著作権法22条 上演権及び演奏権

条文

第二十二条 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。

上演権及び演奏権

本条の概要

本条は著作物の利用行為のうち上演及び演奏に対して公衆に対しての利用行為を専有する権利つまり著作権(支分権)のうち上演権と演奏権を規定しています。つまり、著作権者は自分の著作物を公衆に上演・演奏することに対する独占権であり無形的な再生になっています。本条から26条の3までは、第21条の有形的利用権としての複製権に対し、無形的利用権と呼ばれる性格の権利を規定しております。(加戸守行『著作権法逐条講義 七訂新版』公益社団法人 著作権情報センター,192頁)

具体的には音楽をコンサートで演奏したり、戯曲を観客の前で上演することを対象とした権利が本条の対象となっています。演劇や音楽のみならず落語・講談・漫才等も本条の対象です。ただし映画については上映権(法22条の2)、公衆送信については公衆送信権(法23条)、口述については口述権(24条)

また、第22条括弧書きの「公に」とは「公衆」という意味で、以降著作権法上は同様の表現が他の権利(例えば口述権等)でも用いられています​。以下では、この要件や関連を詳しく解説します。

本条の内容

公衆に直接見せまたは聞かせることを目的として

上演権・演奏権が及ぶ範囲は「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」行われる場合の上演・演奏です。複製などと異なり著作物を他者に提示する利用行為に対する支分権の多くと同様に上演権・演奏権にも公衆に対して上演・演奏が行われることを要件としています。

それに対して上演・演奏等の無形的利用の場合はその場で消滅し、外部に流出して権利者に損害を与える危険性がないために、「公に」ではない利用形態はそもそも権利の範囲外とされている。外部に流出するとすれば、それは誰かによって上演・演奏等を録音・録画された場合であるが、それは複製権侵害となる。(中山信弘『著作権法 第4版』,有斐閣,319-320頁)

例えば風呂の中で歌うとか、家の中で自分の家族に聞かせるために歌うというような著作物の経済的利用として概念するには足りないような使い方でありますから、したがって著作権が本質的に及ぶべき性格のものではないという考え方を採っているわけでございます。(加戸守行『著作権法逐条講義 七訂新版』公益社団法人 著作権情報センター,194頁)

ここでいう「目的として」は目的そのものではなく利用行為が行われたその様態から客観的に判断して公衆に対して行われたことかが問われます。

公衆

「公衆」とは一般的に「不特定または多数」を指す言葉です。著作権法における「公衆」は、条文上明確な定義がありませんが、「特定多数の者を含む」(法2条5項)とされています 。法26条の2(譲渡権)より「特定かつ少数の者」は公衆に含まれないとされています。

さらに裁判例では不特定少数の者が「公衆」に該当するという判決が出ているものがあります。

公衆送信とは,公衆によって直接受信されることを目的とする(著作権法2条1項7号の2)から,送信を行う者にとって,当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば,公衆に対する送信に当たることになる。そして,送信を行う原告にとって,本件サービスを利用するユーザが公衆に当たることは,前記(2)のとおりである。なお,本件サーバに蔵置した音源データのファイルには当該ユーザしかアクセスできないとしても,それ自体,メールアドレス,パスワード等や,アクセスキー,サブスクライバーID(加入者ID)による識別の結果,ユーザのパソコン,本件サーバのストレージ領域,ユーザの携帯電話が紐付けされ,他の機器からの接続が許可されないように原告が作成した本件サービスのシステム設計の結果であって,送信の主体が原告であり,受信するのが不特定の者であることに変わりはない。

(東京地判平成19年5月25日〔MYUTA事件〕)

そこで判断するに,著作権法26条の3にいう「公衆」については,同法2条5項において特定かつ多数の者を含むものとされているところ,特定かつ少数の者のみが貸与の相手方になるような場合は,貸与権を侵害するものではないが,少数であっても不特定の者が貸与の相手方となる場合には,同法26条の3にいう「公衆」に対する提供があったものとして,貸与権侵害が成立するというべきである。

