条文
第十二条の二 データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。
データベースの著作物
2 前項の規定は、同項のデータベースの部分を構成する著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。
本条の概要
本条1項は、データベースが情報の選択または体系的構成によって創作性を有する場合、著作物として著作権保護することが明記されています。
本条2項は、データベースに収録されている情報が著作物である場合に、データベースの著作物の著作権保護が、 収録されている著作物の著作者の権利には影響を及ばさないことが定められています。
データベースの定義については過去の記事を参照してください。かいつまんで説明しますがデータベースの定義は情報の集合物であつて、それらの情報をコンピュータなどを用いて検索することができるように体系的に構成したものです。
データベースは情報の選択や分類整理を行っているため編集物の性質を持ちますが、昭和61年度の著作権法改正において、編集物にデータベースは含まれないことが明記されました。そして、編集著作物に関係している法12条とは別に本条が生まれました。
データベースはコンピュータなどによって検索するために、情報の体系づけをしたり、キーワードを付与したりしますので、編集著作物の「素材の選択または配列」とは異なる行為をしています。そのため、編集著作物とは別に「体系的な構成」という新たな文言を採用し、規定を新設しました。
また、編集著作物に近い性質を有するために、データベースの著作物に関する創作性や保護範囲は編集著作物と同様であるとする見解が通説です。
データベースの著作物の例
データベースが取り扱う「情報」は著作物でも非著作物でも該当します。ただし法2条の定義的から、個別の情報を検索可能にするための独立性が必要とされています。本条からデータベースが著作物として著作権保護されるためには情報の選択または体系的構成に創作性が必要です。
「本件データベースは, Xが, 日本国内に実在する国産又は国内の自動車メーカーの海外子会社によって日本国内販売向けに海外で製造された四輪自動車であると判 断した自動車のデータ並びにダミーデータ及び代表デー タを収録したものであると認められるが, 以上のような実在の自動車を選択した点については, 国内の自動車整備業者向けに製造販売される自動車のデータベースにお いて,通常されるべき選択であって,本件データベース に特有のものとは認められないから、 情報の選択に創作性があるとは認められない。」
(東京地中間判平成13年5月25日判時1774号132頁〔自動車データベース(翼システム)事件〕)
「そうすると,原告が費用や労力をかけて作り上げた原告CDDBに関して主張する保護されるべき利益とは,結局,原告が著作権法によって保護されるべきと主張する法的利益,すなわち,原告CDDBの情報の選択方針や,情報内容それ自体といったアイデアや抽象的な特徴,ないし表現それ自体でないものに基づく利益と異なるものではないことになり,それらの点が著作権法によっては保護されないものであることは前記判示のとおりである。 」
「データベースにおける創作性は,情報の選択又は体系的構成に,何らかの形で人間の創作活動の成果が表れ,制作者の個性が表れていることをもって足りるものと解される。 」
(東京地判平成26年3月14日 平21(ワ) 16019号 〔旅行業者用データベース事件第1審])
「タウンページデータベースの職業分類体系は、検索の利便性の観点から、個々の職業を分類し、これらを階層的に積み重ねることによって、全職業を網羅するように構成されたものであり、原告独自の工夫が施されたものであって、これに類するものが存するとは認められないから、そのような職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類したタウンページデータベースは、全体として、体系的な構成によって創作性を有するデータベースの著作物であるということができる。」
(東京地判平成12年3月17日判時1714号128頁 (NTTタウ ンページ事件])
「当該データベースが取引されると考えられる業界の状況や先行データベースとの関係等の制約から,当該業界で情報として必須とされる項目は限られてくると考えられるから,業界で通常必須とされる情報項目を設定したにすぎないような,多くの項目を含まないデータベースであれば,単に「アクセス」というコンピュータソフトを使用してその業界一般の情報項目を設定して情報を分類する体系を作成したにすぎないとして,著作物性を否定される場合もあり得よう。」
(東京地中間判平成14年2月21日平12 (7)9426号 〔新築分譲マンションデータベース 事件〕)
データベースに人間の創作性を有することに肯定的な判決も多く。他の著作物と比較しても著作物性に高い基準を持っているかどうかは考慮する余地があります。また、著作権法では創作的表現の保護を原則としていますので、データベースの著作物においては情報の選択や体系的構成が創作性の部分にあたり、情報の収集やデジタル化などを保護することを設定するのは困難になります。
データベースの著作物の創作性
データベースが著作権保護を受けるための創作性は情報の選択または体系的な構成のどちらかが認められれば十分です。
データベースの場合、情報の選択よりも体系的構成が創作性の基準になる事例が多いです。これは情報収集においてその選択は誰でも同じ結果になる場合が多いため情報の選択の方が創作性を認められることが困難だからです。
「タウンページデータベースの職業分類は、右(一)記載の一〇〇の職業分類を含む職業分類を小分類として、複数の小分類を包摂する中分類、さらに複数の中分類を包摂する大分類の三層構造となっている」
「タウンページデータベースの複数の職業分類をまとめて一つの職業分類とし、右の複数の職業分類に掲載されている電話番号情報を掲載して、複数の職業分類を包摂する職業分類名を付した部分は、タウンページデータベースの創作性を有する体系的な構成をもとにしており、複数の職業分類をまとめた点を除いては、独自に分類したというようなものではないから、この部分についても、タウンページデータベースの創作性を有する体系的な構成が再現されているということができる。」
