著作権法第四十六条 公開の美術の著作物等の利用

条文

美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。

一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合

二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合

三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合

四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

第四十六条 公開の美術の著作物等の利用

本条の趣旨

本条は原作品が屋外の場所に恒常的に設置されている美術の著作物や建築の著作物について自由利用を認める条文です。

これは誰もが自由にアクセスできるような屋外の場所に恒常的に設置されているものに対して権利で制約してしまうと一般人の行動の自由を過度に制限してしまうため、一般人による自由利用を認める必要があるからです。写真や写生等で、他人により日常的に利用されており、それらにつき権利行使を認めることは、一般人の自由を過度に制限することとなるので妥当ではない(中山信弘,472頁)。

美術の著作物の原作品が,不特定多数の者が自由に見ることができるような屋外の場所に恒常的に設置された場合,仮に,当該著作物の利用に対して著作権に基づく権利主張を何らの制限なく認めることになると,一般人の行動の自由を過度に抑制することになって好ましくないこと,このような場合には,一般人による自由利用を許すのが社会的慣行に合致していること,さらに,多くは著作者の意思にも沿うと解して差し支えないこと等の点を総合考慮して,屋外の場所に恒常的に設置された美術の著作物については,一般人による利用を原則的に自由としたものといえる。

(東京地判平成13年7月25日〔はたらくじどうしゃ事件〕)

ただし著作権者と経済的に衝突する場合を考慮して本条の適用に例外(1号から4号)を設けています。

また47条の7の1項より本条の適用を受けた複製物の譲渡により公衆に提供することができます。

さらに48条1項3号より出所を明示する慣行があるとき明示する必要があります。

ただし、屋外に恒常的に設置している美術の著作物の複製物に対して本条は適用されないため、複製物だと分からずに屋外恒常設置の美術作品の写真を撮った場合は私的複製などの適用を除いて本条は適用されないことに注意です。

権利制限規定の対象になる著作物

美術の著作物

美術の著作物は、本条の利用行為の対象になる著作物です。「美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの」が対象になります。著作権法45条2項「街路、公園その他一般公衆に開放されている屋外の場所又は建造物の外壁その他一般公衆の見やすい屋外の場所」に恒常的に設置されている場合に限り権利制限規定が適用されます。

条文から原作品が屋外に恒常設置されている美術の著作物なら、その複製物も自由に利用できると解釈できます。また、屋外に恒常設置されている原作品を翻案した二次的著作物の利用行為も適用されます。その場合法28条で規定されている二次的著作物の原著作物の著作者の権利も本条によって制限されることになります。

一方、条文から解釈すると美術の著作物の複製物のみが屋外恒常設置されている場合本条は適用されません。

建築の著作物

建築の著作物も本条の利用行為の対象となる著作物ですが、美術の著作物とは異なり、原作品が屋外に恒常設置されていることは求められていません。そのため、複製物や屋内に設置されている建築の著作物も利用行為の対象になります。個人の邸内に設置されている五重の塔とか東屋のような一般公衆の観覧に供されないものであっても、本条による自由利用の対象となっていることに注意を要します。(加戸守行,387頁)

本条で適用されない著作物について

屋外の句碑や歌碑に刻まれている詩や楽譜。また屋外に恒常的に設置されている写真作品は該当しません。写真の属性から屋外設置作品からの複製であるかネガからの複製であるかの判別が困難であることの理由によります。(加戸守行,387頁)

本条で適用される利用行為について

条文には「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」と規定されていますので支分権の対象となるあらゆる利用行為全てが適用されます。

本条の対象外になる例外

1号

本号では彫刻を増製すること。またはその増製物の譲渡により公衆に提供する場合は本号に該当し本条の例外となり適用されなくなります。ここで彫刻といいますのは、図像を3次元的に表現した造形芸術でありまして、彫塑を含みます。(加戸守行,388頁)。従って、写真・映画・絵画等として複製・翻案し、またそれを譲渡により公衆に提供することは自由である。(中山信弘,475頁)

増製とは録音でも載せましたが、実質的に同一のものを作ることです。ここでは同一の彫刻を作成することを意味するでしょう。問題は新たに作成された彫刻が元の彫刻に創作性が加えられ二次的著作物に該当する場合はどうでしょうか。原作品と全く同じ作品を作る場合だけでなく、丸彫り彫刻を浮き彫り彫刻にしたり、原作品を変形した二次的著作物としての彫刻を作成する場合にも著作権が働きます。(加戸守行,388頁)。という見解もありますが本法の法2条での録音や録画などでの「増製」の用法から考えても本号には該当しないと解釈することが妥当だと思います。

2号

本号では建築の著作物を建築により複製すること。またはその複製物の譲渡により公衆に提供する場合も本号に該当し本条の例外となり適用されなくなります。法2条の複製の定義に建築の著作物は建築に関する図面に従って建築物を完成することとあります。つまり、ここでの建築の著作物の複製には既存の建築物を模倣して建築することだけではなく建築設計図に従って建築物を建築する場合の両方が含まれることとなります。