(東京地判平成 16年6月18日  [NTTリース事件))

また,たとえ生徒が1名であっても当該生徒は音楽教室事業者からみると不特定の者として「公衆」に該当するから,控訴人らの上記②の主張は,何ら結論を左右し得ないし,教師の演奏について生徒という「公衆」がいることは前示のとおりであるから,上記③の主張も採用することはできない。そして,本件受講契約の履行としての教師による演奏と生徒による発表会等の演奏とはその性質を全く異にするものであることは明らかであるから,上記④主張も採用することができない。

  (知財高判令和3年3月18日[音楽教室事件: 控訴審〕)

まとめると、「公衆」は条文から「不特定多数の者」と「特定多数の者」が該当し、裁判例から「不特定少数の者」も「公衆」に該当すると言えます。そして「特定少数」だけは「公衆」に含まれません。

例えるには、家族やごく親しい友人などのごく限られた特定少数の者からなる私的な関係は「公衆」には当たらず、この範囲内で行われる上演・演奏は法22条の適用外となります。一方で、それ以外の集団であれば人数や構成如何で「公衆」に該当し得ます。

特定・不特定

 NTTリース事件より「特定」というのは,著作物の利用者と著作物の提供・提示した者との間に人的な結合関係が存在することを意味するものと解釈できます。「不特定」とはその逆で著作物の利用者と著作物の提供・提示した者との間に人的結合関係が認められない関係となります。著作物の提供・提示を受けた人が特定できるかではありません。ただし、特定とは人的な結合関係が強い場合を指すと解されるが、固定した概念ではなく、各条文、あるいは具体的事例に応じた社会通念に従う相対的なものである。(中山信弘『著作権法 第4版』,有斐閣, 320頁)

 「誰でも参加できる」形で行われる演奏はたとえ参加者が少人数でも「公衆」に向けたものです。裁判例では被告らの経営するダンス教室は、入会金を支払えば誰でも受講できる開かれた形態で運営されており、不特定多数の者が受講生となり得る運営形態を取って音楽再生はダンス指導に不可欠かつ継続的に行われているとされています。よって、その音楽再生は「不特定多数」に向けた行為、すなわち公衆に該当すると認められました。

これを本件についてみるに,被告らによる音楽著作物の再製は,本件各施設においてダンス教師が受講生に対して社交ダンスを教授するに当たってなされるものであることは前記のとおりであり,かつ,社交ダンスはダンス楽曲に合わせて行うものであり,その練習ないし指導に当たって,ダンス楽曲の演奏が欠かすことができないものであることは被告らの自認するところである。そして,証拠(甲5の1ないし7)によれば,被告らは,格別の条件を設定することなく,その経営するダンス教授所の受講生を募集していること,受講を希望する者は,所定の入会金を支払えば誰でもダンス教授所の受講生の資格を得ることができること,受講生は,あらかじめ固定された時間帯にレッスンを受けるのではなく,事前に受講料に相当するチケットを購入し,レッスン時間とレッスン形態に応じた必要枚数を使用することによって,営業時間中は予約さえ取れればいつでもレッスンを受けられること,レッスン形態は,受講生の希望に従い,マンツーマン形式による個人教授か集団教授(グループレッスン)かを選択できること,以上の事実が認められ,これによれば,本件各施設におけるダンス教授所の経営主体である被告らは,ダンス教師の人数及び本件各施設の規模という人的,物的条件が許容する限り,何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができ,このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は,組織的,継続的に行われるものであるから,社会通念上,不特定かつ多数の者に対するもの,すなわち,公衆に対するものと評価するのが相当である。

(名古屋地判平成15年2月7日 [ダンス教室事件第1審])

