規範的行為主体論

規範的行為主体論

手足論とカラオケ法理

 学説では著作権の対象となる著作物の利用行為を著作説行っている者(直接的行為主体)の侵害行為に限定して直接侵害、それ以外の者については間接侵害と分ける解釈と直接侵害の範囲を規範的に判断して拡張する考え(規範的行為主体論)が存在します。

 規範的行為主体論では著作物の利用行為の本来の主体である利用者だけではなく、著作物の利用に伴う機器やサービスの提供者が著作物の利用主体とみなされるということもあります。この場合はその機器やサービスの利用者ではなく(またはその利用者に加えて)、その機器やサービスの提供者が侵害する者また侵害するおそれがある者(侵害主体)であると認められない限り、原則差止め請求は認められません。

また直接的行為主体者が他者の「手足」としてその利用行為を行っているとされる場合にはその他者が利用行為を行っている主体と考える見解もあり、これを「手足論」と呼びます。

一般に、ある行為の直接的な行為主体でない者であっても、その者が、当該行為の直接的な行為主体を「自己の手足として利用して右行為を行わせている」と評価し得る程度に、その行為を管理・支配しているという関係が認められる場合には、その直接的な行為主体でない者を当該行為の実質的な行為主体であると法的に評価し、当該行為についての責任を負担させることも認め得るものということができるところ、原告らの前記(一)前段の主張も、右のような一般論を著作権法の「複製」行為の場合に当てはめるものとして理解する限りにおいて、これを是認することができる。

(中略)

原告らは、被告が本件番組における本件各音源の送信に当たって、①「FAX BOXサービス」及び「サウンドナビ機能」(前記第二、四1(一)(3)①)を提供し、②多数のチャンネルを音楽ジャンルごとに細分化し、③解説やトーク等を入れることなくそのままフルサイズで、④反復継続して、⑤デジタル方式で送信していることをとらえ、受信者の欲望を殊更にかき立て、自己の手足として利用して本件各音源の録音行為を実行させている旨主張するが、原告らが指摘する右のような本件番組のサービスの形態は、受信者による音源の録音に便宜を与えることになるという意味において、原告らが主張するとおり右録音を誘引、助長する面があることは否定できないものの、これによって、右録音を行うか否かについての受信者の自由意思が排除されるものではないから、被告が受信者を自己の手足として利用しているといえるだけの管理・支配の関係をもたらすものとはいえない。

(東京地判平成12年5月16日判時1751号149頁(スターデジオ2事件)

直接的行為主体についての管理支配の関係性について侵害主体を認めた判例について

上告人らは、上告人らの共同経営にかかる原判示のスナツク等において、カラオケ装置と、被上告人が著作権者から著作権ないしその支分権たる演奏権等の信託的譲渡を受けて管理する音楽著作物たる楽曲が録音されたカラオケテープとを備え置き、ホステス等従業員においてカラオケ装置を操作し、客に曲目の索引リストとマイクを渡して歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による演奏を伴奏として他の客の面前で歌唱させ、また、しばしばホステス等にも客とともにあるいは単独で歌唱させ、もつて店の雰囲気作りをし、客の来集を図つて利益をあげることを意図していたというのであり、かかる事実関係のもとにおいては、ホステス等が歌唱する場合はもちろん、客が歌唱する場合を含めて、演奏(歌唱)という形態による当該音楽著作物の利用主体は上告人らであり、かつ、その演奏は営利を目的として公にされたものであるというべきである。

けだし、客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目的とするものであること(著作権法二二条参照)は明らかであり、客のみが歌唱する場合でも、客は、上告人らと無関係に歌唱しているわけではなく、上告人らの従業員による歌唱の勧誘、上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナツクとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図つて営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであつて、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるものであるからである。

