公衆送信権等

条文

第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。

2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。

公衆送信権等

本条の概要

本条は著作物の利用行為である送信伝達行為を対象とした支分権です。

1項では公衆送信を行う権利に関する公衆送信権

2項では公に伝達する権利に関する伝達権

をそれぞれ規定しています。

本条の経緯

 本条1項の公衆送信権は平成9年改正著作権法によって現在の規定になりました。

 それ以前では昭和61年改正により送信行為に対して無線には「放送権」、有線に対しては「有線送信権」といった権利が規定されていました。

 その後インターネット等の普及に伴い、平成9年の改正著作権法において新たに「公衆送信権」が新設され、有線及び無線その他の放送、公衆からの求めに応じて自動的に行う送信も含め公衆に対して著作物を送信する場合にはこの権利の対象になります。同時に本条2項の伝達権も公衆への著作物を伝達する権利に改正されました。

公衆送信権(1項)

公衆送信

 公衆送信の定義は法第2条定義1項七の二より、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことを指す。本条1項に公衆要件はありませんが、公衆送信の定義が「公衆によって直接受信されることを目的として」と規定されていますので私的な領域での送信には適用されません。

 最高裁はまねきTV事件にて「送信の主体である被上告人からみて」公衆該当性について判断しています。

送信の主体である被上告人からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。

(最判平成23年1月18日民集65 巻1号121頁 〔まねきTV事件: 上告審〕)

 また、特定少数者を介した送信は公衆送信には該当しません。さらに、同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信は公衆送信に該当しません。公衆送信に含まれる行為には、放送、有線放送、自動公衆送信などがあり、その他にも公衆からの要求に応じた手動の送信も公衆送信に含まれます。

自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。

 本法では、公衆送信の1つとして「自動公衆送信」という概念を定義しています。これは、公衆からの求めに応じ自動的に行うものが該当します。また本法では、「送信可能化」行為も公衆送信に含まれると規定されており、送信可能化はインターネットに接続されたサーバーに情報をアップロードするなどして、著作物を自動的に公衆に送信自動公衆送信可能な状態にする行為を指します。インターネットに接続しサーバに記録や入力すること、記録や入力されているサーバをインターネットに接続することの2つが「送信可能化」と規定されています。自動公衆送信されたことの立証は困難ですが、自動公衆送信のための送信可能化段階を違法にすることで侵害の立証を容易にしています。インターネット上では利用者が著作物のデータを含むサイトにアクセスし、その著作物が自動的に送信される状態になっている場合でも、著作権者が具体的な送信のタイミングやどこに送信されたかを把握するのは困難です。そのためこのような事情を考慮し、送信可能化が行われた段階で公衆送信権の行使を可能としています。なお、インターネット以外の自動公衆送信(例:カラオケ通信)についても、送信可能化行為に対して公衆送信権が適用されます。

 ファイル共有サービスにおいて、自信のパソコンの共有フォルダに著作物の複製物データを置いてサーバーに接続することで公衆送信権侵害になります。

 本件は,ファイル共有ソフトであるWinnyを用いて2本の映画をアップロードし,アクセスしてきた不特定多数のインターネット利用者に各映画の情報を自動公衆送信できるようにし,各映画の著作権者が有する著作権を侵害したという事案である。

京都地判平成16年11月30日[Winnyファイル交換事件]

侵害主体

 公衆送信権侵害については自動公衆送信可能な装置やシステムのサービス提供者や管理者に対して規範的行為主体に基づく侵害主体の認定が行われるかが問題になります。

P2P(pear to pear)技術に関して

本件サービスのように,インターネットを介する情報の流通は日々不断に且つ大量になされ,社会的に必要不可欠なものになっていること,そのうちに違法なものがあるとしても,情報流通を逐一補足することは必ずしも技術的に容易ではないことなどからすると,単に一般的に違法な利用がされるおそれがあるということだけから,そのような情報通信サービスを提供していることをもって,上記侵害の主体であるとするのは適切でないことはいうまでもない。しかし,単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず,本件サービスが,その性質上,具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり,控訴人会社がそのことを予想しつつ本件サービスを提供して,そのような侵害行為を誘発し,しかもそれについての控訴人会社の管理があり,控訴人会社がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは,控訴人会社はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として,その責任を問われるべきことは当然であり,控訴人会社を侵害の主体と認めることができるというべきである。