 ただし、特定該当性についてどの程度の人的結合関係が特定と判断されるかは明確では無いことを考慮する必要もあります。

多数・少数

著作権法における「多数」とは、著作物の種類や利用態様に応じて相対的に判断されます。そのため絶対的な数値基準を持たず、その判断基準は状況に応じて変動し得ます。「不特定」の場合は「多数」でも「少数」でも「公衆」に該当するため、「多数」か「少数」かの判断基準が迫られることは「特定」と認められた場合になります。

「多数」か否かは、単発的な行為時点だけで決定されるべきではなく、一定期間にわたる時間的経過における利用状況を踏まえて評価すべきとする見解が有力です。

 前述のダンス教室事件では受講生数に制限があり個人教授が中心であっても、受講生は入会金を支払えば誰でもなれるため多数であり、レッスン人数の制約も運営上の都合に過ぎないため、音楽著作物の利用は少人数でも「公衆」に対するものと評価されました。

なるほど,証拠(乙10の1ないし7,12,18ないし33)によれば, 顧客である受講生らと被告らとの間にダンス指導受講を目的とする契約が締結されていること,この契約は,通常,1回の給付で終了するものではなく,ある程度の 期間,継続することが予定されていること,本件各施設において,一度にレッスン を受けられる受講生の数に限りがあること,本件各施設におけるダンス教授が個人 教授の形態を基本としていること,以上の事実は否定できない。しかしながら,受 講生が公衆に該当するか否かは,前記のような観点から合目的的に判断されるべき ものであって,音楽著作物の利用主体とその利用行為を受ける者との間に契約ない し特別な関係が存することや,著作物利用の一時点における実際の対象者が少数で あることは,必ずしも公衆であることを否定するものではないと解される上,①上記認定のとおり,入会金さえ支払えば誰でも本件各施設におけるダンス教授所の受 講生資格を取得することができ,入会の申込みと同時にレッスンを受けることも可 能であること,②一度のレッスンにおける受講生数の制約は,ダンス教授そのもの に内在する要因によるものではなく,当該施設における受講生の総数,施設の面 積,指導者の数,指導の形態(個人教授か集団教授か),指導日数等の経営形態・ 規模によって左右され,これらの要素いかんによっては,一度に数十名の受講生を 対象としてレッスンを行うことも可能と考えられることなどを考慮すると,受講生 である顧客は不特定多数の者であり,同所における音楽著作物の演奏は公衆に対す るものと評価できるとの前記判断を覆すものではないというべきである。

(名古屋地判平成15年2月7日 [ダンス教室事件第1審])

行為主体

上記のように「公衆」の範囲は不特定または多数か否かで決まりますが、それだけではなく「誰が著作物の利用行為として公衆に提供・提示しているか(利用主体)」にも注目する必要があります。まねきTV事件では送信の主体は自動公衆送信可能な状態を作り出した者でありとくに装置に継続的に情報を入力する者が主体と解され、主体から見てサービス利用者は不特定の者として公衆に該当しました。

そして,自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると, その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することがで きる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に 供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。   (中略)   そして,何人も,被上告人との関係等を問題 にされることなく,被上告人と本件サービスを利用する契約を締結することにより 同サービスを利用することができるのであって,送信の主体である被上告人からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーショ ンは自動公衆送信装置に当たる。

(最判平成23年1月18日 [まねきTV事件])

この最高裁判決以前にも「公衆」に該当するかは、その著作物の利用行為の主体を基準として個別的に判断する裁判例があります。

伴奏音楽の再生及び顧客の歌唱により管理著作物を演奏し、その複製物を含む映画著作物を上映している主体である被告らにとって、本件店舗に来店する顧客は不特定多数の者であるから、右の演奏及び上映は、公衆に直接聞かせ、見せることを目的とするものということができる。 四ところで、著作権法附則一四条によれば、適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、公衆送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物 を使用する事業で政令(著作権法施行令附則三条)で定めるものにおいて行われる ものを除き、当分の間自由に行い得るものとされている。

(東京地判平成10年8月27日 [ビッグエコー事件:第一審])

(東京地判平成11年7月13日[ビッグエコー事件:控訴審])