したがつて、上告人らが、被上告人の許諾を得ないで、ホステス等従業員や客にカラオケ伴奏により被上告人の管理にかかる音楽著作物たる楽曲を歌唱させることは、当該音楽著作物についての著作権の一支分権たる演奏権を侵害するものというべきであり、当該演奏の主体として演奏権侵害の不法行為責任を免れない。

(最判昭和63年3月15日民集42巻3号19頁 [クラブキャッツアイ事件])

  この事件の背景として、カラオケによる客の歌唱は上演権侵害に該当する場合でも、法38条営利を目的としない上演等の権利制限規定によって客に侵害責任を問えないことが多いためカラオケ店を自体を侵害主体と捉える必要があります。

この判決から管理性と利益性の2要素から判断して、客の歌唱がこのカラオケスナックの経営者のものと同一視するものとし、経営者による演奏権侵害を肯定しています。この判決により管理性と利益性の2要素を考慮し侵害主体を判断する考え方は「カラオケ法理」と呼ばれることとなります。

カラオケ法理が採用された裁判例について

カラオケ装置のリース業者は,カラオケ装置のリース契約を締結した場合において,当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは,リース契約の相手方に対し,当該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく,上記相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うものと解するのが相当である。けだし,(1)カラオケ装置により上映又は演奏される音楽著作物の大部分が著作権の対象であることに鑑みれば,カラオケ装置は,当該音楽著作物の著作権者の許諾がない限り一般的にカラオケ装置利用店の経営者による前記1の著作権侵害を生じさせる蓋然性の高い装置ということができること,(2)著作権侵害は刑罰法規にも触れる犯罪行為であること(著作権法119条以下),(3)カラオケ装置のリース業者は,このように著作権侵害の蓋然性の高いカラオケ装置を賃貸に供することによって営業上の利益を得ているものであること,(4)一般にカラオケ装置利用店の経営者が著作物使用許諾契約を締結する率が必ずしも高くないことは公知の事実であって,カラオケ装置のリース業者としては,リース契約の相手方が著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことが確認できない限り,著作権侵害が行われる蓋然性を予見すべきものであること,(5)カラオケ装置のリース業者は,著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたか否かを容易に確認することができ,これによって著作権侵害回避のための措置を講ずることが可能であることを併せ考えれば,上記注意義務を肯定すべきだからである。

(最判平成13年3月2日民集55巻2号185頁 〔ビデオメイツ事件])

また、本件店舗のカラオケ歌唱用の各部屋においては、顧客が各部屋に設置されたカラオケ装置を操作し、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱することによって、管理著作物の演奏が行われていることが認められるところ、控訴人らは各部屋にカラオケ装置と共に楽曲索引を備え置いて顧客の選曲の便に供し、また、顧客の求めに応じて従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示するなどし、顧客は指定された部屋において定められた時間の範囲内で時間に応じた料金を支払い、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱し、歌唱する曲目は控訴人らが用意したカラオケソフトに収納されている範囲に限られることなどからすれば、顧客による歌唱は、本件店舗の経営者である控訴人らの管理の下で行われているというべきであり、また、カラオケボックス営業の性質上、控訴人らは、顧客に歌唱させることによって直接的に営業上の利益を得ていることは明らかである。

 このように、顧客は控訴人らの管理の下で歌唱し、控訴人らは顧客に歌唱させることによって営業上の利益を得ていることからすれば、各部屋における顧客の歌唱による管理著作物の演奏についても、その主体は本件店舗の経営者である控訴人ら

であるというべきである。

(東京高判平成11年7月13日判時1696号137頁 〔ビッグエコー事件: 控訴審])

またカラオケに限らずデジタル・ネットワーク技術においても採用例があります。

しかし,現実の複製,公衆送信・送信可能化行為をしない者であっても,その過程を管理・支配し,かつ,これによって利益を受けている等の場合には,その者も,複製行為,公衆送信・送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ,その結果,複製行為,公衆送信・送信可能化行為の主体と評価し得るものと解される。

(大阪高判平成19年6月14日判 時1991号122頁 〔選撮見録事件: 控訴審〕)