3号

 屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合は本号に該当し本条の例外となり適用されなくなります。これは美術の著作物だけではなく建築の著作物も対象になります。建築の著作物については、第2号で模倣建築が認められておりませんので、第3号が実質的意味を持つのは、屋外恒常設置を目的として建築の著作物のミニチュアを作成する場合などであります。(加戸守行,388頁)

 本条で自由利用が認められているのはなぜ美術の著作物に関して「原作品」に限定されているかというと、美術の著作物の原作品には展示権があるため、屋外への恒常設置のために著作権者の許諾が必要になるからです。そのため、美術の著作物の複製物や建築の著作物は展示権の対象にならないためこれらの複製物の屋外の恒常設置が著作権者の許諾無く自由に行われてしまい経済的損害が多くなるからです。そのためひとえに美術の著作物や建築の著作物の複製物が展示権の対象外であることが問題であり、代わりに本号の対象となる複製に関して権利制限規定の対象外にすることで解決を試みています。

4号

専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製すること。またはその複製物を販売する場合は本号に該当し本条の例外となり適用されなくなります。ここの典型例としては、写真複製、絵葉書、グリーティング・カード、カレンダー、ポスター、スライド写真という形で、屋外恒常設置の美術作品を写真に撮影して複製し、それを販売する場合でございます。(加戸守行,389頁)。ここでは特に「専ら」ということが重要です。

例えば、屋外に設置された美術作品を写真や絵画として複製し販売することは「専ら」に該当します。一方で、このような複製物に該当する美術作品の写真を芸術雑誌に掲載して販売する場合は、写真以外にも雑誌全体が他の要素を販売する目的も含まれていますので、「専ら」に該当するとは言えないでしょう。

 また美術作品の複製物が独立したグラビアの付録として雑誌に掲載され販売された場合、「専ら」に該当する可能性があります。上質紙によるカラー折込みグラビアのように、それ自体を独立した鑑賞目的のコピーとして販売する代わりに雑誌掲載の形態をとっているにすぎないという評価ができる場合には、該当する可能性はありますけれども、一般的には雑誌掲載は許されましょう。(加戸守行,389頁)。この場合は販売した美術作品のグラビア付録が主体でその他の雑誌の部分が販売の目的にはならないといった特殊な場合に限り本号が適用される場合があるでしょう。その判断は、当該書籍等の内容や目的、利用様態、材質等を総合的に勘案し、鑑賞目的であるのか、権利者の利益を不当に害するおそれはないのかという判断がなされる。(中山信弘,476頁)

確かに,被告書籍には,原告作品を車体に描いた本件バスの写真が,表紙の中央に大きく,また,本文14頁の左上に小さく,いずれも,原告作品の特徴が感得されるような態様で掲載されているが,他方,被告書籍は,幼児向けに,写真を用いて,町を走る各種自動車を解説する目的で作られた書籍であり,合計24種類の自動車について,その外観及び役割などが説明されていること,各種自動車の写真を幼児が見ることを通じて,観察力を養い,勉強の基礎になる好奇心を高めるとの幼児教育的観点から監修されていると解されること,表紙及び本文14頁の掲載方法は,右の目的に照らして,格別不自然な態様とはいえないので,本件書籍を見る者は,本文で紹介されている各種自動車の一例として,本件バスが掲載されているとの印象を受けると考えられること等の事情を総合すると,原告作品が描かれた本件バスの写真を被告書籍に掲載し,これを販売することは,「専ら」美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し,又はその複製物を販売する行為には,該当しないというべきである。

(前掲[はたらくじどうしゃ事件])

「太陽の塔」のような美的鑑賞性の高いと評価される建築の著作物は美術の著作物に該当し、その複製物の販売が専らの目的であれば本号より本条が適用されなくなる可能性があります。万博会場の「太陽の塔」のように建築作品ともいえるし、彫刻美術作品ともいえるような二面的解釈の可能な作品を市販カレンダーに入れる場合には、本号の適用があると解すべきでしょう(加戸守行,389頁)。その一方で太陽の塔を建築の著作物として評価するのであれば、その評価にあたっては、当然、その美的鑑賞可能な部分も考慮されているから、美的鑑賞可能な部分だけを取り出して改めて美術の著作物として評価して、同号該当とするのは疑問がある。(奥邨弘司,623頁-524頁)という見解も存在します。

引用文献

加戸守行. (2021年12月21日). 著作権法逐条講義(七訂新版). 公益社団法人著作権情報センター.

作花文雄. (2022年12月20日). 詳解著作権法[第6版]. 株式会社ぎょうせい.

小泉直樹他. (2019年3月11日). 著作権判例百選(第6版). 有斐閣.

小泉直樹,茶園成樹,蘆立順美,井関涼子,上野達弘,愛知靖之,奥邨弘司,小島立,宮脇正晴,横山久芳 (2023年6月15日). 条解著作権法. 弘文堂.

斉藤博. (2014年12月26日). 著作権法概論. 勁草書房.

中山信弘. (2014年10月25日). 著作権法(第4版). 有斐閣.

文化庁著作権課. (日付不明). 令和5年度著作権テキスト.

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