音楽教室におけるレッスン中に 15 教室において1名の教師がする演奏行為(市販のCD等の録音物やマイナス ワン音源の再生を含む。)は,音楽教室事業者である控訴人らが利用主体であって,その演奏は,一曲を通して演奏することがあるか否か,1回に行う演奏が楽曲の2小節以内である否かにかかわらず,1名であっても「公衆」と いえる生徒に対して「聞かせる目的」でされたものであるから,演奏権の行使に該当する。

(知財高判令和3年3月18日[音楽教室事件: 控訴審〕)

 このように「公衆」に該当するかは利用行為の主体を判断することから始まり主体の認定が影響しています。上演・演奏による著作物の利用主体の捉え方としては、カラオケを巡る裁判例では、実際に歌唱している人ではなくカラオケ店が利用主体であると認定されているように、事実上の物理的な行為者ではなく、当該利用行為に対する管理・支配的な権限を有し、当該利用による利益が帰属する者が利用主体とされている。(作花文雄『詳解著作権法 [第6版]』,ぎょうせい,254-255頁)

直接見せ、または聞かせることを目的として

「直接見せ又は聞かせることを目的として」とは、著作物を直接見せるまたは聞かせる目的で利用行為がなされることを意味します。

 まず「直接」とは上演や演奏という利用行為がその場で直接的に知覚される形で提供されることを指します。これは、例えば直接ライブで見聞かせする場合だけでなく、一度録音・録画されたものを再生して聞かせる場合も含まれます(後述の法2条7項参照) 。必ず同じ場所でなくても別々の場所で上演・演奏を同時に視聴鑑賞させる場合も該当します。聴衆又は観衆のいる前で演奏家が音楽を演奏するのが典型的な例ですが、仮に別室、例えば視聴者のいないスタジオで演奏しても、それをホールにいる聴衆向けに流すような場合には、これも「直接見せ又は聞かせる」の概念に含まれます。(加戸守行『著作権法逐条講義 七訂新版』公益社団法人 著作権情報センター,193頁)

 次に「…ことを目的として」ですが、これは行為者の主観的または客観的目的として公衆に著作物を視聴・鑑賞させることを目的としていることを要します。簡単に言えば、観客や聴衆に楽しんでもらうため・鑑賞させるために行う上演・演奏が該当します。逆に、公衆に見せ聞かせる意図がない行為は含みません。また、実際に上演・演奏しても視聴・鑑賞する者が現れなかったり特定少数者に留まったとしても公衆に直接見聞かせる目的を持っている以上要件を満たすと解釈されます。例えばコンサートを開催したけれどもお客が1人も来ないといった無人の演奏会であっても、「公」に該当します。通行人に通行人に聴かせるために該当でヴァイオリンやアコーディングを弾いて、お客が誰も通りかからなかったとしても、お客が誰も通りかからなかったとしても、公に演奏していることには違いないのであります。(加戸守行『著作権法逐条講義 七訂新版』公益社団法人 著作権情報センター,193頁)

上演し、又は演奏する権利を専有する。

上演

 上演とは法2条1項16号で「演奏(歌唱を含む。以下同じ。)以外の方法により著作物を演ずることをいう。」と定義されています。簡潔に言えば、歌唱も含めて音楽的な演奏以外の方法で著作物を演じることです。典型例としては、戯曲・脚本を使って舞台劇を上演すること、バレエや舞踊の振付を踊ってみたり演じることなどが「上演」に該当します。脚本等の言語の著作物でもそれを演じる行為ならば「上演」に該当することになります。つまり演劇的・芸能的な表現形態で著作物を演じる行為が上演です。なお、ここでいう「演ずる」には広くパフォーマンス全般が含まれ、観客に対して視覚的・身体的に表現することを指します。そのため一般的に実演のうち音楽的な表現を含まないものが上演に該当します。

