条文
第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
複製権
本条の概要
本条は著作権の支分権の1つである複製権を規定しています。旧法において複製権とは第1条(権利の内容)で規定されており、著作物を複製する権利を専有する権利を持つことは現行法と共通ですが、翻訳権や興行権が含まれている点が異なります。また有形的再製のみならず無形的再製も複製権に含まれていました。現行法では著作物の利用行為に応じて支分権を設定することで権利の明確化を図り、複製権は有形的再製行為に限定することで、その他の利用行為を個別の支分権に分担し規定することになりました。
本条は、複製権の対象になる利用行為について、複製の目的や複製方法、複製の数やその様態などを一切規定していないため、この権利は複製に該当する行為であれば広範囲が対象になります。
複製権の内容
その著作物
複製権を始め、著作権(財産権)の支分権は「その著作物」または「その○○の著作物」の利用行為に及ぶことが規定されています。そのことから、著作物の利用行為に該当するためには著作物性の根拠である部分、創作的表現の類似が問題になります。
ただし、著作物の複製は創作的表現の類似のみで判断するわけではありません。
ここにいう著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきである
(最判昭和53年9月7日民集32巻6号1145頁 〔ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件: 上告審〕)
これは旧法に基づいた判決です。そのため、旧法の「複製」には現行法で言う翻案や変形といった二次的著作物を創作する権利が含まれることに注意です
権利侵害の成立には既存の著作物に依拠(依拠性)し、その内容及び形式を覚知させることが必要とされ、創作的表現の類似(類似性)が必要とされています。現行法との関係は不明ですが、現行法に基づいた裁判でも侵害の成立としてこの依拠性と類似性が要求されるという解釈が妥当と解釈されています。
ところで、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうところ(最高裁昭和五〇年(オ)第三二四号同五三年九月七日第一小法廷判決・民集三二巻六号一一四五頁参照)、複製というためには、第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りるというべきである。
(最判平成9年7月17日民集51巻6号2714頁 〔ポパイネクタイ事件: 上告審〕)
まず、複製権の侵害の点についてみるに、著作物の複製とは、「既存の著作物に依拠し、その内容及び形体を覚知させるに足りるものを再製することをいう」ものと解される(最高裁昭和五三年九月七日第一小法廷判決、民集三二巻六号一一四五頁)から、右見地から、以下検討する。
本件訳書が控訴人翻訳原稿に部分的に依拠しているものと推認し得ることは、既に前項に認定判断したとおりであるから、進んで、本件訳書が、控訴人翻訳原稿の全体についてその内容及び形体を覚知させるに足りるものか否かについて、以下、両者の翻訳文に即して検討することとする。
(東京高 判平成4年9月24日知的裁集24巻3号703頁 〔サンジェルマン殺人狂騒曲事件〕)
ところで、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるもの、すなわち、同一性を有するものを再製することをいうものと解するのを相当とする(最高裁昭和五三年九月七日第一小法廷判決・民集三二巻六号一一四五頁参照)から、以下、このような観点から検討する。
(東京高 判平成7年1月31日判時1525号150頁 〔会社案内パンフ事件〕)
著作権法における著作物の複製(著作権法2条1項15号,21条)とは,既存の著作物に依拠して,これと実質的に同一のものを有形的に再製することをいうと解すべきである。
(東京高裁平成13年9月27日判決[解剖実習の手引き])
体のほか、これに付け加えられた書に特有の上記の美的要素に求めざるを得ない。そして、著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することであって、写真は再製の一手段ではあるが(著作権法2条1項15号)、書を写真により再製した場合に、その行為が美術の著作物としての書の複製に当たるといえるためには
(東京高判平成14年2月18 日判時1786号136頁〔雪月花事件〕)
著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうところ(最高裁昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照),前記(1)のとおり,本件コピー1は,本件絵画1に依拠して作製されたもの,
(中略)
