著作権法第三十条 私的使用のための複製

条文

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合

二 技術的保護手段の回避(第二条第一項第二十号に規定する信号の除去若しくは改変その他の当該信号の効果を妨げる行為(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約によるものを除く。)を行うこと又は同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像の復元を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすること(著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く。)をいう。第百十三条第七項並びに第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(以下この号及び次項において「特定侵害録音録画」という。)を、特定侵害録音録画であることを知りながら行う場合

四 著作権(第二十八条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。以下この号において同じ。)を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。以下この号において同じ。)(当該著作権に係る著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なものを除く。以下この号及び次項において「特定侵害複製」という。)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合(当該著作物の種類及び用途並びに当該特定侵害複製の態様に照らし著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く。)

2 前項第三号及び第四号の規定は、特定侵害録音録画又は特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行う場合を含むものと解釈してはならない。

3 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。

私的使用のための複製

私的複製の概要

本条1項は1部の例外を除き私的使用(個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること)のための複製(以下私的複製)に対して著作権を制限する規定です。

私的複製が認められている根拠として、「「個人的」な利用の意味するものは多義的であるが、立法趣旨としては本条で複製された当該複製物を個人の趣味や教養のために使用することが想定されている。その複製物の使用目的が、教養や何等かの事業に結びつく場合には、基本的には個人的とはいわない。」(作花文雄. (2022年12月20日). 詳解著作権法[第6版]. 株式会社ぎょうせい.312頁)

著作権法30条1項は,個人の私的な領域における活動の自由を保障する必要性があり,また閉鎖的な私的領域内での零細な利用にとどまるのであれば,著作権者への経済的打撃が少ないことなどに鑑みて規定されたものである。

(知財高判平成26年10月22日判時2246号92頁 〔自炊代行事件 控訴審))

私的複製に複製の方法は問われませんし、複製する著作物の種類も問いません。それに加えて公表要件も無いので未公表の著作物も複製できます。

さらに、本条1項により著作物の利用行為が可能な場合には複製だけではなく

「翻訳、編曲、変形又は翻案」としても利用可能です。(法47条の6 翻訳、翻案等による利用)

また、本条1項の目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された著作物の複製物を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物の公衆への提示(送信可能化を含む。以下同じ。)を行つた者は法21条の複製を行ったものとみなします。(法49条 複製物の目的外使用等)

私的複製の内容

本条1項の私的複製に該当するためには

①: 個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用する

②: その私的使用する者が複製する

この2つを満たすことが必要です

個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用する

まず、複製の目的が「私的使用」つまり「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」であることが必要です。

この私的使用の範囲とは

 「典型的には、社内の同好会とかサークルのように10人 程度が一つの趣味なり活動なりを目的として集まっている限定されたごく少数の グループということであります」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター,237頁~238頁)

著作権法第三〇条によれば、著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、その使用する者が複製することができる旨が規定されているが、企業その他の団体において、内部的に業務上利用するために著作物を複製する行為は、その目的が個人的な使用にあるとはいえず、かつ家庭内に準ずる限られた範囲内における使用にあるとはいえないから、同条所定の私的使用には該当しないと解するのが相当である。

(東京地判昭和52年7月22日無体集9巻2号54頁(舞台装置設計 図事件))

企業などの団体の業務上の利用目的では本条1項を否定しました。

多くの学説もそのような解釈をしています。

「個人的使用のためであるからといって過程にビデオ・ライブラリーを作りテレビ番組等を録画して多数の映像パッケージを備える行為が認められるかといいますと、ベルヌ条約上許容されるケースとしての「著作物の通常の利用を妨げず、かつ、著作者の正当な利益を不当に害しないこと」という条件を充足しているとは到底いえないという問題が出てまいりましょう。」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.237頁)

 これに準ずる限られた範囲について、「複製をするものの属するグループのメンバー相互間に強い個人的結合関係のあることが必要でして、部数を限定して自分と付合いのある友人に配布するような場合は該当しません。」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.237頁)

その私的使用する者が複製する

複製の主体に関して、その私的使用をするものが複製の主体でなければいけません。

ただし、

「「使用する者」とは、法律上の複製主体を指しておりますので、使用者自身による複製が原則でありますけれども、使用者の手足として、その支配下にある者に具体的複製行為を行わせることは許されます。」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター,239頁)