演奏

「演奏」は上演と対を成す概念ですが、著作権法では明確な定義がありません。「上演」に関する法2条1項16号で歌唱を含むという定義があるのみです。「演奏」とは著作物を音楽的に表現する行為(歌唱を含む)をいいます。つまり、楽曲を楽器で演奏したり歌ったりする行為、オーケストラやバンドの演奏などが該当します。演奏の対象となる著作物は限定されていませんが演奏は音楽の著作物の利用行為と解釈できます。演奏は音楽の再生・歌唱・演奏行為全般を指し示すものです。なお定義上「歌唱を含む」と明記されており、楽器演奏だけでなく声による歌も演奏の一種ということになります。ただミュージカルなど上演と演奏の両側面のある利用行為について上演や演奏どちらに該当するかは明確でありません。一方、詩の朗読やスピーチのように言語作品を声に出す行為は法2条1項18号の「口述」として別途定義されていますので、音楽表現以外の音声表現(朗読・口演)は演奏ではなく上演や口述に分類されることになります。

録音・録画による再生

著作物の録音・録画を再生する行為も上演・演奏とみなす旨を著作権法では規定しています。法2条第7項で「この法律において、「上演」、「演奏」又は「口述」には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され、又は録画されたものを再生すること(公衆送信又は上映に該当するものを除く。)及び著作物の上演、演奏又は口述を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く。)を含むものとする。」と規定されています。そのため違法適法問わずに作成された著作物の録音・録画を再生する行為は上演・演奏に含まれます。この規定により、CDやDVD等に記録された音楽・映像を再生して公衆に見聞かせる行為も「演奏」または「上演」に含まれることが明確にされています。例えば、市販の音楽CDを店内でBGMとして流すことは、自ら楽器を演奏していなくても「演奏」に該当します。

ただしかっこ書きで例外も明記されています。「公衆送信または上映に該当するものを除く」とあるように、録音・録画物の再生であっても、それが実質的に公衆送信権や上映権の対象となる場合は演奏・上演には含まれないと定義されています。例えば映画のフィルムやDVDなどを映写機を用いて上映する行為は、法22条の2の上映権が適用され本条は適用されません。したがって映画等の録画物を観客に再生して見せる場合は、上演権ではなく上映権の問題になります。また、録音物をラジオ放送やインターネット配信で流す場合は法23条の公衆送信権の問題となるため、これも演奏権からは除外されます。このように各支分権との住み分けを行うために、法2条7項は録音・録画再生や伝達行為を演奏・上演に含めつつ、他の権利が適用される部分を除外しています。

電気通信設備を用いて伝達する

 法2条7項では著作物の上演・演奏を電気通信設備を用いて伝達することも上演・演奏に含まれることを規定しています。ただしかっこ書きにより公衆送信に該当するものは含まれます。劇場やコンサートホールで別室へ生中継する場合や、店内の演奏を別フロアのスピーカーに流す場合も上演・演奏に該当します。例えばライヴとは同一構内での別室で、スピーカーや受像機で聞かせたり見せたりする行為は直接聞かせたり見せたりする行為に含まれる。(中山信弘『著作権法 第4版』,有斐閣, 321頁)

また著作物を録音・録画したものを公衆送信に該当するものを除き有線送信する行為も上演・演奏に該当します。

侵害主体

 著作権法では、著作物の上演・演奏といった利用行為を直接行った者が侵害主体になるのが原則です。ところが実際の裁判例では実際に上演・演奏を直接行ったものだけではなく上演・演奏を行うための舞台や装置を提供したものに対しても侵害主体が問われたものも数多く存在します。

 その中で最も有名などが最高裁判決昭和63年3月15日のクラブキャッツアイ事件です。カラオケにおける著作権問題としては、客の行う歌唱と伴奏演奏の2つの問題があり、とりわけ客の歌唱における著作物の利用主体がいずれの者と捉えられるかが大きな問題となった。つまり、事実上の行為をみれば、各顧客が自身の選んだ好みの曲を指摘に歌唱したりしており、公に演奏行為をしているわけではなく、演奏権は働かないのではとの疑問が提起された。(作花文雄『詳解著作権法 [第6版]』,ぎょうせい,255頁)