本件各絵画の大きさとは自ずと異なるが,本件各絵画と同一性の確認ができるものであり,本件各コピーの前記認定の作製方法及び形式からして,本件各絵画の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるから,このような本件各絵画の再製は,本件各絵画の著作権法上の「複製」に該当することが明らかである。
(知財高判平成22年10月13日判時2092号136頁〔絵画鑑定証書事件〕)
一般に,著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう 日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)。すなわち,複製とは,既存の著作物と同一性のあるものを作成することをいうと解されるところ,
(東京地判平成26年7月30日平25(7)28434号 [修理規約事件])
しかし,複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再生することをいうところ,
(中略)
本件ピクトグラムが掲載された態様(甲33)から本件ピクトグラムであることが十分看取できるものであることからすれば,本件ピクトグラムの内容及び形式を覚知させるに足りるものといえ,このような本件冊子の作製は,本件ピクトグラムの複製に該当するというべきである。
(大阪地判平成 27年9月24日判時2348号62頁 [ピクトグラム事件])
なお、翻案権侵害では
言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁(江差追分事件〕
翻案権侵害では既存の著作物の表現情の本質的特徴を直接感得できることが類似性の要件としていますが、表現上の本質的特徴とは創作的表現を意味するものと解釈することができるため、複製権と翻案権はどちらも侵害成立には既存の著作物の創作的表現の類似性が必要とされています。
既存の著作物との共通点が事実のみの場合、アイデアのみの共通点の場合、ありふれた表現のみの共通点のみの場合には類似性は否定されます。
そして、この共通する部分は、共通の命題をそのまま表したものにすぎず、特に創作性のある表現形式によったものということはできない。また、方程式の使用は著作物性を有しないから、右に対比してみた方程式の共通性は、著作権侵害とすることはできないので、第二論文の記述をもって、文献⑨が複製若しくは翻案されたものであり、その著作権が侵害されたものということはできない。
(大阪高判平成6年2月25日知的裁集26巻1号179頁 〔野川グループ事件〕)
複製
複製の定義
複製とは法2条定義によって「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること」と規定されています。有形的再製の具体的な手段に印刷、写真、複写、録音、録画が例示されていますが、「その他の」と続くのでそれ以外の手段でもいいです。複製によって固定される媒体も問わないです。アナログからデジタルに、彫刻など立体の著作物を撮影して写真に固定する場合も複製に該当することがあります。
続けて、脚本その他これに類する演劇用の著作物の上演、放送又は有線放送を録音・録画すること(イ)、建築の著作物で建築に関する図面に従って建築物を完成すること(ロ)が複製に含まれていると規定されています。
一時的蓄積
コンピュータのRAM等に著作物のデータが一時的に蓄積される場合にこの行為が著作権法上の複製に該当するかが問題になります。
いったん著作物の有形的な再製物が作成されると、それが将来反復して使用される可能性が生じることになるから、右再製自体が公のものでなくとも、右のように反復して使用される可能性のある再製物の作成自体に対して、予防的に著作者の権利を及ぼすことが相当であるとの判断に基づくものと解される。
そして、右のような複製権に関する著作権法の規定の趣旨からすれば、著作権法上の「複製」、すなわち「有形的な再製」に当たるというためには、将来反復して使用される可能性のある形態の再製物を作成するものであることが必要であると解すべきところ、RAMにおけるデータ等の蓄積は、前記(一)記載のとおり一時的・過渡的な性質を有するものであるから、RAM上の蓄積物が将来反復して使用される可能性のある形態の再製物といえないことは、社会通念に照らし明らかというべきであり、したがって、RAMにおけるデータ等の蓄積は、著作権法上の「複製」には当たらないものといえる。
そして、右のような複製権に関する著作権法の規定の趣旨からすれば、著作権法上の「複製」、すなわち「有形的な再製」に当たるというためには、将来反復して使用される可能性のある形態の再製物を作成するものであることが必要であると解すべきところ、RAMにおけるデータ等の蓄積は、前記(一)記載のとおり一時的・過渡的な性質を有するものであるから、RAM上の蓄積物が将来反復して使用される可能性のある形態の再製物といえないことは、社会通念に照らし明らかというべきであり、したがって、RAMにおけるデータ等の蓄積は、著作権法上の「複製」には当たらないものといえる。