この例として「親が子供に代わって行う複製や、障碍者に代わって慈善団体等の職員が行う複製は、障害者等の手足として複製していると見るべきであり、30条の範囲内とすべきである。」(中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.366頁)

「コピー業者に複製を委託するということになりますと、その複製の主体はコピー業者であって、本条にいうコピーを使用する者が複製することにはなりません。」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.239頁)

このように複製の主体を限定する趣旨・目的として、

複製行為の主体について「その使用する者が複製する」との限定を付すことによって,個人的又は家庭内のような閉鎖的な私的領域における零細な複製のみを許容し,私的複製の過程に外部の者が介入することを排除し,私的複製の量を抑制するとの趣旨・目的を実現しようとしたものと解される。

(知財高判平成26年10月22日判時2246号92頁 〔自炊代行事件 控訴審))

複製行為の主体に対して

本件サービスにおける複製行為が,利用者個人が私的領域内で行い得る行為にすぎず,本件サービスにおいては,利用者が複製する著作物を決定するものであったとしても,独立した複製代行業者として本件サービスを営む控訴人ドライバレッジが著作物である書籍の電子ファイル化という複製をすることは,私的複製の過程に外部の者が介入することにほかならず,複製の量が増大し,私的複製の量を抑制するとの同条項の趣旨・目的が損なわれ,著作権者が実質的な不利益を被るおそれがあるから,「その使用する者が複製する」との要件を充足しないと解すべきである。

(知財高判平成26年10月22日判時2246号92頁 〔自炊代行事件 控訴審))

私的複製の例外

本条1項1号~4号に該当する場合は私的複製の対象外になります。

映画の盗撮の防止に関する法律の第4条映画の盗撮に関する著作権法の特例では映画の盗撮については、本条1項の規定が適用されないことが明示されていますので、これも対象外になります。

 私的複製を設定した当初は私的使用の範囲ならば著作権者の利益に与える影響は微々たるものであると想定していました。しかし、「デジタル複製機器の氾濫により、個々的に見れば私的使用目的のための複製は微々たるものであっても、社会全体としてはオリジナルと当価値の大量の複製が日常茶飯事になされ、その結果著作物の通常の利用を妨げ、権利者の正当な利益が不当にがいされているのではないかという懸念が生じるようになり(ベルヌ条約9条(2)参照)、現行制度が危機に瀕するようになった。」(中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.361頁)

このような経緯から私的複製の対象外になる例外規定が設けられました。

1号 公衆用自動複製機器について

本条1項1号では公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合を規定しています。この規定が私的複製の対象外になる理由は私的使用の範囲内とはいえ機器を用いて著作物を大量に複製する行為は権利者の利益を不当に害する可能性が生じるからです。この例外規定は昭和59年の著作権法改正に織り込まれました。

本号は営利非営利は問わないため公共施設に設置されている自動複製機器も許容されません。「これには、自己が所有しているか、人から借りたかを問わず、家庭内で使用する自動複製機器は含まれませんが、業者がお客に使用させるために店に設置しているmのだけでなく、公民館、市民センター等の公共施設で住民の使用に供するためにせっちしている機器なども該当します。」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.240頁)

ただし、「自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする。」(附則第五条の二 自動複製機器についての経過措置)とされています。これは文献複写の分野についての複製を対象外にすることは社会的な影響が大きいために体制が整う当分の間はこのような規定が加えられました。あくまで当分の間除外する規定ですが、現在に至るまで改正されていないのでこの規定は継続しています。これによって、コンビニなどに設置されているコピー機などでの複製は問題無く私的複製の対象になります。

被告商品は、複製の機能が自動化されている機器であるから、著作権法30条1項1号にいう自動複製機器であるということができる。そして、前記4(3)のとおり、被告商品の1サーバー当たりの利用者数(これは必ずしもビューワー数と一致しないことは前述のとおりである。)は、同号にいうところの「公衆」にもあたるということができる程度に多数であるというべきである。

したがって、被告商品の使用時における、放送に係る音及び影像の複製については、著作権法102条1項が準用する同法30条1項1号(公衆用自動複製機器の使用)に該当する。

(大阪地判平成17年10月24日判時1911号 65頁 〔選撮見録事件第1審〕)