(東京地判平成12年3月17日判時1714号128頁 (NTTタウ ンページ事件])
「原告データベースは,別紙図1のとおりの構造を含むと認められるところ,そのテーブルの項目の内容(種類及び数),各テーブル間の関連付けのあり方について敷衍して述べると,PROJECTテーブル,詳細テーブル等の7個のエントリーテーブルと法規制コードテーブル等の12個のマスターテーブルを有し,エントリーテーブル内には合計311のフィールド項目を,マスターテーブル内には78のフィールド項目を配し,各フィールド項目は,新築分譲マンションに関して業者が必要とすると思われる情報を多項目にわたって詳細に採り上げ,期分けID等によって各テーブルを有機的に関連付けて,効率的に必要とする情報を検索することができるようにしているものということができる。すなわち,客観的にみて,原告データベースは,新築分譲マンション開発業者等が必要とする情報をコンピュータによって効率的に検索できるようにするために作成された,上記認定のとおりの膨大な規模の情報分類体系というべきであって,このような規模の情報分類体系を,情報の選択及び体系的構成としてありふれているということは到底できない。」
(東京地中間判平成14年2月21日平12 (7)9426号 〔新築分譲マンションデータベース 事件〕)
ただし、体系的構成は認識が困難であることから、「アイデア」と「表現」を区別することについて判断が分かれることになります。また、データベースが情報の集合物であることだけではなく、体系的な構成による保護が認められることが重要であるとして、類似性の判断に情報が異なることを基準に入れることを疑問視する学説も存在します。
また、データベースの定義から、情報とは編集体系下の集合物であつて、個別に検索可能にすることが前提とされています。そのため、データベースを構成する要素自体は情報の定義に該当すると判断するのは困難です。
「eBASEserver」は,食品の商品情報を広く事業者間で連携して共有する方法を実現するためのデータベースを構築するためのデータベースパッケージソフトウェアであって,食品の商品情報が蓄積されることによりデータベースが生成されることを予定しているものである。そうすると,このような食品の商品情報が蓄積される前のデータベースパッケージソフトウェアである「eBASEserver」は,「論文,数値,図形その他の情報の集合物」(著作権法2条1項10号の3)とは認められない」
(東京地判平成30年3月28日 平27(7) 21897号平28(7)37577号 〔eBASEserver 事件〕)
データベースの著作物の保護範囲
データベースの著作物と認められれば、そのデータベースの全体の利用に対して侵害における類似性が肯定されると解釈することは問題ではありませんが、他方、データベースの一部の情報のみが利用された場合に侵害が成立するかが問題になってきます。この場合データベースの著作物の創作性の部分に注目し著作物を用いることがどのような場合かを明確化する必要があります。
データベースの著作物に修正または増減が行われた場合に、データベースに蓄積された情報を利用されている場合でも、情報の選択や体系的構成などのデータベースの創作性が異なっている場合が存在します。
そのため、目に見えて両者に共通する部分のみならず、両データベースを比較することによって情報の選択方針や体系的構成などの共通点を検討する必要があります。
「しかし,データベースの著作物として保護されるのは情報の選択ないし体系的構成において創作性を有するものであり,データないしレコード等それ自体を保護するものではない。そして,前記のデータベースが著作物として保護される理由,その著作物性の有無や複製及び翻案の判断基準に照らせば,例え,原告のデータベースと被告のデータベースとの間に情報の選択において共通点があり,その共通点において,原告データベースの表現としての創作性のある部分が一部含まれているとしても,両データベース全体を比較した場合に,その保有する情報量に大きな差があるため,情報の選択として創作性を有する共通部分がその一部にすぎず,相当部分が異なる場合には,もはや情報の選択においてその表現の本質的特徴を直接感得できると評価することはできず,また,原告のデータベースと被告のデータベースとの間に体系的構成において共通点があり,その共通点において,原告データベースの表現としての創作性のある部分が一部含まれているとしても,両データベース全体を比較した場合に,共通しないテーブル,フィールド項目が相当数を占め,また,それら相互間のリレーションの仕方にも大きな相違がみられるため,体系的な構成として創作性を有する共通部分がその一部にすぎず,相当部分が異なる場合には,体系的構成においてもその表現の本質的特徴を直接感得できるということはできないというべきであって,そのような場合,被告データベースはもはや,共通部分を有する原告データベースとは別個のデータベースであると認めるのが相当である。 」
(東京地判平成26年3月14日 平21(ワ) 16019号 〔旅行業者用データベース事件第1審])
「客観的にみて,原告データベース被複製部分のみをとっても,新築分譲マンション開発業者等が必要とする情報をコンピュータによって効率的に検索できるようにするために作成された,膨大な規模の情報分類体系といわなければならず,このような規模の情報分類体系を,情報の選択及び体系的構成としてありふれているということは,到底できない。」
(東京地中間判平成14年2月21日平12 (7)9426号 〔新築分譲マンションデータベース 事件〕)
参考文献
条解著作権法(小泉直樹他、弘文堂、2023年6月15日)
著作権法(第4版)(中山信弘,有斐閣、2023年10月30日)
著作権判例百選(第6版)(小泉直樹, 田村善之, 駒田泰土, 上野達弘 有斐閣、2019年3月11日)