(東京高判平成17年3 月31日平16(ネ)405号 〔ファイルローグ事件: 控訴審〕)

ユーザーが有するCDの音源を携帯電話で聞くためのサービスに関して

 ①原告の提供しようとする本件サービスは,パソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザを対象として,CD等の楽曲を自己の携帯電話で聴くことができるようにするものであり,本件サービスの説明図④の過程において,複製行為が不可避的であって,本件サーバに3G2ファイルを蔵置する複製行為は,本件サービスにおいて極めて重要なプロセスと位置付けられること,② 本件サービスにおいて,3G2ファイルの蔵置及び携帯電話への送信等中心的役割を果たす本件サーバは,原告がこれを所有し,その支配下に設置して管理してきたこと,③ 原告は,本件サービスを利用するに必要不可欠な本件ユーザソフトを作成して提供し,本件ユーザソフトは,本件サーバとインターネット回線を介して連動している状態において,本件サーバの認証を受けなければ作動しないようになっていること,④ 本件サーバにおける3G2ファイルの複製は,上記のような本件ユーザソフトがユーザのパソコン内で起動され,本件サーバ内の本件ストレージソフトとインターネット回線を介して連動した状態で機能するように,原告によってシステム設計されたものであること,⑤ ユーザが個人レベルでCD等の楽曲の音源データを携帯電話で利用することは,技術的に相当程度困難であり,本件サービスにおける本件サーバのストレージのような携帯電話にダウンロードが可能な形のサイトに音源データを蔵置する複製行為により,初めて可能になること,⑥ ユーザは,本件サーバにどの楽曲を複製するか等の操作の端緒となる関与を行うものではあるが,本件サーバにおける音源データの蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕様や,ストレージでの保存に必要な条件は,原告によって予めシステム設計で決定され,その複製行為は,専ら,原告の管理下にある本件サーバにおいて行われるものであることに照らせば,本件サーバにおける3G2ファイルの複製行為の主体は,原告というべきであり,ユーザということはできない。

(東京地判平成19年5月25日判時1979号100頁 [MYUTA事件〕)

インターネット掲示板について

(4) インターネット上においてだれもが匿名で書き込みが可能な掲示板を開設し運営する者は,著作権侵害となるような書き込みをしないよう,適切な注意事項を適宜な方法で案内するなどの事前の対策を講じるだけでなく,著作権侵害となる書き込みがあった際には,これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある。掲示板運営者は,少なくとも,著作権者等から著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には,可能ならば発言者に対してその点に関する照会をし,更には,著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど,速やかにこれに対処すべきものである。

 本件においては,上記の著作権侵害は,本件各発言の記載自体から極めて容易に認識し得た態様のものであり,本件掲示板に本件対談記事がそのままデジタル情報として書き込まれ,この書き込みが継続していたのであるから,その情報は劣化を伴うことなくそのまま不特定多数の者のパソコン等に取り込まれたり,印刷されたりすることが可能な状況が生じていたものであって,明白で,かつ,深刻な態様の著作権侵害であるというべきである。被控訴人としては,編集長Aからの通知を受けた際には,直ちに本件著作権侵害行為に当たる発言が本件掲示板上で書き込まれていることを認識することができ,発言者に照会するまでもなく速やかにこれを削除すべきであったというべきである。にもかかわらず,被控訴人は,上記通知に対し,発言者に対する照会すらせず,何らの是正措置を取らなかったのであるから,故意又は過失により著作権侵害に加担していたものといわざるを得ない。

(東京高判平成17年3月3日判時 1893号126頁 〔2ちゃんねる事件: 控訴審〕)

リンク行為

 違法に著作物がアップロードされているウェブサイトにリンクを張る行為が公衆送信権の侵害に当たるかが問題になりますが、多くの見解ではこれに対して否定的です。

 裁判例では、リンクをクリックするとサーバーを介することは無くリンク先から直接著作物データが送信されるため、リンクを張った者が自動的に送信可能な状態を作り出しているとは言えないと判断され公衆送信には該当しないとしています。そのため、リンクを張る行為は自動公衆送信に該当しないとされています。