ロクラクⅡ事件

放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。

(最判平成23年1月20日  [ロクラクII 事件])

この判決には「カラオケ法理」に基づく管理性と利益性の2要素の考慮は行われていません。複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断しています。この判決ではサービス提供者の管理性について考慮されていますが利益性については明言されていません。この判決が「カラオケ法理」の1種の判断なのか、「カラオケ法理」とは全く異なる判断なのか明確化していません。カラオケ

 ただしカラオケ法理について

上記判断基準に関しては,最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決(民集42巻3号199頁)以来のいわゆる「カラオケ法理」が援用されることが多く,本件の第1審判決を含め,この法理に基づいて,複製等の主体であることを認めた裁判例は少なくないとされている。「カラオケ法理」は,物理的,自然的には行為の主体といえない者について,規範的な観点から行為の主体性を認めるものであって,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二つの要素を中心に総合判断するものとされているところ,同法理については,その法的根拠が明らかでなく,要件が曖昧で適用範囲が不明確であるなどとする批判があるようである。しかし,著作権法21条以下に規定された「複製」,「上演」,「展示」,「頒布」等の行為の主体を判断するに当たっては,もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れた解釈は避けるべきであるが,単に物理的,自然的に観察するだけで足りるものではなく,社会的,経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって,このことは,著作物の利用が社会的,経済的側面を持つ行為であることからすれば,法的判断として当然のことであると思う。

このように,「カラオケ法理」は,法概念の規範的解釈として,一般的な法解釈の手法の一つにすぎないのであり,これを何か特殊な法理論であるかのようにみなすのは適当ではないと思われる。したがって,考慮されるべき要素も,行為類型によって変わり得るのであり,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二要素を固定的なものと考えるべきではない。この二要素は,社会的,経済的な観点から行為の主体を検討する際に,多くの場合,重要な要素であるというにとどまる。にもかわらず,固定的な要件を持つ独自の法理であるかのように一人歩きしているとすれば,その点にこそ,「カラオケ法理」について反省すべきところがあるのではないかと思う。

(最判平成23年1月20日  [ロクラクII 事件])

どちらにしろこの最高裁判決から規範的行為主体の評価について「カラオケ法理」の要件である管理性と利益性の2要素が必ずしも問われるわけではないことを示しているという理解ができるでしょう。

音楽教室事件

音楽教室における演奏の主体の判断に当たっては,演奏の対象,方法,演奏への関与の内容,程度等の諸要素を考慮し,誰が当該音楽著作物の演奏をしているかを判断するのが相当である(最高裁平成21年(受)第788号同23年1月20日第一小法廷判決・15 民集65巻1号399頁〔ロクラクⅡ事件最高裁判決〕参照)。

(知財高判令和3年3月18日 [音楽教室事件])

演奏の形態による音楽著作物の利用主体の判断に当たっては、演奏の目的及び態様、演奏への関与の内容及び程度等の諸般の事情を考慮するのが相当である。被上告人らの運営する音楽教室のレッスンにおける生徒の演奏は、教師から演奏技術等の教授を受けてこれを習得し、その向上を図ることを目的として行われるのであって、課題曲を演奏するのは、そのための手段にすぎない。そして、生徒の演奏は、教師の行為を要することなく生徒の行為のみにより成り立つものであり、上記の目的との関係では、生徒の演奏こそが重要な意味を持つのであって、教師による伴奏や各種録音物の再生が行われたとしても、これらは、生徒の演奏を補助するものにとどまる。また、教師は、課題曲を選定し、生徒に対してその演奏につき指示・指導をするが、これらは、生徒が上記の目的を達成することができるように助力するものにすぎず、生徒は、飽くまで任意かつ自主的に演奏するのであって、演奏することを強制されるものではない。なお、被上告人らは生徒から受講料の支払を受けているが、受講料は、演奏技術等の教授を受けることの対価であり、課題曲を演奏すること自体の対価ということはできない。