(東京地判平成12年5月16日判時1751号128頁 〔スターデジオ1事件〕)
仮に長時間に渡って蓄積物が残存したとしても、実質的に当該蓄積物を「複製物」として利用したと評価するには及ばない程度であれば、そのような蓄積行為を複製権の対象としないことが適切と考えられる。(平成21年1月 文化審議会著作権分科会, 文化審議会著作権分科会報告書)
このような蓄積が複製に該当するかの判断が困難で不明な状態が続きましたが、このような状況が続くことはデジタル・通信技術等の発展を阻害することになりかねませんので
平成21年著作権法改正により
・電子計算機における著作物の利用に伴う複製(旧47条の8)
・送信の障害の防止等のための複製(旧47条の5)
・送信可能化された情報の送信元識別符号の検索等のための複製等(旧47条の6)
が新設されました。これらの権利制限によりこれらに該当する複製が複製権侵害にならないように明記されました。
さらに、平成24年の著作権法改正では
・情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のための利用(旧47条の9)
が新設されました。
これらの条文は現行法では
・電子計算機における著作物の利用に付随する利用等(47条の4)
・電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等(47条の5)
に受け継がれています。
リンク行為
インターネットではリンク(ハイパーリンク)によってウェブサイトへつなぎ、リンクをクリックすることでそのサイトにアクセスすることができる。リンク先に著作物のデータが存在する場合、このリンクからアクセスすることで著作物を視聴させていることに等しいことになります。しかも、インラインリンクではそのサイトの画像を自動的に送信され表示されますのでリンク先の著作物をアップロードしている行為に等しいです。
ただしリンクを貼る行為はアップロードと異なり著作物がサーバーに保存されることは無く、リンクをクリックすることで直接著作物が送信されます。その仕組み上裁判例ではリンクを貼る行為は複製権侵害に該当しないという判断されています。
閲覧者の端末上では,リンク元である本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態に置かれていたとはいえ,本件動画のデータを端末に送信する主体はあくまで「ニコニコ動画」の管理者であり,被告がこれを送信していたわけではない。したがって,本件ウェブサイトを運営管理する被告が,本件動画を「自動公衆送信」をした(法2条1項9号の4),あるいはその準備段階の行為である「送信可能化」(法2条1項9号の5)をしたとは認められない。
(大阪地判平成25年6月20日判時2218号112頁 〔ロケットニュース24事件))
本件ツイッターは,不特定多数人がしたツイートを集めたタイムラインをリンク先とし,被告ウェブサイトをリンク元として,上記タイムラインが被告ウェブサイト上に表
示される形でリンクが張られたもの(埋込リンク)であり,「バキ」,「刃牙」,「#baki」,「グラップラー」又は「範馬」というワードを含むツイートを自動的に抽出して表示するものであることが認められる。
本件ツイッターに表示される画像は,閲覧者の端末上では,リンク元である被告ウェブサイト上で閲覧できる状態に置かれていたとしても,被告がツイートしたものではなく,被告ウェブサイトのサーバにその画像データが保存されているということもできないから,被告が,自動公衆送信又は送信可能化をしたということはできない。
(東京地判令 和元年6月19日平28(ワ)10264号 〔グラップラー刃牙事件〕)
本件リンク設定行為は、本件動画の表紙画面である被告画像1をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、被告は、本件リンク設定行為を通じて、被告画像1のデータを本件ウェブページのサーバーに入力する行為を行っていないものと認められる。そうすると、前記(2)アのとおり原告画像1を複製したものと認められる被告画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であって、被告による本件リンク設定行為は、原告画像1について、有形的に再製するものとも、公衆送信するものともいえないというべきである。
(東京地判令和4年4月22日平 31(7)8969号〔オンラインゲーム事件〕)