しかし,「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画は,著作権者の明示又は黙示の許諾なしにアップロードされていることが,その内容や体裁上明らかではない著作物であり,少なくとも,このような著作物にリンクを貼ることが直ちに違法になるとは言い難い。そして,被告は,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴可能としたことにつき,原告から抗議を受けた時点,すなわち,「ニコニコ動画」への本件動画のアップロードが著作権者である原告の許諾なしに行われたことを認識し得た時点で直ちに本件動画へのリンクを削除している。

 このような事情に照らせば,被告が本件ウェブサイト上で本件動画へリンクを貼ったことは,原告の著作権を侵害するものとはいえないし,第三者による著作権侵害につき,これを違法に幇助したものでもなく,故意又は過失があったともいえないから,不法行為は成立しない。

(大阪地判平成25年6月20日判時2218号 112頁 〔ロケットニュース24事件〕)

著作物である本件写真は,流通情報2(2)のデータのみが送信されているから,本件リツイート行為により著作物のデータが複製されているということはできない。したがって,複製権侵害との関係でも,控訴人が主張する「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTML データ等を「侵害情報」と捉えることはできず,「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTML データ等が「侵害情報」であることを前提とする控訴人の複製権侵害に関する主張は,採用することができない。

(知財高判平 成30年4月25日民集74巻4号1480頁 〔リツイート事件: 控訴審〕)

本件ツイッターに表示される画像は,閲覧者の端末上では,リンク元である被告ウェブサイト上で閲覧できる状態に置かれていたとしても,被告がツイートしたものではなく,被告ウェブサイトのサーバにその画像データが保存されているということもできないから,被告が,自動公衆送信又は送信可能化をしたということはできない。

 また,被告は,「バキ」,「刃牙」,「#baki」,「グラップラー」又は「範馬」とのワードを含むツイートを表示するように設定しているのみであり,どのようなツイートをするかについて影響を及ぼすことができるわけではないことはもとより,本件漫画の画像を掲載したツイートが表示されるように設定しているわけでもないこと,本件ツイッターによって被告に何らかの利益が帰属するとはいえないことを踏まえると,被告を利用主体と評価することもできない。

したがって,被告が本件ツイッターを被告ウェブサイトに掲載する行為が原告の送信可能化権を侵害するということはできない。

東京地判令和元年6月19日平28(ワ) 10264号 〔グラップラー刀牙事件〕)

本件リンク設定行為は、本件動画の表紙画面である被告画像1をリンク先のサーバーから本件ウェブページの閲覧者の端末に直接表示させるものにすぎず、被告は、本件リンク設定行為を通じて、被告画像1のデータを本件ウェブページのサーバーに入力する行為を行っていないものと認められる。そうすると、前記(2)アのとおり原告画像1を複製したものと認められる被告画像1を含む本件動画をYouTubeが管理するサーバーに入力、蓄積し、これを公衆送信し得る状態を作出したのは、本件動画の投稿者であって、被告による本件リンク設定行為は、原告画像1について、有形的に再製するものとも、公衆送信するものともいえないというべきである。

(東京地判令和4年4月22日平31(7)8969号  [オンラインゲーム事件])

他方、複製行為とサイトへのリンク情報への掲載行為が同一人物の場合、その両方の行為を行ったとして送信可能化に該当すると評価したケースも存在します。

原告は,令和2年8月1日,イラストレーターに対し,自分の写真を素材にした似顔絵の作成を依頼し,同月4日,イラストレーターから原告イラスト画像を受領したこと,イラストレーターは,原告イラスト画像の著作権を原告に譲渡したことを自認していることが認められるところ,これらの事実に照らせば,原告が原告イラスト画像の著作権者であることが認められる。

 本件各投稿は,著作権者である原告に無断で原告イラスト画像をツイッター上のプロフィール画像として使用するものであり,原告イラスト画像に係る原告の公衆送信権及び複製権を侵害することが明らかである。

(東京地判令和3年7 月16日3(7)4491号〔訴状ブログ公開事件〕)