 これらの事情を総合考慮すると、レッスンにおける生徒の演奏に関し、被上告人らが本件管理著作物の利用主体であるということはできない。

(最判令和4年10月24日令3 (受)1112号 〔音楽教室事件上告審〕)

 この[音楽教室事件]最高裁判決では[クラブキャッツアイ事件]最高裁判決についての言及は無く規範的行為主体の判断基準として「カラオケ法理」は採用してないと言えます。ただし、生徒の演奏に対する教師の関与について考慮されているため管理性に該当し受講料の支払についても考慮されていますので利益性に該当すると考えることもできるため、一概に「カラオケ法理」を無視しているとも言い難いです。

 そのため、[音楽教室事件]最高裁判決は[ロクラクⅡ事件]最高裁判決と同様にカラオケ法理などの既存の行為主体性の判断に特定しているわけでは無く、より広範囲かつ一般論の視点で観察し行為主体性を判断していると解釈できます。

 すなわち、[クラブキャッツアイ事件]最高裁判決と[ロクラクⅡ事件]最高裁判決、[音楽教室事件]最高裁判決において行為主体性の判断基準が異なることは必ずしも「カラオケ法理」などの特定の判断基準に依存せず、より社会的・経済的側面から見て個別の事例について総合的な判断を行って柔軟性のある行為主体性の判断を行ってきたと考えられます。

支分権の対象行為毎の主体について

複製権の対象行為の主体

複製権の対象行為である複製については手描きの模写などによる複製行為でなければ、ユーザーが機械による操作によって複製をしている場合を想定します。その場合自分の手で複製を行っているわけではなく、機械を通じてそれを操作することで複製を行っているため行為主体の評価が困難になります。前掲のロクラクⅡ事件以外の判決以外にも複製が行為主体の争点になった裁判例として

他にも複製行為の主体性が争点になった裁判例として、

 原告の提供しようとする本件サービスは,パソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザを対象として,CD等の楽曲を自己の携帯電話で聴くことができるようにするものであり,本件サービスの説明図④の過程において,複製行為が不可避的であって,本件サーバに3G2ファイルを蔵置する複製行為は,本件サービスにおいて極めて重要なプロセスと位置付けられること,② 本件サービスにおいて,3G2ファイルの蔵置及び携帯電話への送信等中心的役割を果たす本件サーバは,原告がこれを所有し,その支配下に設置して管理してきたこと,③ 原告は,本件サービスを利用するに必要不可欠な本件ユーザソフトを作成して提供し,本件ユーザソフトは,本件サーバとインターネット回線を介して連動している状態において,本件サーバの認証を受けなければ作動しないようになっていること,④ 本件サーバにおける3G2ファイルの複製は,上記のような本件ユーザソフトがユーザのパソコン内で起動され,本件サーバ内の本件ストレージソフトとインターネット回線を介して連動した状態で機能するように,原告によってシステム設計されたものであること,⑤ ユーザが個人レベルでCD等の楽曲の音源データを携帯電話で利用することは,技術的に相当程度困難であり,本件サービスにおける本件サーバのストレージのような携帯電話にダウンロードが可能な形のサイトに音源データを蔵置する複製行為により,初めて可能になること,⑥ ユーザは,本件サーバにどの楽曲を複製するか等の操作の端緒となる関与を行うものではあるが,本件サーバにおける音源データの蔵置に不可欠な本件ユーザソフトの仕様や,ストレージでの保存に必要な条件は,原告によって予めシステム設計で決定され,その複製行為は,専ら,原告の管理下にある本件サーバにおいて行われるものであることに照らせば,本件サーバにおける3G2ファイルの複製行為の主体は,原告というべきであり,ユーザということはできない。

(東京地判平成19年5月25日判時1979号100頁 〔MYUTA事件〕)

