作物に該当する場合であっても、人間が居住などで生活をしたり仕事をしたりするために使用する実用的側面が存在します。そのため人間が建築物の使用を継続するためには増築等を始めとした改変行為をする必要が出てくる場合もあります。これを同一性保持権侵害にしてしまっては建築物の公正な利用が阻害されることもでてきます。そのため本号では建築物の増築等の改変が同一性保持権侵害に該当しないと規定しています。

ただしあくまで本号で許容されている改変は人間の経済的・実用的観点から必要性のある増築等に限定され、建築芸術など美的側面の観点からの改変は本号に該当しないという意見も存在します。

著作権法20条2項2号は,建築物については,鑑賞の目的というよりも,むしろこれを住居,宿泊場所,営業所,学舎,官公署等として現実に使用することを目的として製作されるものであることから,その所有者の経済的利用権と著作者の権利を調整する観点から,著作物自体の社会的性質に由来する制約として,一定の範囲で著作者の権利を制限し,改変を許容することとしたものである。これに照らせば,同号の予定しているのは,経済的・実用的観点から必要な範囲の増改築であって,個人的な嗜好に基づく恣意的な改変や必要な範囲を超えた改変が,同号の規定により許容されるものではないというべきである。

東京地決平成15年6月11日判時1840号106頁 〔ノグチ・ルーム事件]

一方で例示には模様替えなども含まれていて目的を限定していないことを考慮に入れますと、嗜好による改変も2号に含まれるのではといった意見も存在します。

著作物性のある建築物の所有者が,同一性保持権の侵害とならないよう増改築等ができるのは,経済的,実用的な観点から必要な範囲の増改築であり,かつ,個人的な嗜好に基づく恣意的な改変ではない場合に限られるとすることは,建築物所有者の権利に不合理な制約を加えるものであり,相当ではない。

大阪地決平成25年 9月6日2222号93頁 〔希望の壁事件〕

「建築の著作物の範囲を狭く考え、ごく一部の美術的な建築物だけに著作物性を認めるのならば、改築等を強く強く制限しても問題は少ないかもしれないが、仮に多くの建築物に著作物性を認めるならば、増改築等の強い制限は耐え難い規制となってしまう」(中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.655頁)

プログラムの著作物

3号では「特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変」が同一性保持権の侵害に該当しないことが規定されています。プログラムぼデバックやバージョンアップしたりする行為等がこれに該当します。プログラムの使用に関しては、これを改変する場合も出てきますが、プログラムの著作物を改変する行為が同一性保持権の侵害になる可能性が出てくると、プログラムの公正な利用が阻害されかねません。 ただし、本号は「特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにする」「プログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにする」目的に限定していますので、すべてのプログラムの著作物の改変行為が同一性保持権侵害に該当しないわけではありません。

新たな機能を追加するために、プログラムの著作物に変更を加えたことによる改変が同一性保持権の侵害に該当したものがあります。

原告から送付されたデータベースを読み取ることができるようにすることなどのために,被告学園プログラムに変更を加えたことにより,本件プログラムに係る原告の翻案権及び同一性保持権を侵害

東京地判令和2年11 月16日平307) 36168号 〔教務管理システムプログラム事件]

「しかし、プログラムは機能的著作物であり、より非効率にする改変というものはあまり考えられないので、3号を新設することにより、事実上プログラムには同一性保持権がなきに等しいことになった。」(中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.655頁)

他のやむを得ない改変

4号では1号~3号に該当しない場合に「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを 得ないと認められる改変」が同一性保持権侵害に該当しないと規定しています。「例えば、印刷機の性能の問題で色がうまく出ないとか、「歌手の歌が下手」などという場合がこれに当たります。」(文化庁著作権課,令和5年度著作権テキスト.13頁)

そのほかにも放送などの技術的手段によってやむを得ない場合、映画のテレビ放送のための改変についても

原告は、本件映画がビデオ化、テレビ放送されることは承諾していたもので、映画製作者であり、本件映画の著作権者である被告伊丹プロが、テレビ放送やビデオ化するに当たって、前記認定のとおり、本件映画の製作において、総指揮者として、その編集、ダビング等を自ら取り仕切った【A】が、それぞれの方法の長短を考慮したうえでトリミングを行ったのであり、これは、著作権法二〇条二項四号の「著作物の性質並びに利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に当たるものと認められる。

東京地判 平成7年7月31日 スウィートホーム事件

著作物の利用に対して、著作者の意に反する場合でも著作物の改変が必要な場合が出てきますので、 それは本条2項1号~3号に定められた場合に限定するものではなく、そのような改変が同一性保持権の侵害に該当する可能性がありますと著作物の公正な利用が阻害されかねません。 そこで、本条2項4号は、 同項1号~3号の個別規定で該当しないような場合についてその受け皿として諸事情に合わせて改変を許容するために規定されました。

参考資料

加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.

作花文雄. (2022年12月20日). 詳解著作権法[第6版]. 株式会社ぎょうせい.

小泉直樹他. (2019年3月11日). 著作権判例百選(第6版). 有斐閣.

小泉直樹他. (2023年6月15日). 条解著作権法. 弘文堂.

斉藤博. (2014年12月26日). 著作権法概論. 勁草書房.

中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.

文化庁著作権課. 令和5年度著作権テキスト.

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