もっとも,本件においては,前記ア(ウ)及び(エ)のとおり,メール送信による本件画像のアップロード行為(本件画像アップロード)と,本件画像URLを本件掲示板に投稿する行為(本件投稿)が1分05秒のうちに行われているところ,本件画像URLは本件画像をメール送信によりアップロードした者にしか返信されないという仕組み(前記ア(ア))を前提とすれば,1分05秒というごく短時間のうちに無関係の第三者が当該URLを入手してこれを本件掲示板に書き込むといったことは想定し難いから,本件画像アップロードを行った者と本件投稿を行った者は同一人物であると認めるのが相当である。そして,前記ア(イ)のとおり,本件画像URLが本件掲示板に投稿されることにより,本件掲示板をスマートフォンで閲覧した者は,本件画像URL上にアップロードされている本件画像を本件掲示板上で見ることができるようになる。そうすると,本件投稿自体は,URLを書き込む行為にすぎないとしても,本件投稿をした者は,本件画像をアップロードし,そのURLを本件掲示板に書き込むことで,本件画像のデータが公衆によって受信され得る状態にしたものであるから,これを全体としてみれば,本件投稿により,原告の本件写真2に係る公衆送信権が侵害されたものということができる。

(東京地判平成31年2月28日平30 (ワ) 19731号 〔V系初代たぬきの掲示板事件〕)

本件記事に対応するダウンロードサーバに本件漫画の電子ファイルをアップロードした者は,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置(ダウンロードサーバ)の公衆送信用記録媒体に本件漫画の情報を記録(アップロード)して,原告が著作権を有する本件漫画を送信可能化して自動公衆送信し得るようにしていた(パスワードが設定されていても,当該パスワードが公開されているので,不特定の公衆からの求めに応じ自動公衆送信し得るようになっていたものといえる。著作権法2条1項9号の5イ)のであるから,原告の公衆送信権(同法23条1項)を侵害していたことが明らかである。

 本件記事を投稿した発信者は,本件記事(甲4)やそれ以外の本件ブログの記載(甲7)からして,ダウンロードサーバに本件漫画の電子ファイルをアップロードした者と同一人であると認めるのが相当であり,仮にそうでないとしても,少なくともアップロード者と共同して主体的に原告の公衆送信権を侵害したものであることが明らかである。

(東京地判平成26年1月17日 平25 (ワ)20542号 〔どーじんぐ娘。事件〕)

また、リンク行為はインターネット上の情報流通の一般的手段であり、広く規制することは文化の発展を阻害してしまいます。

しかし、リンク行為が公衆送信権侵害の幇助に当たる可能性が指摘されています。これに対応するため、「リーチサイト」などに対するみなし侵害規定が新設されました。この改正は、リンク行為自体が原則として送信可能化行為に該当しないという前提に基づいています。

一方でリンクに類似したリバースプロキシという技術の利用に関して

被告人は,Gのサーバではデータをキャッシュしていなかったと供述して おり,これを覆すべき証拠はない。よって,キャッシュは行われていなかったものと認められる。

前記2に認定したリバースプロキシの働きによれば,Gのサーバにリバー スプロキシの設定をすることにより,Gのサーバは,閲覧者から画像閲覧の リクエストを受けるとその画像データを第三者サーバにリクエストし,第三 者サーバからその画像データの送信を受け,受け取った画像データを閲覧者 に返信することになる。これによると,第三者サーバ内部にある記録媒体の うちGのサーバに送信する画像データを記録保存している部分は,自動公衆 送信装置たるGのサーバに画像データを供給する働きをするものと認められ, 機能的にみて,Gのサーバに接続された記録媒体に当たると評価できる。 そして,上記のGのサーバと第三者サーバの記録媒体との関係は,被告人 がGのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより生じたことによれ ば,同行為は,情報が記録された第三者サーバの記録媒体をGのサーバの公 衆送信用記録媒体として「加え」る行為に該当すると認められる。 したがって,Gのサーバにリバースプロキシの設定をした被告人の行為は, 著作権法2条1項9号の5イにいう「情報が記録された記録媒体を当該自動 公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」る行為に当たると認められ る。 この点に関する弁護人の主張は,前記1 同条の文理解釈において,「加え」る行為を物理的に接続する場合に限定すべき合理的 理由はなく,その主張は採用できない。