「著作者は,その著作物を複製する権利を専有する。」(著作権法21条)ところ,「複製」とは,著作物を「印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製すること」である(同法2条1項15号)。そして,複製行為の主体とは,複製の意思をもって自ら複製行為を行う者をいうと解される。

(中略)

そうすると,控訴人ドライバレッジは,利用者と対等な契約主体であり,営利を目的とする独立した事業主体として,本件サービスにおける複製行為を行っているのであるから,本件サービスにおける複製行為の主体であると認めるのが相当である。

(知財高判平成26年10月22日判 時2246号92頁 〔自炊代行事件: 控訴審〕)

本件サービスにおける複製の対象,方法,複製物への関与の内容,程度や本件サービスの実態,私的領域が拡大した社会的状況の変化等の諸要素を総合考慮しても,控訴人ドライバレッジが本件サービスにおける複製行為の主体ではないとする控訴人らの主張は理由がない。

(知財高判平成26年10月22日判 時2246号92頁 〔自炊代行事件: 控訴審〕)

本件において、著作物の複製の主体を評価、認定するに当たっては、これらを前提として、上記の具体的事実を検討し、本件サービスにおける複製にかかる債務者の管理・支配の程度と利用者の管理・支配の程度などを比較衡量した上で、複製行為の主体を認定すべきである。

(中略)

しかし、本件サービスは、同様に技術の発展によって可能となったものとはいえ、上記のとおり債務者の管理・支配性が強いものであり、利用者による私的複製と評価することはできない。

(東京地判平成16年10月7日〔録画ネット事件〕)

この事案についてはサービス提供者が複製機器を操作して複製していたことから容易に行為主体を判断できます。ただし、そうでない場合には複製行為に用いられる機器の管理やその入力などの操作を考慮し評価されることでしょう。

演奏権の対象行為の主体

演奏権の主体の決定には[音楽教室事件]最高裁判決が有名ですがそれ以前の裁判例としては

本件店舗において,1審原告管理著作物を演奏(楽器を用いて行う演奏,歌唱)をしているのは,その多くの場合出演者であることから,このような場合誰が著作物の利用主体に当たるかを判断するに当たっては,利用される著作物の対象,方法,著作物の利用への関与の内容,程度等の諸要素を考慮し,仮に著作物を直接演奏する者でなくても,ライブハウスを経営するに際して,単に第三者の演奏を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,演奏の実現における枢要な行為をしているか否かによって判断するのが相当である(最高裁昭和59年(オ)第1204号同63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁,最高裁平成21年(受)第788号同23年1月20日第一小法廷判決・民集65巻1号399頁等参照)。

(知財高判平成28年10月19日平28 (ネ) 10041号 〔Live Bar事件〕)

今後は演奏行為の主体の認定には[音楽教室事件]最高裁判決の判断基準が用いられることが予想されます。ただし、今後も[クラブキャッツアイ事件]最高裁判決の判断基準いわゆる「カラオケ法理」が用いられるケースも考えられます。前掲の複製行為と比較して演奏行為は楽器や歌唱など身体を使ったものとCD等を再生機器を用いて行われるものの2パターンが考えられます。[音楽教室事件]最高裁判決の問題にもなった「生徒の演奏」は前者に該当するものであることも考慮に入れるべきです。生徒が自主的に身体を動かし楽器を使って演奏を行う行為と再生機器の設置・管理操作による演奏は同じと解釈して良いかという問題があります。今後、[音楽教室事件]最高裁判決の判断基準に限定せず演奏行為に対する総合的な判断が必要になることもあるでしょう。

公衆送信権の対象行為の主体

ロクラクⅡ事件と同種のサービスが問題になった裁判で

自動公衆送信は,公衆送信の一態様であり(同項9号の4),公衆送信は,送信の主体からみて公衆によって直接受信されることを目的とする送信をいう(同項7号の2)ところ,著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨,目的は,公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行う送信(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされていた状況の下で,現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある。このことからすれば,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。

(中略)