 カラオケスナック経営者が著作権者から管理を委託された音楽著作物(カラオケテープ)を用い、従業員や客に歌唱させていた行為は、上告人ら自身が音楽を営利目的で公に演奏したものとみなされる。客の歌唱も経営側の管理・誘導の下にあり、店舗の営業利益に資する活動と評価されるため、カラオケスナック経営者も客の歌唱と同一視し演奏権を侵害しており、不法行為責任を免れないとされました。

上告人らは、上告人らの共同経営にかかる原判示のスナツク等において、カラオケ装置と、被上告人が著作権者から著作権ないしその支分権たる演奏権等の信託的譲渡を受けて管理する音楽著作物たる楽曲 が録音されたカラオケテープとを備え置き、ホステス等従業員においてカラオケ装 置を操作し、客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め、客の選択した曲 目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ、また、 しばしばホステス等にも客とともにあるいは単独で歌唱させ、もつて店の雰囲気作りをし、客の来集を図つて利益をあげることを意図していたというのであり、かかる事実関係のもとにおいては、ホステス等が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は上告 人らであり、かつ、その演奏は営利を目的として公にされたものであるというべき である。けだし、客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目 的とするものであること(著作権法二二条参照)は明らかであり、客のみが歌唱する場合でも、客は、上告人らと無関係に歌唱しているわけではなく、上告人らの従 業員による歌唱の勧誘、上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、 上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナツクとしての雰囲気 を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図つて営業上の利益を増大させることを 意図していたというべきであつて、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるものであるからである。

したがつて、上告人らが、被上告人の許諾を得ないで、ホステス等従業員や客に カラオケ伴奏により被上告人の管理にかかる音楽著作物たる楽曲を歌唱させること は、当該音楽著作物についての著作権の一支分権たる演奏権を侵害するものというべきであり、当該演奏の主体として演奏権侵害の不法行為責任を免れない。

(最判63年3月15日 [クラブ・キャッツアイ事件])

 その後クラブ・キャッツアイ事件が示したカラオケ法理の2要件として挙げられている管理性と営利性に基づく規範的行為主体論を認める裁判例が現れ始めました。

しかして、スナック等において、原告の許諾を得ずに、カラオケ装置を設置して営業時間中にこれを利用して管理著作物の収納されたカラオケソフトを再生し、その伴奏音楽に合わせてホステス等の従業員や客による歌唱が行われた場合、その著作権(演奏権・上映権)侵害行為の主体は、必ずしも事実行為としてカラオケ装置を操作して当該音楽著作物を 利用するカラオケスナック店の経営者だけに限られるものではなく、自らはカラオ ケ装置を直接操作しなくとも、被告会社のように、リース先のカラオケスナック店 にカラオケ装置を設置し、当該店舗との間に締結したリース契約の契約条項(運営 規則・用法遵守義務・売上金配分条項)を通じて店の経営者の行為に対する支配力 を及ぼし、これを自己の利益を得る目的で用いる者も著作権侵害行為の主体たり得るものというべきである。

(大阪地判平成6年3月17日 [魅留来事件:第一審])

控訴人会社は、控訴人B及び同Aとの間で本件リース契約(更改後のものを含む。)を締結して、本件装置を同控訴人らに引渡し、同控訴人らをして本件店舗内において本件リース契約上の運営規則ないし用法遵守義務に従って本件装置を稼働 させ、また、随時本件装置を保守、点検、修理し、あるいは本件装置に使用する新曲や新譜の入ったカラオケソフト(レーザーディスク)を追加して同控訴人らに順次供給していたものであるところ、本件装置は収録されている音楽著作物の大部分が被控訴人の管理著作物である(レーザーディスクを再生すると、モニターテレビ の画面上に連続する映像とともに右管理著作物である歌詞が映し出され、メロディーが再生されるというものである)から、同控訴人らが本件装置をカラオケ伴奏に よる客の歌唱に使用すれば、即、被控訴人が管理する音楽著作物の上映権を侵害するとともに演奏権をも侵害することになることは明らかであるというべきである