ただし、同事件の控訴審では本条1項の適用が否定され1号の該当性は争点になりませんでした。

2号 技術的保護手段の回避について

本条1項2号は技術的保護手段の回避により可能となり、またはその結果に障害が生じないようになった複製を、その事実を知りながら行う場合を規定しています。技術的保護手段を用いている権利者にとって、このような方法で複製を行うことは権利者の利益を不当に害する可能性が生じるため平成11年の著作権法改正で私的複製の対象外になりました。

 技術的保護手段の回避とは

①:本法2条1項20号に規定する信号の除去若しくは改変その他の当該信号の効果を妨げる行為(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約によるものを除く。)

②: 同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物等の復元を行うことにより、

ⅰ:技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、

ⅱ:技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすること(著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く。)

また、技術的保護手段の回避により複製が可能になった著作物を入手した者が行う複製について、複製行為を行うものは技術的保護手段の回避が行われたことを知らない可能性があるため、その場合でもこのような利用者に侵害責任を負わせるのは著作物の円滑な利用を阻害する可能性が存在します。そのため「その事実を知りながら行う場合」という要件が明示されています。

この改正は著作権に関する世界知的所有権機関条約、WIPO著作権条約第十一条 技術的手段に関する義務「締約国は、著作者によつて許諾されておらず、かつ、法令で許容されていない行為がその著作物について実行されることを抑制するための効果的な技術的手段であつて、この条約又はベルヌ条約に基づく権利の行使に関連して当該著作者が用いるものに関し、そのような技術的手段の回避を防ぐための適当な法的保護及び効果的な法的救済について定める。」に対応しています

3号 違法ダウンロード(録音・録画)について

 著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画(特定侵害録音録画)を、特定侵害録音録画であることを知りながら行う場合を規定しています。

 ここで言う自動公衆送信とは国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含まれます。

 本号ではインターネットで違法にアップロードされた音楽や動画等を、利用者が私的使用目的でダウンロードすることが膨大に積み重なり問題視され、違法に配信する侵害者への権利行使だけでは権利者の利益を保護することが十分にできないため平成21年度の著作権法改正で新設されました。

 本号の対象となるのがデジタル方式の録音又は録画です。これは主に音楽等の音声や映画等の動画のダウンロードが該当します。つまり、著作物の種類で言えば音楽の著作物や映画の著作物です。またプログラムの著作物等でもそのプログラムで音楽や動画を生成可能な場合同様に対象になる可能性があります。

 また、動画サイトで動画を視聴する際、その動画のデータがキャッシュに保存されこれが録画に該当し本号の私的複製の対象外になる可能性がありますが、法47条の4の電子計算機における著作物の利用に付随する利用等の対象になることで他の権利制限の対象になりえるでしょう。

4号 違法ダウンロードについて

本号では著作権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の複製(録音及び録画を除く。)(特定侵害複製)を、特定侵害複製であることを知りながら行う場合を規定しています。

 同条1項の3号では音楽の著作物や映画の著作物が対象ですが、録音や録画以外の複製を対象にし、著作物の範囲を広げた4号が新設されました。

 3号の対象になるような音楽や動画等の違法配信だけではなく、漫画等の違法配信も問題になったため、平成31年に文化庁が3号と同様に録画・録音以外の複製も権利制限の対象外に設定する改正案が提出されました。しかし、このような私的複製にたいする広範囲な例外規定は国民の情報収集等も大きく阻害される可能性を懸念され、様々な反対意見が提示されました。このような動きによってこの改正案の国会への提出は見送られました。その後、いくつかの制限を課す改正案を作り直して令和2年に成立しました。

  • :侵害する著作権のうち28条に規定する権利は除外されます。

本法28条は二次的著作物の利用に関する原著作者の権利です。この要件は二次創作やパロディなどを違法ダウンロードの対象外にするために規定しています。

「つまり原著作物のマーケットと二次的著作物のマーケットは異なる場合も多く、そのような二次的著作物をダウンロードしても、原著作物のマーケットの需要減にはつながることは少ないであろう配慮と、そこまで違法とすることは知る権利あるいは表現の自由の侵害になるということを根拠としているのであろう。」(中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.378頁)

ただし、海賊版サイト等では海外で漫画のコマが翻訳されたもの等のアップロードが深刻な問題になりましたので、翻訳物が違法ダウンロードの対象になっています。

「これは、出版社等から、翻訳物の違法アップロードによる被害が大きく、そのダウンロードを規制対象がら除外すべきでないとの意見があったことを踏まえたものでありまして、例えば、小説の翻訳版や、漫画の吹き出し・セリフ部分を外国語に翻訳したものが違法アップロードされている場合、それをダウンロードする行為は、違法となり得ます。」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.253頁-254頁)