自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。

(最判平成23年1月18日民集65巻1号121頁 〔まねきTV事件上告審〕)

この事件で注目すべき点としてサービス提供者が送信の主体と認定されただけではなく、サービス提供者の視点から利用者が「公衆」と判断されているので、サービス提供者の送信行為は自動公衆送信に該当するという結論になりました。

また同様に公衆送信行為の主体の該当性について判断した裁判例として

自動公衆送信の主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ,情報を自動的に送信できる状態を作り出す行為を行う者と解されるところ(最高裁平成23年1月18日判決・民集65巻1号121頁参照),本件写真のデータは,流通情報2(2)のデータのみが送信されていることからすると,その自動公衆送信の主体は,流通情報2(2)の URL の開設者であって,本件リツイート者らではないというべきである。著作権侵害行為の主体が誰であるかは,行為の対象,方法,行為への関与の内容,程度等の諸般の事情を総合的に考慮して,規範的に解釈すべきであり,カラオケ法理と呼ばれるものも,その適用の一場面であると解される(最高裁平成23年1月20日判決・民集65巻1号399頁参照)が,本件において,本件リツイート者らを自動公衆送信の主体というべき事情は認め難い。

(中略)

著作権法23条2項は,「著作者は,公衆送信されるその著作物を受信装置を用 いて公に伝達する権利を専有する。」と規定する。 控訴人は,本件リツイート者らをもって,著作物をクライアントコンピュータに 表示させた主体と評価すべきであるから,本件リツイート者らが受信装置であるクライアントコンピュータを用いて公に伝達していると主張する。しかし,著作権法 23条2項は,公衆送信された後に公衆送信された著作物を,受信装置を用いて公に伝達する権利を規定しているものであり,ここでいう受信装置がクライアントコ ンピュータであるとすると,その装置を用いて伝達している主体は,そのコンピュータのユーザーであると解され,本件リツイート者らを伝達主体と評価することは できない。控訴人が主張する事情は,本件写真等の公衆送信に関する事情や本件アカウント3~5のホーム画面に関する事情であって,この判断を左右するものではない。そして,その主体であるクライアントコンピュータのユーザーが公に伝達し ているというべき事情も認め難いから,公衆伝達権の侵害行為自体が認められない。 このように公衆伝達権の侵害行為自体が認められないから,その幇助が認められる余地もない。

(知財高判平成30年4月25日民集74巻4号1480 〔リツイート事件: 控訴審 〕)

この判決ではリツイート者が自動公衆送信の主体であることは否定されましたが、あくまでこの事案の判断であって同じような事例では公衆送信権侵害になり得るケースも考えられます。

本件サービスは,ジェーネット合資会社及びジェーネット社により管理運営され,その利用料金は,上記2社名義の銀行口座に入金されていたものであることが認められるが,上記2社は,いずれも,被告が,本件サービスの管理運営のために設立した会社であって,実質的には被告一人で経営していたものであると認められる上,前記前提事実(6)のとおり,上記2社の銀行口座に入金された利用料金は,ほぼ全額が出金され,被告個人名義口座に入金されていたものであって,本件サービスによる利益は被告個人に帰属していたものであり,後記2のとおり,被告は本件サービスの違法性を認識しながら,本件サービスに係るシステムを構築していたと認められるのであるから,本件サービスに係る送信可能化権侵害及び複製権侵害行為は,被告個人も独立の侵害行為の主体として関与したものであると認められる。

(平成23年9月5日  [ジェーネットワークサービス事件])

その他支分権の対象行為の主体

上演、上映および口述なども演奏と同様〔ロクラク II 事件] 最高裁判決 および 〔音楽教室事件〕 最高裁判決などの判断基準が用いられると考えられます。上映などは専ら再生機器を用いる行為になり、再生機器の管理やサービスの提供を行っているサービス提供者は行為主体に該当する可能性は高いです。