(大阪高裁平成9年2月27日 [魅留来事件:控訴審])

 また、本件店舗のカラオケ歌唱用の各部屋においては、顧客が各部屋に設置されたカラオケ装置を操作し、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱することによって、管理著作物の演奏が行われていることが認められるところ、被告らは各部屋にカラオケ装置と共に楽曲索引を備え置いて顧客の選曲の便に供し、また、顧客の求めに応じて従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示するなどし、顧客は指定された部屋において定められた時間の範囲内で時間に応じた料金を支払って歌唱し、歌唱する曲目は被告らが用意したカラオケソフトに収納されている範囲に限られることなどからすれば、顧客による歌唱は、本件店舗の経営者である被告らの管 理の下で行われているというべきであり、また、カラオケボックス営業の性質上、被告らは、顧客に歌唱させることによって直接的に営業上の利益を得ていることは 明らかである。 このように、顧客は被告らの管理の下で歌唱し、被告らは顧客に歌唱させることによって営業上の利益を得ていることからすれば、各部屋における顧客の歌唱による管理著作物の演奏についても、その主体は本件店舗の経営者である被告らである というべきである。

(東京地判平成10年8月27日 [カラオケボックス・ビッグエコー事件])

上演権侵害について

各イベントにおける会員によるフラダンスの上演は,そのための練習も含めてKHAの管理の下で行われるものと評価し得るもので,これらのイベントによる発表や交流はKHAの会員の維持・増加のために行われるものと認められるから,会員による上演は,被告ないしKHAが上演させたものと評価し得るものである。

したがって,被告には,本件振付け等を自ら上演し又は会員等に上演させることにより,原告の著作権を侵害するおそれがあると認められる。

(大阪地判平成30年9月20日〔フラダンス事件)〕

被告ムジカは、上演A及びBを含むキーロフバレエ団日本公演を管理し、右公演による営業上の利益を収受したということができるから、被告ムジカも上演A及びBの主体であり、上演A及びBによる著作権又は著作者人格権侵害の主体となり得るというべきである。

(東京地判平成10年11月20日 [ベジャール振付事件])

もっともカラオケ法理の2要件による主体の認定に対してその妥当性について疑問を投げかける学説も存在します。

音楽教室事件では音楽教室での教師や生徒の演奏について演奏主体は教室の実態や経済的側面を含め、演奏方法や関与の程度などを総合的に考慮して判断されるべきとされました。

このように,控訴人らの音楽教室のレッスンにおける教師又は生徒の演奏は,営利を目的とする音楽教室事業の遂行の過程において,その一環と して行われるものであるが,音楽教室事業の上記内容や性質等に照らすと,音楽教室における演奏の主体については,単に個々の教室における演奏行為を物理的・自然的に観察するのみではなく,音楽教室事業の実態を踏まえ,その社会的,経済的側面からの観察も含めて総合的に判断されるべきであると考えられる。

このような観点からすると,音楽教室における演奏の主体の判断に当たっては,演奏の対象,方法,演奏への関与の内容,程度等の諸要素を考慮し,誰が当該音楽著作物の演奏をしているかを判断するのが相当である (最高裁平成21年(受)第788号同23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁〔ロクラクⅡ事件最高裁判決〕参照)。

(知財高判令和3年3月18日 [音楽教室事件:控訴審])

演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。

(最判令和4年10月24日 [音楽教室事件:上告審])

参考文献

加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.

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小泉直樹茶園成樹,蘆立順美,井関涼子,上野達弘,愛知靖之,奥邨弘司,小島立,宮脇正晴,横山久芳. (2023年6月15日). 条解著作権法. 弘文堂.

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文化庁著作権課. (日付不明). 令和5年度著作権テキスト.

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