控訴人が著作権を有しているのは,本件写真であるところ,本件写真のデータは,リンク先である流通情報2(2)に係るサーバーにしかないから,送信されている著作物のデータは,流通情報2(2)のデータのみである。上記のとおり,公衆送信は,「公衆によって直接受信されることを目的として送信を行うこと」であるから,公衆送信権侵害との関係では,流通情報2(2)のデータのみが「侵害情報」というべきであって,控訴人が主張する「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTML データ等を「侵害情報」と捉えることはできない。したがって,「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTML データ等が「侵害情報」であることを前提とする控訴人の公衆送信権侵害(送信可能化権侵害,自動公衆送信権侵害)に関する主張は,いずれも採用することができない。
(知財高判平成30年4月25日民集74巻4号1480頁 (リツイート事件: 控訴審〕)
リンクを貼る行為はインターネット上では情報提供のために必要不可欠とも言える行為でありますので、これ自体が著作物の利用行為として著作権侵害に該当するような規定を今後も設けることは無いでしょう。
複製と翻案の関係性
著作物の利用行為に対する支分権の中で複製権に近い権利として法27条で規定されている翻案権等が存在します。ただし、著作権の支分権で有形的であることを要求されるものは複製権だけです。翻案権等では有形的であることは必ずしも要求されず、無形的なものでも成立します。例えば他人が演奏している音楽を聴いて脳内で編曲し、それを自分で演奏する行為などでも法27条に該当します。
著作物の有形的再製は必ずしも完全に同一であることを求められるわけではありません。既存の著作物と創作的表現との同一性を維持していれば、そこに修正や増減、変更等が付け加えられても複製に該当します。ただし、翻案権等が別途設定されている都合上、著作物に修正等を加えることで新たに思想または感情を創作的に表現された場合(つまり、二次的著作物が創作された場合)この著作物の利用行為は翻案等に該当し、複製権ではなく法27条の権利の対象になります。
まず、複製とは原著作物を有形的に再製するものである(著作権法二条一項一五号)ところ、再製とは、必ずしも原著作物と全く同一のものを作り出す場合に限られず、多少の修正増減があっても、著作物の同一性を変じない限り、再製にあたると解されるが
(大阪地判平成4年4月30日知的裁集24巻1号292頁 [丸棒矯正機事件〕)
複製には、表現が完全に一致する場合に限らず、具体的な表現形式(言語の著作物においては、叙述の順序、用語、言い回し等の文面上の表現がこれに当たる。)に多少の修正、増減、変更等が加えられていても、表現形式の同一性が実質的に維持されている場合も含まれるが、誰が書いても似たような表現にしかならない場合や、当該思想又は感情を表現する方法が限られている場合には、同一性の認められる範囲は狭くなると解される。
(東京地判平成 10年10月29日知的裁集30巻4号812頁 [SMAP事件〕)
模写制作者が自らの手により原画を模写した場合においても,原画に依拠し,その創作的表現を再現したにすぎない場合には,具体的な表現において多少の修正,増減,変更等が加えられたとしても,模写作品が原画と表現上の実質的同一性を有している以上は,当該模写作品は原画の複製物というべきである。
複製とは,既存の著作物と同一性のあるものを作成することをいうと解されるところ,この同一性の程度については,完全に同一である場合のみではなく,多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうことのない,実質的に同一である場合も含むと解される。
(東京地判平成26年7月30日 平25 (7) 28434号 〔修理規約事件〕)
権利を専有する
「権利を専有する」とは「著作者だけが著作物の複製についての排他的な支配権を有し、著作者だけが著作物の 複製についての利益にあずかれるという趣旨で、 物権的な性質を有する権利であることを示しております。 」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター. 188~189頁)
本文の意義としては著作権者は第三者に対して複製に該当する著作物の利用行為を禁止する権利を有するという解釈が妥当です。
参考資料
加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.
作花文雄. (2022年12月20日). 詳解著作権法[第6版]. 株式会社ぎょうせい.
小泉直樹他. (2019年3月11日). 著作権判例百選(第6版). 有斐閣.
小泉直樹他. (2023年6月15日). 条解著作権法. 弘文堂.
斉藤博. (2014年12月26日). 著作権法概論. 勁草書房.
中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.
文化庁著作権課. (日付不明). 令和5年度著作権テキスト.