機器とは別に人間の身体を用いて上演したり口述したりする場合はその行為を行っている人間にどこまで関与したかが総合的に考慮されることになるでしょう。

上演権侵害の行為主体についての特殊な判断基準として

各イベントにおける会員によるフラダンスの上演は,そのための練習も含めてKHAの管理の下で行われるものと評価し得るもので,これらのイベントによる発表や交流はKHAの会員の維持・増加のために行われるものと認められるから,会員による上演は,被告ないしKHAが上演させたものと評価し得るものである。

したがって,被告には,本件振付け6等を自ら上演し又は会員等に上演させることにより,原告の著作権を侵害するおそれがあると認められる。

(大阪地判平成30年9月20日判時2416号42頁 〔フラダンス事件)〕

間接侵害

これまでの行為主体の判断基準はユーザーが単独で侵害行為を行っていることが前提になっています。その一方でサービス利用者による侵害行為を放置等したサービス提供者の行為もその利用者の行為とは別個の侵害行為として評価される場合もあります。

 

著作権侵害に該当する投稿を放置していたインターネット上の掲示板の運営者に対して

 自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は,これに書き込まれた発言が著作権侵害(公衆送信権の侵害)に当たるときには,そのような発言の提供の場を設けた者として,その侵害行為を放置している場合には,その侵害態様,著作権者からの申し入れの態様,さらには発言者の対応いかんによっては,その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合もあるというべきである。

(中略)

したがって,被控訴人は本件各発言を本件掲示板上において公衆送信可能 状態に存続させあるいは存続可能な状態にさせたままにしている者として,著作権侵害の不法行為責任を免れない。

(東京高判平成17年3月3日[2ちゃんねる事件])

また、ファイル交換サービス提供者の侵害主体性について

しかし,単に一般的に違法な利用もあり得るというだけにとどまらず,本件サービスが,その性質上,具体的かつ現実的な蓋然性をもって特定の類型の違法な著作権侵害行為を惹起するものであり,控訴人会社がそのことを予想しつつ本件サービスを提供して,そのような侵害行為を誘発し,しかもそれについての控訴人会社の管理があり,控訴人会社がこれにより何らかの経済的利益を得る余地があるとみられる事実があるときは,控訴人会社はまさに自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として,その責任を問われるべきことは当然であり,控訴人会社を侵害の主体と認めることができるというべきである。

(東京高判平成17年3 月31日平16(ネ) 405号 〔ファイルローグ事件: 控訴審〕)

同様の判断基準で動画共有サイトの運営者の侵害主体性を決定した裁判例として

控訴人会社が,本件サービスを提供し,それにより経済的利益を得るために,その支配管理する本件サイトにおいて,ユーザの複製行為を誘引し,実際に本件サーバに本件管理著作物の複製権を侵害する動画が多数投稿されることを認識しながら,侵害防止措置を講じることなくこれを容認し,蔵置する行為は,ユーザによる複製行為を利用して,自ら複製行為を行ったと評価することができるものである。

よって,控訴人会社は,本件サーバに著作権侵害の動画ファイルを蔵置することによって,当該著作物の複製権を侵害する主体であると認められる。

(知財高判平成 22年9月8日判時2115号102頁 (TVプレイク事件])

この点著作権法上の侵害主体を決するについては 当該侵害行為を物理的 外形的な観点のみから見るべきではなく,これらの観点を踏まえた上で,実態に即して,著作権を侵害する主体として責任を負わせるべき者と評価することができるか否かを法律的な観点から検討すべきである。そして,この検討に当たっては,問題とされる行為の内容・性質,侵害の過程における支配管理の程度,当該行為により生じた利益の帰属等の諸点を総合考慮し,侵害主体と目されるべき者が自らコントロール可能な行為により当該侵害結果を招来させてそこから利得を得た者として,侵害行為を直接に行う者と同視できるか否かとの点から判断すべきである。

(東京地判平成21年11月13日 [ジャストオンライン事件])