②: 軽微なものを除く。

これは「これは、SNSなどに違法にアップロードされた漫画の1コマのダウンロードや、論文の中に他人の著作物がごく一部違法に引用されている場合の当該論文のダウンロード等の、日常的に行われている軽微な複製を違法化の対象となることについて、パブリックコメント等において強い不安・懸念が示されたところでありまして、そうしたダウンロードによって著作権者の経済的利益が大きく害されることは想定しづらいことから、「軽微なもの」のダウンロードを違法化の対象から除外する者であります」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.254頁)

 軽微性の判断には「当該著作権に係る著作物のうち当該複製がされる部分の占める割合、当該部分が自動公衆送信される際の表示の精度その他の要素に照らし」といったことが行われます。

③: 当該著作物の種類及び用途並びに当該特定侵害複製の態様に照らし著作権者の利益を不当に害しないと認められる特別な事情がある場合を除く。

 ベルヌ条約の3ステップテストにより「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りではない」という但し書きを権利制限規定の多くで明記されています。それらと比較して「「特別な事情がある場合」と規定することで、この規定が適用されるのはあくまで例外的・特殊な場合であることを明確に示し、居直り的な利用を防止しております」(加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.257頁)

2項 3号4号の解釈について

本条2項は1項3号や4号が特定侵害録音録画又は特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行う場合を含むものと解釈してはならないと明示されています。

 3号には「特定侵害録音録画であることを知りながら行う場合」と要件が明記されており、4号にも「特定侵害複製であることを知りながら行う場合」と要件が明記されていますが本項では利用者側の負担にならないために改めてこの解釈を繰り返しています。

3項 私的録音録画補償金について

 私的複製による権利制限は私的使用に著作物利用を限定することで、著作権者に与える影響が軽微であることが前提としていました。しかし、その後デジタル技術の発展によって家庭内で個人が市販のCDやビデオと同質の複製物の製作が可能になりましたため、私的複製でも著作権者の利益が不当に害する可能性が生じました。私的使用を目的として、デジタル方式の録音または録画機器や記録媒体であつて政令で定めるものに録音または録画を行う者は、著作権者に相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならないと規定されました。ただし、補償金を受ける権利は、文化庁長官が指定する指定管理団体によつてのみ行使することができる。(法104条の二 私的録音録画補償金を受ける権利の行使)

録音・録画機器については

1.放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するも

2,録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するもの

が本条3項かっこ書きで除外されています。

私的使用を目的とする録音・録画に対する補償金はデジタル方式の録音・録画のみを対象としています。これはアナログ方式と比較してデジタル方式が市販品と変わらない複製物を繰り返し製作できることが考慮に入れられています。

 裁判例において該当する録画機器について

3号が対象とする録画源であるテレビ放送の複製権侵害の態様は一律ではなく,その中でもアナログ放送とデジタル放送とで質的に異なる様相を示すことを前提にして,施行令1条1項,2項に,客観的かつ一義的に明確でないながらも規定されている「アナログデジタル変換が行われた」との要件を,解釈し得る最小限の範囲で当てはめるならば,3号が追加された当時における録画源としての実態であって製造業者を含む大方の合意が得られた録画源であるアナログ放送から離れ,デジタル放送のみを録画源とするDVD録画機器が特定機器に該当すると解するのは困難といわざるを得ない。

チューナーとしてデジタルチューナーのみを搭載する録 画機器にあっては,録画される対象が「アナログデジタル変換が行われた影像」で あるとの施行令1条2項3号の要件を充足しないから,同号所定の特定機器に該当 するものと認めることはできない。

(知財高判平成23年12月22日判時2145号75頁 〔私的録画補償金事件: 控訴審]〕

参考資料

加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.
作花文雄. (2022年12月20日). 詳解著作権法[第6版]. 株式会社ぎょうせい.
小泉直樹他. (2019年3月11日). 著作権判例百選(第6版). 有斐閣.
小泉直樹他. (2023年6月15日). 条解著作権法. 弘文堂.
斉藤博. (2014年12月26日). 著作権法概論. 勁草書房.
中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.
文化庁著作権課. (日付不明). 令和5年度著作権テキスト.

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