(中略)

第三者サーバに記録保存されていた漫画等の画像データは,閲覧者のリクエストに応じてGのサーバに入力されるものの,Gのサーバには記録保存されることなく,そのまま自動公衆送信されていた。

これは,著作権法2条1項9号の5イにいう「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」ことに当たる。

もっとも,かかる情報の入力は,閲覧者のリクエストに応じて自動的に行われるのであるから,当該情報の入力を行った主体が誰であるかが問題となる。

著作権法が,自動公衆送信とは別に,送信可能化を規制対象として規定した趣旨は,現に自動公衆送信が行われる前の準備段階の行為を規制することにある。そして,送信可能化が,公衆からの求めに応じて自動的に送信する機能を有する自動公衆送信装置の使用を前提としていることに鑑みると,情報入力の主体は,閲覧のリクエストをした個々の閲覧者ではなく,情報を自動的に入力する状態を作り出した者と解するのが相当である。本件において,情報を自動的に入力する状態を作り出したのは,Gのサーバにリバースプロキシの設定をした被告人であるから,行為主体は被告人と認められる。 さらにリバースプロキシとリンクの貼付けとの異同についてみると,関係証拠によれば,リバースプロキシの設定は,いわゆるリンクの貼付けとは違い,リバースプロキシを設定されたサーバが,オリジンサーバが管理する別のウェブサイトへの遷移を伴わずに,ユーザーが閲覧をリクエストした画像データ自体をオリジンサーバから取得して,受信者に対し,当該画像データそのものを送信するものである。

この行為が著作権法の定める送信可能化に該当することは既に検討したとおりであり,データ自体を送信せず,インターネット上の侵害コンテンツの所在(URL)を表示するにすぎないリンクの貼付けとは,行為態様を全く異にしている。当該行為が,今般の法改正によって初めて可罰性を認められたと解することはできず,その旨の弁護人の主張は採用できない。また,著作権法上,第三者により既に送信可能化されていた画像等のデータについて,その余の者による著作権侵害が成立しないなどと解すべき合理的理由はなく,等しく著作権法による保護が与えられるべきであるから,に掲載されていた漫画等の画像データが第三者により既に送信可能化されていたものだったとしても,被告人による送信可能化は否定されない。

(中略)

以上によれば,被告人のしたリバースプロキシの設定は,送信可能化にあたり,著作権法23条1項の公衆送信権侵害にあたる。

(福岡地裁令和3年6月2日[漫画村事件])

伝達権の内容 (2項)

公衆送信されるその著作物

 伝達権の対象は、公衆送信される著作物です。公衆送信の定義は法第2条定義1項七の二より、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことを指すのでテレビ放送や有線放送、インターネット上のウェブサイトからの送信などを含みます。

 伝達権は、公衆送信を通じて送信された著作物を受信装置で受信し、それを直接公に伝達する行為を権利の対象としています。したがって、公衆送信された著作物を録画等したものを公衆に視聴させる行為は、この権利の対象ではありません。

受信装置を用いて公に伝達する

 本条2項にいう受信装置とは、公に伝達することが可能な装置を指します。具体的には、テレビ受像機やラジオ受信機のように送信された電波やデータ等を受信し、それを映像や音にして再生する機能を持つ装置を意味します。

 伝達権の対象となる利用行為は、公に伝達する行為です。「公に」とは「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」という意味であり、特定少数の者に見せまたは聞かせる目的での伝達には本権利は及びません。また、「直接」見せまたは聞かせることを目的としているため、公衆が受信装置で再生された映像や音に接する状態で行われる必要があります。なお、公衆に直接見せ、聞かせることを目的として利用行為を行っていれば十分で、実際に視聴した者が特定少数者であっても要件を満たします。

参考資料

加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.
作花文雄. (2022年12月20日). 詳解著作権法[第6版]. 株式会社ぎょうせい.
小泉直樹他. (2019年3月11日). 著作権判例百選(第6版). 有斐閣.
小泉直樹他. (2023年6月15日). 条解著作権法. 弘文堂.
斉藤博. (2014年12月26日). 著作権法概論. 勁草書房.
中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.

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