したがって,控訴人会社が,本件サービスを提供し,それにより経済的利益を得るために,その支配管理する本件サイトにおいて,ユーザの複製行為を誘引し,実際に本件サーバに本件管理著作物の複製権を侵害する動画が多数投稿されることを認識しながら,侵害防止措置を講じることなくこれを容認し,蔵置する行為は,ユーザによる複製行為を利用して,自ら複製行為を行ったと評価することができるものである。

(知財高判平成22年9月8日判[ジャストオンライン事件:控訴審])

これらの裁判例のようなユーザーの行為が侵害に該当し、そのような行為をサービス提供者が認識していながら侵害行為を停止せずに放置している事情が認められればサービス提供者の侵害主体性が肯定される場合があります。

 このような侵害行為の「場」の提供者に侵害行為の主体になることを間接侵害と呼びます。

間接侵害に分類される行動類型について、文化庁の資料では

差止請求の対象として位置付けるべき間接行為者の類型

(ⅰ)専ら侵害の用に供される物品(プログラムを含む。以下同じ。)・場ないし侵害の ために特に設計されまたは適用された物品・場を提供する者

(ⅱ)侵害発生の実質的危険性を有する物品・場を、侵害発生を知り、又は知るべきで ありながら、侵害発生防止のための合理的措置を採ることなく、当該侵害のために 提供する者

(ⅲ)物品・場を、侵害発生を積極的に誘引する態様で、提供する者

「間接侵害」等に関する考え方の整理 (6/29 第2回法制問題小委員会配布資料, 平成24年1月12日)

間接侵害についての条文解釈について

著作権法112条1項にいう「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」は、一般には、侵害行為の主体たる者を指すと解される。しかし、侵害行為の主体たる者でなく、侵害の幇助行為を現に行う者であっても、①幇助者による幇助行為の内容・性質、②現に行われている著作権侵害行為に対する幇助者の管理・支配の程度、③幇助者の利益と著作権侵害行為との結び付き等を総合して観察したときに、幇助者の行為が当該著作権侵害行為に密接な関わりを有し、当該幇助者が幇助行為を中止する条理上の義務があり、かつ当該幇助行為を中止して著作権侵害の事態を除去できるような場合には、当該幇助行為を行う者は侵害主体に準じるものと評価できるから、同法112条1項の「著作権を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に当たるものと解するのが相当である。

(大阪地裁平成15年2月13日 (ヒットワン事件))

その他

侵害主体について判断されなかったケースとして下記の裁判例が存在します

被告は,本件土地宝典を自ら複製したわけではないが,①自己の管理監督する建物内の場所に,民事法務協会に対してコインコピー機を設置使用する許可を与え,また,②民事法務協会が不特定多数の第三者に本件土地宝典を貸し出し,本件土地宝典の貸出しを受けた者が違法な複製行為をすることを禁止するための適切な措置を執らなかったのであり,上記の各作為,不作為に過失があると評価されるべきであることは前記のとおりであるから,被告は,土地宝典の貸出しを受けて複製をした者及び民事法務協会と共に,民法719条2項所定の共同不法行為者として,原告らに生じた損害を賠償する義務を負う。

この点について,原告らは,被告が,著作権の侵害主体と評価されるべきである旨主張するが,被告に複製権侵害に関して民法719条の規定により損害賠償責任が認められる以上,この点についての判断を要するものではない。

(知財高判平成20年9月30日 (土地宝典事件))

参考資料

加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.
作花文雄. (2022年12月20日). 詳解著作権法[第6版]. 株式会社ぎょうせい.
小泉直樹他. (2019年3月11日). 著作権判例百選(第6版). 有斐閣.
小泉直樹他. (2023年6月15日). 条解著作権法. 弘文堂.
斉藤博. (2014年12月26日). 著作権法概論. 勁草書房.
中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.
文化庁著作権課. (日付不明). 令和5年度著作権テキスト.

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